1
コトリ、と何かが開く音がして
ある月夜の晩に泥棒がやってきた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
籠の中から見上げる月は無情にもただ私を照らすだけ。
日頃あんなにも貴方の下で舞っているのに、哀しくなる。
そもそも、私は__
カチャン、
そこまで考えて鍵の開く音で思考が中断する。
あるじ様はもう眠ったはず、なんで鍵が……
この家の主で、私のあるじを思い浮かべて少しだけ縮こまる。
ぎゅっと自分で自分を抱きしめて耳を研ぎ澄ませる。
いつでも魔法を放てる準備をして。
「わ、まじで鳥籠かよ。悪趣味だな」
今まで聞いたことのない、声色が耳をくすぐる。
なんで、と思った瞬間に小さな光が私を照らした。
「っ誰だ!」
声の主__、彼は真っ黒な瞳をまん丸にして私を見ていた。
「あ、なたこそ、だれ」
恐怖からなのかはたまなよくわからない感情からなのか。
それが私を震えさせる。
彼は少しだけあたしを警戒しながら
「泥棒だ」
「ど、ろぼ、う」
小さな声で繰り返す私に彼は訝しげな視線を送ってくる。
「__ここじゃ、ないか。」
何かを探すように一蹴したあと彼は部屋を出て行こうとする。それを見て私の中の何かが、外れた。
「待って!行かないでっ!貴方が泥棒ならっ、
__私を、拐って!!」
「黙れっ!家主に聞こえたらどうすんだ。」
冷たくなにを考えてるのかわからない視線が私を射抜くけれど、引き下がらない。
もう、ここにいるのは苦痛でしかないの。
「お願いっ!助けて、私を拐って!!」
檻の柱に縋って必死に彼に手を伸ばす。形振りなんて構っていられない。とにかく、彼に見捨てられたら私は__!
涙で見えなくなった視界が何処を映しているのやら。
がちゃん、と一際大きな音を立てた南京錠は床に落ちて、扉が開いた。
「__ほら、こい。」
ぼやけてはっきりとした彼を見ることが出来なかったけど、差し伸べられた手に向かってゆるゆると手を伸ばすと焦れったい、と一言漏らして私の手を力強く引いて。
ぽすん、と彼の胸元に顔が当たった。
と思った次の瞬間に、視界はグルンと回転して私は彼の肩に担がれていた。
「え、」
「しっかり、捕まっとけよ。」
ぶっきらぼうだ、と思った瞬間彼が侵入してきたバルコニーの手すりに足をかけると、そのまま__
「ひ、やぁぁぁあああああ!!」
「るさい、黙れ。」
飛び降りたのだ。
夜の、街に向かって。
「っぁ」
思わず魔法を使ってしまいそうになってしまったけれど、慌ててこらえる。
けれど、もしもの時のために__
掌に小さくチカラを集めて、何時でも詠唱出来るように構えていたら、チラリと彼は此方を見て素早く言い放った。
「口、とじとけよ。」
腰に回る腕に力がこもったと気づいた数秒後
「っぅく!!」
ドン、とお腹に鈍い痛みが走った。痛みというよりは衝撃というのか、正直吐きそうになる。
「すまない。」
彼は一気に顔色の悪くなった私を見て一言謝ると、いきなり猛スピードで走り出した。
着地した場所が雑木林の辺りだったのだろうか、微かに匂う雨の匂いと植物の独特の香りが鼻を通る。
彼がどこに行くのかも。私をどこに連れて行くのかもわからない。
だけど、不思議と恐怖はなかった。




