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目の前で下衆な笑みを浮かべているあるじ様に今までは感じなかった何かを感じた。
それは酷く支配しにくいもので自分の感情なのに他者のように荒れ狂う。だから遠くを見るように感情を殺す。その中で彼らに被害がないと願ってしまう。
そんな資格すら、ないというのに。
彼等と居た場所から随分と遠回りをして2日かけて、鳥籠に戻ってきた。
あそこには、あの温かな場所にはもう帰れない。門の前で少しばかり魔力を翳すといとも簡単に門は開いて中にあるじ様がたっていた。
周りには武器を手にする私兵達が私を取り囲む。もう逃げないのにと思うけれど中々人の心は読めない。
「よく、帰って来たな」
あるじ様は勝ち誇った笑みを浮かべて私を見て捕まえろと命じる。
ひどく滑稽な絵だと自嘲してしまう。ここにいれば何もかも失う気がしてキトを頼って出たのにまた自分から失うために戻ってきた。なんと、馬鹿馬鹿しく愚かなモノだろうか。
「これから純潔でないお前を世話するんだ。奉仕してもらわないとなぁ」
にやりと舐めまわすように私を見た後屋敷へ戻っていく。
わざわざ外で出迎えたのは念押しするためだけなのか、と笑いたくなる。どれだけ欲に塗れたひとなのだろう。
あるじ様が屋敷へ入ると外にいた執事に私も入れと言われる。元々使っていた部屋に押し込まれて後で侍女をやるとだけ言われて扉を閉められる。扉の前に兵を立たせている。抜け出したらわかるようにだろう。もうそんな意思なんてないのに。
でも__、と彼等に思いを馳せる。
もう会うことはないとわかってはいても片隅では彼等の安否を憂いて一人一人の顔を浮かべて思い出を刻む。
「どうしようもないほど、馬鹿だ」
呆れた声色で自らを嘲笑う。
そっと、呟いて窓越しに外を見る。
先ほどまで明るかったのに、もう日が傾いて来た。
夜の帳が下りるまであと少しばかり___
空虚な瞳は何も写してはおらず、ただ闇を見据えている。
ノックの後に侍女が3人部屋に入って来て礼をとる。
「月白さま、ご準備をお手伝いいたします。」
「あぁ、そんな時間」
月白、あるじ様以外が私を呼ぶ時の名。立ち上がると彼女達は籠の鍵を外し私を連れ出す。彼女らはいつもの通り、何も違わない手順で私の準備を手伝う。
風呂に入り香油を髪に塗られ、身体にも同じ香りを塗り込まれる。以前独りで出来ると言ったが旦那様の言い付けですので、と有難くもない手伝いをしてくれる。風呂から出ると水分を取り部屋着をきて鏡台の前に座り、あとはされるがまま。
化粧を施し座れば床についてしまうほどの長い髪を裏で編み込みにして腰までの長さにすると毛先を銀糸を使った布で結ぶ。それら全てが終わったら踊り子の服に着替える。
次第に星が瞬き月が輝きを放つ。
「月白さま、お時間でございます。」
大きく息を吐いて閉じていた瞳を開ける。そして、 私は自らを粛する為に立ち上がった。




