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黄青埼侑は平穏にくらしたい(3)


 幼稚園のけん玉大会でさえ勝ちを譲らなかった美鷹(よしたか)の完璧主義はあの頃から健在なようだ。

 祖父母から受け継いだ器用さと根気強さが幸いし、園では負け知らずだった俺にとって、あの決戦は今も忘れられないものとなっている。

 

 勝敗や成績に関係なく褒めてくれる叔母、真里花のあけっぴろげな包容力は俺の自己肯定感を形成してくれた。

 放任しているようで、必要な時は寄り添ってくれる母の優しさにいつも支えられていた。

 母方のルーツしか知らなくても、与えられる愛情や関心に欠けはないと誰に対しても証明できる。


 クラスの目立たない男子生徒。

 記憶の中に薄れていくような存在でありたい。

 応えられないのに求められてばかりいる人気者に対して抱くのはあこがれでも妬みでもなく、お疲れ様の気持ちだけだ。

 勝手に推されて、誰かの拠り所にされるのはただ面倒なだけだと俺は知っている。


 その明るさと人懐っこさで皆の輪の中心にいる小薗。

 市内トップレベルの高校を選ばず奏美を受験し、おそらく満点に近い成績で首席合格した美鷹。

 誰もが特別視するこいつらとはウマが合うはずもない。

 

 イメージ通りの嫌味っぽい笑みを浮かべた美鷹は、小薗の耳を力強く引っ張った。


「頭に花でも咲いてるのなら引き抜いてやろうか? ふぬけた惚け顔を人前にさらすな」


 痛いってと訴えはしても小薗は、美鷹に反撃などしなかった。

 一人メンバーを捕まえたくらいで楽観視するのはまだ早い。美鷹の意見は間違ってないが、対応があまりにも雑である。


「……サクちゃん、何でオレに冷たいワケ? もしかしてヤキモチ?」


 言葉によるツッコミではなく、いきなり額を指で弾いた美鷹の塩対応にも小薗は動じない。

 信頼関係がなければ成り立たないであろうコミュニケーションに口は挟まず、俺はモブ男子として状況に合わせた。


「前に小薗からもらったチラシには活動内容くらいしか書いてなかったんで、どこに集まったらいいのか教えてもらっていいですか?」


 個人間のやり取りならスマホの連絡アプリが早いのだろうが、校内での使用は原則禁止である。

 入学時に貸与されたタブレットにも回覧板方式のメッセージツールは入っていたので、今後はそれを利用していくのかもしれない。


「……あのチラシは、作成中で情報を入れていなかったポスターを小薗が勝手にプリントアウトしたものだ。活動内容の詳細は学校へ申請した時のものがあるから、あれの構成を変えて黄青埼(きせざき)にも一部渡しておく」

「美鷹さんと小薗がいるなら、ポスター貼っておくだけで入りたい生徒が集まると思いますよ。手渡しのチラシの方が効果的ですけど、配ってた割にはみんな話題にしてなかったので」


 いきなり助言されたら、気を悪くするタイプかもしれない。意見を述べた後、美鷹の反応をうかがうと何故か俺をじっと見つめていた。


「小薗と俺は同級生なんだが?」

「え、……あ、それは知っています」

「俺に対して言葉遣いを変えるのはどうしてなんだ?」


 えー、だって美鷹は近寄りがたい感じあるしー。

 とは言えず、俺はかわいい新入生を演じた。


「美鷹さん、しっかりしてそうだし大人っぽいからなんとなく……。タメ口で問題ないなら、あらためましょうか?」

「君の見た目に、その口調は似合っているな」


 美鷹の目にはモブというより雑魚に見えてるということだろうか。

 どの角度から鑑賞しても美形なヤツに言われても腹は立たない。俺は身の程をわきまえている。


「じゃあ、このままで。俺、5月生まれなんで美鷹さんより年上になるの早いかもしれないですけど」

「残念だな。俺は4月生まれでもう16だ」

「先輩っぽく見えるっていう俺の直感、ちょっとすごくないですか?」


 賢い相手との会話というのはラリーのようで面白い。舞台劇のようにかけ合いが続いていく。

 ハブられていると感じたのか、小薗が自分の存在をアピールしてくる。


「オレは11月25日!」


 あ、そう。だから何? と言ってやるのは悪手である。

 円満で潤滑な人間関係を尊ぶ俺は、小薗の気質を理解して快く輪に招き入れる。


「意外かも。小薗って獅子座って感じだから、夏生まれって感じなのに」


 関心を持ったフリなんて容易い。小薗は俺の狡さや計算を知らなくていい。

 テヘッという効果音がつきそうな笑顔をアイドル的存在がやったなら面倒事が起きるが、俺の外見偏差値は高くないので実践しても問題はない。

 好意(仮)の星を飛ばしてやると単純な小薗はうれしそうにする。

 

「獅子はああ見えても猫科だ。黄青埼はさっき、こいつを犬に例えてなかったか?」

「そうですね。でも星座の中じゃ、獅子座っぽくないですか?」

「考えたことはないが、直感で選ぶなら蟹座という感じがしないか?」

「あ、それもなんか合ってる気がしますね。さすがです、美鷹さん!」

「何でオレをハブってそこが盛り上がんの!? サクぅ、お前アシストはどうなってんだよ!」


 いじけてしまった小薗を美鷹は哀れむような目をして見る。普段の澄ました顔も絵になるけれど、こういう表情の方が魅力を増す。

 まあ、とにかく何をしていてもこの人は綺麗だ。




 

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