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65話 突破の鍵


蒼帝は玉座に身を預け直し、静かに陽たちに視線を向けた。


「まずは、アクエリアス深層部に突如現れた魔物について話そう。」


空中に展開された魔法投影に、都市地下の構造が浮かび上がる。

幾重にも入り組んだ水脈の下層、その深部に、異質な魔力の反応が確認されていた。


「発見された魔物は――言葉を話した。」


その場に、驚き混じりのざわめきが広がる。


「魔物が言葉を持つ事例は極めて稀だ。そして、やつはこう言った。

――**“ウルニス迷宮”**と。」


蒼帝は言葉を区切り、しばし静かに間を置いた。


「“ウルニス迷宮”に何があるのか、我々にも正確なことはわからない。

だが、それがただの狂言ではないと判断し、さらに調査を進めようとした。

……しかし、奴の張った結界により、それ以上近づくことができなかった。

魔物の存在は確認できても、接触も観察もできない状況だ。」


そして蒼帝は視線をカイへ向ける。


「だが、それと同じ時期に似たことを口にした者がいる。

――それがカイ、この者だ。」


カイは壁にもたれたまま腕を組み、ゆっくりと頷いた。


「ああ。数ヶ月前、ちょうどリミットブレイクの修行で“ウルニス迷宮”に行ったことがあってな。

……その時に感じた波と、今アクエリアスの地下水路から漏れている魔物の“波”がそっくりだったんだ。」


蒼帝は重く頷いた。


「つまり――今回の魔物の出現、“ウルニス迷宮”という存在、ベオリアの砂漠化や迷宮の不安定化。

これらには、明確な繋がりがある可能性が高い。」


蒼帝の言葉は、空気に緊張を走らせる。


「魔物が現れ、水路が閉ざされ、土地が干上がる。

異なる地域で起きている現象が、一つの“源”に繋がっているとしたら……

ウルニス迷宮が不安定である今、魔物の調査――必要に応じて討伐するべきだと私は考えている。」


沈黙が落ちる中、蒼帝は次の話題へと進んだ。


「次に……**影の組織“オブシディアン”**についてだ。」


その名を聞いた瞬間、場の空気が冷たく引き締まる。


「君たちの中にも、過去に奴らと遭遇した者がいるだろう。

我々も同様に、あの者たちと接触した経験がある。

……だが、黒幕の正体はいまだ掴めていない。」


魔法投影が切り替わり、黒いフードを被った者たちの影が浮かび上がる。


「奴らは皆、闇属性の魔法を扱う。

“幻影を見せる者”、“重力を操る者”――その力は常識の範囲を超えている。

彼らが活動を本格化させたのは、神ゼウスが姿を消してからだ。」


蒼帝の言葉に、陽たちの表情が引き締まる。


「何を狙っているのかは未だ不明だ。

だが、今回の調査によって何らかの突破口が見つかる可能性はある。

奴らはベオリア王を誘拐し、“ウルニス迷宮”にも関心を示していた。

であれば――今回の我々の動きに必ず反応するはずだ。」


そして、声を落としながら蒼帝は告げる。


「問題は……深層部に張られた結界をどう突破するか。

ここが、最も大きな課題だ。」


しんと静まり返る空間。

その沈黙を破ったのは、カイだった。


「――蒼帝、それ……大丈夫かもしれねえ。」


蒼帝が目を細める。


「……なんだと?」


カイは顎を陽たちの方へ向けた。


「そこのアテナより召喚された嬢ちゃん――あの子の“波”が、結界の波長と似てるんだ。」


「リーナさんの波……?」

陽が思わず口にする。


カイは照れたように頭をかきながら、口調を崩した。


「いや、俺も詳しいことはわかんねえけどさ。」

カイは頭をかきながら、少し照れたように笑った。


「俺には人の“波”――オーラとか気配とか、そういうもんが、水の流れみてえに感じられるんだよ。

……で、嬢ちゃんの波が、今回の結界とかなり近い気がしてな。」


それを聞いた蒼帝は、しばし考えるように沈黙したあと、ゆっくりと口を開いた。


「ほう……確かに、であれば結界を突破できるその可能性はあるかもしれない。」



その時、ザガートは一歩前に出て、膝をつき、静かに頭を垂れる。


「蒼帝陛下。

もし可能であれば――その“波が似ている”という現象が、

なぜ結界の突破につながるのか、我々にもご説明いただけませんか。」


その礼儀正しい問いかけに、蒼帝はわずかに目を細めたのち、静かに頷いた。


「……いいだろう。」


蒼帝は片手を掲げると、手のひらに小さな魔法陣を浮かび上がらせた。

淡く光を放つその輪が、波のようにゆらゆらと揺れている。


「この世界に存在するすべての魔力には、“揺らぎ”がある。

簡単に言えば、魔力は静的なものではなく、常に“振動”しているのだ。

そして、結界というのは“異物を拒絶する魔力の壁”でありながら――

それ自体もまた、一定の波長を持つ“魔力の振動”で構成されている。」


蒼帝の言葉に、全員が静かに耳を傾ける。


「もし、その波長と同じ揺らぎを持つ魔力が結界に触れた場合――

結界は“拒絶”ではなく、“共鳴”の反応を示す。

つまり、同調によって、扉が開く可能性があるということだ。」


カイが腕を組んだまま、軽く肩をすくめて補足した。


「結界は、あくまで“異質なもの”を排除するために張られてる。

けど逆に言えば、“自分と近いもの”には反応しにくくなる。

嬢ちゃんの“波”が似てるってんなら――

中に入れる“鍵”として作用するかもしれねえって話だ。」


蒼帝はカイの言葉を肯定するように頷く。


「もちろん確証はない。

だが、今まで我々は“力で突破する”という発想に偏っていた。

……ならば、“波による共鳴”という別のアプローチを試す価値はある。」


その場に、わずかな希望の光と、慎重な期待が交差した。


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