Letter.2
きみのことを最初に知ったのは、そう……
5年前のこと。
「ねぇ聞いて! あたし彼氏が出来たぁ!」
「うっそ、誰々?」
「んーとね、バイトの先輩なんだけど、もう超カッコよくて!」
いつものノロケ話。
あたしたちのグループは大抵窓際の後ろにたまっていた。
夏の日差しが、話す彼女の横顔を焼き付ける。
あたしの定位置は決まって親友の右隣。
勢い込んで話す友達の話に耳を傾けながら、時折、微笑んだ。
あたしが飽きてきたのに気付いたのか、親友はあたしに笑顔を向けたんだ。
「ね、イイコト聞きたい?」
あたしだけに聞こえるように、小声で。
ずるい、と思った。
そんな言い方されたら、聞きたくなるに決まってる。
普段は嫌われないように努力してるあたしでも、親友になら素で話せた。
だからこそ、この時だって。
「なに? 教えて」
自称引っ込み思案なあたし。
いつも聞く側のあたしの精一杯の意思表示。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
輪を作っていた友達に声をかけた親友。
え、焦らしといてそれ?
って思ったけど、親友はあたしの腕をにこやかに掴んだ。
「二人じゃないと話せないでしょ?」
例によって、あたしにしか届かない声。
親友は人の心にスッと入っていくのが得意だ。
あたしと違って。
トイレ……を過ぎ、屋上に続く階段を二人で上る。
確か屋上に行くのは禁止されていた筈なのに。
なんていう疑問はすぐに解決。
屋上に辿り着くまでもなく、階段の踊り場で立ち止まった。
埃っぽい空気が、秘密って感じを醸し出してる。
親友はあたしを振り返り、イタズラっぽい笑みを浮かべた。
あたしより小さい背を伸ばして、あたしの耳に顔を近づける。
「近いって」
「いいの。誰か聞いてるかもしれないし」
「そんなわけ……」
ないじゃん、といいかけたあたしの隣を、社会科教師が通り過ぎる。
ほらね、とでも言いたげに笑った親友は、再び背伸びをする。
「あのね……」
「うん、なに?」
「あたし、」
彼氏が出来たんだ。
って、聞こえた気がした。
あまりに響きが軽すぎて、耳を素通りしたらしい。
「……は?」
「だからぁ。彼氏が出来たの」
やっぱり、聞き間違いなんかじゃなかった。
羨望よりも何よりも、先を越された、って思った。
何でだろう。
あたしなんかより、親友の方がモテるってことは分かってる筈なのに。
何でも一緒にクリアしてきたから、なのかな。
産まれたときからずっと一緒だったのに。
僅かな違いのように見えるけど実はその奥に潜む大きすぎる違い。
「あ、信じてないでしょ。写メ見せてあげる」
目の前に親友のケータイの画面。
確かに親友が一目ぼれしそうな外見の男。
悔し紛れに、この男の顔でも覚えててあげよう。
「どこの人?」
「他校なんだけどね、ほら、あの南高校なんだって」
「ナンパってやつ?」
「違うよぉ、ちゃんと知り合ったの」
ちゃんとっていうのがどういうのか、あたしには想像もつかない。
別に羨ましいんじゃない。
不思議なだけ。
恋って、そんなに容易くしてもいいものなんだ。
って、この時はまだ他人事だったんだけど。
えーと。2話目。
読んでいただきありがとうございますっ!