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補助用文身魔法

 ウィルが扉をノックすると、中から気の抜けた返事が聞こえた。

 部屋に入ると、そこにはやる気のない部屋着姿のまま、本を捲るレインがいた。だが、何よりウィルの目を釘付けにしたのは、彼女の銀髪だった。薄暗い室内で、その髪だけが自ら発光しているかのような神秘的な輝きを放っている。


「どうしたの」


 ウィルの視線に気づいたレインが首を傾げた。


「その髪……」


「ああ。うちの家系はみんなこうなんだよ」


 レインは目を細めて短く笑うと、机の上の羊皮紙を指し示した。


「それはともかく、良い時に来たね。丁度設計し終わった所だよ」


「……うん」


 喉が震え、勝手に声が上ずる。腕を握りしめた。レインはその様子を見て少し微笑んだ。

 「逃げたり暴れると思ったけど、偉いね」

 

「アンタの手間が増えるだけだろ」


 ウィルはどうにか返したが、彼女は何がおかしいのかクスクスと肩を揺らした。


 「まあそうなんだけどね。良い子はちゃんと褒めないと」


「じゃあ、上を脱いでソファーに……仰向けになって」


「? なんで今、迷ったんだ?」


「今回はそこまで大きくないからね。大きいキャンバスは取っておかないと」


 ウィルは自分の体をキャンバス呼ばわりされることに複雑な思いを抱きながらも、促されるまま横になった。レインの細い指が首筋に触れる。あの、意識を強制的に刈り取る術の予兆だ。今回は力が入らないようにでもするのだろう。


「……それ、やめて」


 ウィルは反射的に彼女の手首を掴んで止めた。レインはきょとんとした顔でウィルを見つめる。


「動かれるとやりづらいんだけど。ウィルも痛いの嫌いだろう? 君の為だよ」


「……俺の体は、俺の物だから。勝手に弄るのはやめて欲しい」

 

 レインは眉を寄せ、口を開いた。


 「でも、私の方が先達だから君に適している方陣は私が分かっていると思うよ。そもそもこれは汎用的だからどん……」


 「最後まで聞いて」


 レインの言葉をウィルは遮った。


「アンタに理屈があってやってるのは分かってる。俺には細かい理屈は分からないし。だから嫌だけどいろんな意味で拒否はできない」


 ウィルは息を吸い、吐き、レインの目を見つめて続けた。


「だから、理屈じゃない所は好きにさせて欲しい」


 レインは数秒、考えるように天井を見た。首を傾げる。


「こうした方が楽だろうって、先回りして決めないで欲しいって事かな?」


「うん」


 レインは頭を掻き、眉を顰めながらも言った。


「分かった」

 

 はっきりとした返事だった。

 それからは、兎に角痛かった。


 魔力回路を定着させるための針は、裁縫用のものよりずっと太く、皮膚を貫くたびに鋭い激痛が走る。


「痛っ……あ、いたい!」


 じっとしていられず、ウィルはソファーの上で身悶え、叫び声を上げた。レインは片手でウィルの体を押さえつけ、冷徹な手つきで針を運び続ける。


「面倒くさい、面倒くさい……」


 口ではそう毒づきながらも、レインは最後まで約束を守り、ウィルの力を奪う術は使わなかった。


 視界が涙で滲み、脂汗が全身から噴き出す。針が通るたびに肉が爆ぜるような感覚が伝わってくるが、こんな事ならやっぱり麻酔してとでも言った方がよかっただろうか。と冷静な部分が訴えた。

 

 終わった頃には、ウィルは脱け殻のようにソファーに沈み込み、荒い呼吸を繰り返すことしかできなかった。

 ただまあ。自分の要求がレインの意見を覆した。あるいは尊重してもらった。とにかく悪くない気分だった。

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