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アクト・オブ・ヒーロイズム  作者: こま
異世界から来た少女
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プロローグ

プロローグ


「ありがとよぉ」

 果物商人であるふくよかな男性から赤髪で短髪の青年は今回の仕事の対価である硬貨を受け取った。青年の腰には、柄に大きな丸い赤い宝石の埋め込まれている剣を携えている。青年の名をアクタという。アクタは掌に感じるずしりとした重みに口をにんまりとゆがませる。


「また縁があったらよろしく頼むよ」

 

 男性は手をあげアクタに別れを告げ、馬にまたがり荷車をひき去っていく。あたりには八百屋や肉屋など今日一日を乗り切った商売人達が疲れた顔で店じまいをしており、街道には帰宅に急ぐ人が行きかっていた。この街の駐在警備隊である魔術師がパトロールをしながら大通りの道沿いに設置されている街灯に炎の明りを灯していく。


 アクタは二日間ともに行動していた依頼人に目もくれず、勢いよく袋の紐をとき報酬の確認をした。今回の仕事内容は各町で果物の仕入れをし、売りわたっている商人からの依頼であった。隣街まで果物を運ぶ手助けと道中の護衛をしてほしいというものだ。途中で商品を売るために立ち寄る村で、重い果物を積み下ろししたり、道中に現れた5,6匹で群れをなしている中型犬ほどの大きさのウルフから荷物や商人を守ったり、決して楽な仕事ではなかった。


 「ちっなんだよー。重いから期待したのによー。銅貨ばっかりじゃねぇか。命がけで守ってやったてぇーのに、こりゃないんじゃねぇの」

 

 しばらく頭と両手を下げうなだれていたが、アクタは今夜の宿を探すために歩き出す。

 


 ここはエルメール国第2主都、ベルンである。首都フィリアスからは南東に山を二つほど超えた離れた場所にある。第2首都というからにはそれなりに栄えていて、フィリアスよりは規模が小さいが、時空石が大量に埋まっている時場がある。

 

 時場を説明するにはまず時空石の説明が必要不可欠だ。時空石とは時空の歪みが発生した際に、歪みのエネルギーが近くにあった石や木、木の実などに宿ったもののことを総称して言う。いわば“石”という器に入った“エネルギーの凝縮体”である。時空のひずみは頻繁におめにかかれるものではなく現れる場所や形は空の上から海の底まで大小様々で、現れたとしても一瞬にして消えることがほとんどだ。しかし時空石のそばでは比較的発生しやすいとされている。一つの時空の歪が現れ時空石ができ、そこにまた時空の歪みが現れ、時空石ができるというサイクルを長い年月をかけ繰り返し、大量に時空石が集まった場所のことを時場という。


 エルメール国はこの時場を中心に栄えた国で国内に大小5箇所の時場を所有している。ベルンは2番目に時場が大きく時空石の売買で栄えた大都市だ。時場がある都市には時空石保護のために駐在警備隊という、いわば警察のような役割を担っている兵士達が駐屯している。この駐在警備隊は一般人ノーマルが7割、魔術師が2割、医療魔術師が1割の割合で配属されている。


 この世界には一般人の他に魔法士と呼ばれる人種がいる。魔法士とは簡単に言うと魔力を持った人間のことだ。魔法士の中でも魔力量の高いものは魔術師になるものが多い。魔術師とは杖や剣などの媒介を通して魔法を扱い攻撃をしかけたり人を癒したりすることのできる者たちのことだ。媒介となるものは様々で剣や杖、弓、アクセサリーなど個人の使いやすいものを使用している。魔術師は媒介を通さなければ魔法をうまく扱えない。また魔力には属性が存在する。火、雷、水、風、地の5つの属性があり、1人1属性の魔力が宿っている。魔法士固有の職業は魔術師以外にもあるがここでは割愛する。



 アクタは媒介で剣を扱う魔術師だった。普通魔術師は自分たちの住む国家に仕え忠誠を示し働いていることが多い。魔法士、とりわけ魔術師は貴重な存在ゆえに国からもらえる報酬は好待遇だからである。例え戦う魔力はなくとも魔法士というだけで安定した職とある程度の地位が確保される。故にアクタのようにどこにも属することなく、用心棒や荷物運びなど町の人の依頼をうけて生計をたてる野良の魔術師は珍しかった。その珍しさと一般人よりも腕がたつことは間違いないとして仕事が絶えることはなかったが、賃金は依頼主の言い値なので、2,3日もすればお金が底をつきてしまう。なかなか懐が温まることはなかった。たまに羽振りのいい中級階級の商人を見つければ話は別だが……。


「今日は酒でも飲んで寝て休むかぁー、それにしても……これじゃぁ1日食って寝たら何にも残らねぇよ……」


 アクタは赤い瞳にうっすらと涙をにじませた。とりあえず寝床を確保しようと少しふるめいた木造の小さな宿屋に入って行った。


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