迷い込んだ創造主
プロローグのみ、まえがきは無しとさせていただきます。
「たしか……筑波は美大を目指しているんだよな?」
「は、はい。一応……ですけど……」
俺がこの部に入部した時、藤堂先輩に「進路は決まっているのか?」と聞かれ、
「美大を目指してます」と即答したことがあった。
その時は、美大の競争率とか深く考えてなかったし、「行けたらいいな」なんて、
生半可な気持ちで居たんだ。だけど、今となっては、本気で目指している。
「だったら――」
そう言って、藤堂先輩はズボンのポケットから一枚の紙切れを取り出し、
俺に差し出した。
「これ……」
「見に行ってこいよ。今回の展示会は美大の学生が描いたものもあるし、いい経験になる」
「えっ……!? いいんですか?」
差し出した紙切れには、「美術展示会入場券」と書かれている。
どうやら嘘ではないらしい。
「ああ。楽しんでこい」
「あっありがとうございます!」
俺は左手でチケットを受け取り、表面をまじまじと見つめる。
その様子を見た藤堂先輩は、ニカッと口角を上げた。
――素直に嬉しい出来事が起きた。
今すぐにでも『ツベッター』に書き込みたい程の出来事だ。
「――その、なんだ……すまなかった」
「……え?」
「いや、変なこと聞いてしまった詫びと思ってくれ……」
「あ……」
藤堂先輩の顔が一気に曇っていく。
自分自身、あまり気にしてなかったせいか、藤堂先輩の心情の変化に気が付かなかったのかも
しれない――いや、気が付かなかった。
「お前のプライベートに首突っ込む気はなかったんだ……」
「いいですよ。全然気にしてませんし」
俺は一拍子置いて、「それに」と言葉を続けた。
「コレ貰っただけで、全部許せちゃう気がするんです……」
「筑波……」
本当は許しちゃいけないことなのかもしれない。
自分のプライベートを侵害されたのかもしれない。
精神的ダメージを食らったのかもしれない。
けど。それでも。
俺がコレを貰った以上、許さない訳にはいかない。
藤堂先輩はそれを願っているのだから。
なっしんぐ☆