二人の家の山吹色
いつものように学校から帰る…その日は雨だった。
「あ〜あ 私ともあろう者がなんで傘を忘れたのかな?」
嘆く私
「あんただからじゃない!」
ツッコミを入れる親友の理香
「うわっひどい! 私の心が全治八ヶ月の大怪我だよ どうしてくれる?」
「……………」
「ってシカトかよ! 知ってるかい? いじめってやつの最初は無視からだって」
「あぁもう分かったから 私の傘に入れてあげるから少し黙りなさい」
「しょうがない、まぁそれもいたしかたないか」
「嫌ならいいけど」
「めっそうもない そのお誘い、喜んでお受けいたします」
「よかろう わらわに付いてこい」
「御意!」
私は理香と居る時間が一番好きだ。
学校の授業なんて暇なだけでちっとも面白くない。
その点、理香は面白い。
昨日なんか女なのに電車の中で……
「ねぇ春菜」
「はいっ!!何でしょうか?」
「帰りにコンビニ寄らない?」
「えっドラマの再放送に間に合わ……」
「行かないの?」
「行きます!てか行かせてください。」
理香に逆らうのは得策ではない。
素直に従っておくのが無難だ。
しかし、このタイミング…狙ってるとしか思えない。
「敵にしたくないタイプだな」
「あれ春菜? 今、何か言った?」
「いや、なにも!」
「アレ?そう…」
「…………?」
どうしたのだろうか?理香の様子がおかしい…
「どうかしましたか?何か変ですよ理香さん」
「そ、そう?」
「うん」
「じゃあさ、よく聞いて一度しか言わないから」
急に小声になった
「落ち着いて聞いてね……私達、誰かに付けられてない?」
「えっ うそ!」
思わず後ろを振り向きそうになったが理香に止められた。
「バカ!なにやってるのよ?」
「すみません。」
理香が黙った。
そのせいで私が理香と喋ることができなくなった。
何と忌々しいストーカーだろうか。
慰謝料を請求したいくらいだ。
しかも、どうせ理香狙いなのだ、理香はモテるからな本当に大変だ。
そんなことを思っている間もストーカーさんは付いてきている。
心なしか近づいて来ているような気がする。
さすがの私にも緊張感がはしる。
ゆっくりとだが確実に近づいて来ている。
理香の方を一瞥するが、理香は正面を向いて凛としている。
さらにストーカーさんは近づいて来くる。
そしてその時が来た。
「あの〜すみません。」
なんと弱々しい事か、普通ストーカーならもっと強引にくるのではないのか?
いや待て!もしかしたらこれが作戦なのかもしれない。
私達が油断したところをガバッと来る気なのか…
間違いない、これが今ストーカーさんの間で主流なんだ。
理香は私が守ってみせる!悪いがストーカー お前達の手の内はもうバレている。
さぁどっからでもかかってこい!
私と理香は同時に後ろを向いた。
顔を確認する。
ストーカーのくせに色白でなかなかの美形だった。
しかもうちの学校の学ランを着ている。
でも知らない奴だ。
「なにかご用ですか?」
理香が言った。
「あの 俺は西沢健一って言います。これよかったら良かったら使って下さい。」
そう言って西沢は山吹色の傘を差しだしてきた。
なぜ山吹色なのかは、私が知るはずもない。
「後、春菜さんにお話しがあります。」
何ですと!私に話がある?
……なるほど、将を射るには先ず馬からという訳だな!
辺りに静寂が流れる。
「なによ?」
私は答えた。
「初めて見た時からずっと好きでした。 俺と付き合ってください!」
…驚天動地だ、どうやらストーカー西沢は純粋に将ではなく馬を射るつもりらしい。
だがどうする?何て答えればいいのだろう?
なんせ告白されたことがないし、今までそんなこと考えてもみなかった。
「ほら、春菜 何か言ってあげなよ」
理香の顔がにやけている。
「な、なんて?」
「友達からでいいならって答えるんだよこういう場合は」
モテる理香が言うのだその通りなのだろう。
「じゃあ、友達からで良いのなら」
そう言うと、ストーカー西沢は山吹色の傘とポケットから出した紙を私に渡して走り去って行った。
紙にはストーカー西沢のメールアドレスと携帯番号がしっかり書いてあった。
何とも用意周到な奴だ。
きっと西沢の座右の銘は『備えあれば憂い無し』だろう。
「西沢君の事、どう思うの?」
理香が私に聞いてきた。
「何て言うか…面白い人」
私が答えた。
あの時借りた山吹色の傘は返す事はなく、今でも家の傘立てに少し埃をかぶりながらも、ちょっと誇らしげに刺さっている。
正確には返す必要が無くなったと言うべきか………
【END】
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