迷い込んだ創造主
この小説をご覧になる際、注意点とさせて頂くことがいくつかございます、が。あまり関係ないので書き込みません、テヘペロ☆
小説本文
プロローグ 迷い込んだ創造主
「この絵は嫌いじゃないな」
俺の背後から声を発したのは、一学年上の先輩であり、同じ美術部で部長を務める・藤堂先輩だ。
藤堂先輩のアドバイスは好きだけど、こうして褒められるのも、案外悪い気持ちにはならない。
素直に、俺は褒められるのが嬉しいと感じた。
「ありがとうございます、先輩」
礼を言った後、残り少ないレモンイエローの絵の具を、少量の水で溶かした。
「……なあ、筑波」
「えっ」
俺が驚いたのは、めったに名前で俺を呼ばない先輩が、名前で俺を呼んだことだ。
「なんだ? そんなに名前で呼ばれることが珍しく思ったか?」
「そりゃあ……、いつもは『後輩!』って呼ばれていますし……」
「はっはっはっ、まあ気にすんなって」
そう言って、藤堂先輩は俺の背中をバンバンと叩く。
「それにしても……筑波……」
改めて、本題に戻ったと言わんばかりの空気が、俺の不安を煽る。
――限りなく、朗報ではないだろう。
朗報を言う顔じゃないのも、俺の心に引っかかる。
――何を言い出すんだ
様々な案を巡らせる前に、先輩の口から答えが飛び出た。
「……教えてくれないか? どうしてお前の『右腕』がないのかを」
――また、その話か。
藤堂先輩が何回も聞いてきた訳じゃないけど、同じような質問を、幾度となくされてきた。
時には同じクラスメイトから
時には公園で遊ぶちびっ子から
時には自分でしたり
もう飽きた。というよりは、逆に何故、俺の右腕がないのかを俺自身が分からなくなってきて、
本当にどうしようもないことになっている。
だからいつも、テキトーにはぶらかして、無理矢理違う話題に持って行くんだ。
――だって理由が分からないんだもの。
「幼い頃に、なくしてしまって――ところで先輩! 明日の展示、見に行きますか?」
「あ、ああ……」
強引ながらも、なんとか話題をそらすことに成功した。
これがいつもの回避法で、時に変わったりすることもある。
「俺も行こうかなあ……」
「入場券いるぞ? 持ってるのか?」
「入場券要るんですか!? 知らなかった……」
「それじゃあ無理か……」と呟きながら、俺は細筆に手を伸ばす。
手にとった細筆の先に、さっき溶かしたレモンイエローの絵の具を付着させ、まだ何も描かれていない
白色の部分に筆を立てる。
手が震えている。
先輩から聞かれたことを、軽く流したのは自分。
だけど、それ相応の痛みがあるのも自分なんだ……
キャンバスの横に置いた鏡越しに、先輩の様子を伺うと、ものすごく苦い顔をして、
俺の右肩に視線を集中させていた。
――同情してくれているのだろうか。
それ以上先輩の表情から見出されるものはなく。
しかし、それを嬉しく思った自分が憎らしくて、奥歯を噛み締めた。
続きは随時更新予定となっております