迷い込んだ創造主
ないよぉ
――美少女が居る。
さっきまで、藤堂先輩が居たこの美術室に、今は俺と『謎の美少女』が、
互いを見つめ合って、佇んでいるだけだ。
「うわぁ……」
先に口を開いたのは、美少女のほうだった。
「……は?」
その言葉に続き、俺も口を開く。
「ニンゲンらしい顔してるわぁ……」
「に、人間なんだから当たり前だろ!」
美少女はアゴに手をあて、俺の全身を舐めまわすかのように目だけを動かす。
正直、今になって気づいたことだけど、美少女の背丈は俺とほぼ変わらないが
目が赤く、髪の毛も若干赤い。
コイツは日本人なのか……?
「ところで君さ……」
美少女は目を動かすのをやめ、まっすぐに俺を捉える。
「なん……だ?」
おれは少し後ずさりながら、美少女の話に耳をかたむける
「…………」
美少女は再び黙りこんで、俺を凝視しはじめる。
そのかん、およそ五秒。俺が状況整理するには、十分なじかんだった。
「……私をかくまってくれない?」
と、美少女は言った。
もちろんその言葉を理解するなど、俺にはできない。というかしたくない。
頭が真っ白になる。
困惑していた俺を差し置いて、美少女は言葉を続けた
「追われているの。仲間内なんだけどね」
追われている……? 仲間内……?
その言葉だけを聞いたなら、まるで『組織から逃げ出してきたヤクザ』
みたいな設定がうかびあがってくる。
コイツ……ヤクザなのか……?
そのタイミングで、一歩踏み出した美少女を見た俺は「く、くるな!」と、
美術室に響く程度の声で、美少女をいかくした。
それを聞いた美少女は、「ちょっと! 大声出さないでよ!」と言いながら、
俺との距離を詰めてくる。
――いったいなんなんだコイツは。
足がもつれ、俺は尻餅をつく。
俺が急に倒れたせいか、俺の肩に手をついていた美少女が体勢をくずし、俺に
倒れこんできた。
パチリと目が合う。その距離わずか五センチ。鼻息が顔にかかる距離だ。
俺の胸辺りに感じる柔らかい感触。
俺の股の間に感じる柔らかい感触。
俺の唇に感じる“柔らかい”感触。
――これがもし、偶然だったならば
――未然にふせげたのだろう。
――しかしこれが、“必然”だったならば
――俺はとんでもない世界へと、導かれたんだろう。
ないっす!!