62話 出発
過去の記憶
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「せーんぱいっ!今日も残業ですか〜?」
軽い声。背中に響く明るさ。
振り返ると、いつもの笑顔。
「表彰されましたっ!」
「これもぜーんぶ、先輩のおかげですっ!」
あどけない笑みと、無邪気なテンション。
「インセンティブ入ったら焼肉奢りますね!」
……まるで太陽みたいなやつだった。
「先輩っ! 先輩っ! せ・ん・ぱ・いっ!」
呼ばれるたびに少し誇らしかった。
でも、ある日。
「最近、部長からのお誘いが多くて……」
俯きながら、言葉を探すようにしていた。
「嫌じゃないんですけど……近いというか……うまく言えなくて」
視線をそらす仕草。笑顔が少しだけ薄くなった。
「すみません、先輩。今日は……部長と、ちょっと……」
その背中が、遠ざかっていく。
「先輩、私…部署異動になるみたいです。転勤にもなって名古屋に行く事になりました。しばらく会えないですけど、また総会で。」
「そうか、名古屋でも頑張ってな。お前なら大丈夫だよ、応援してるぞ。」
「ありがとうございます。」
──そして月日が流れる。
夜のホーム。人が少なくなる品川駅。
「先輩じゃないですか。今日もご苦労様です」
「おお!久しぶりだな!元気だったか?」
「元気…でしたよ。」
「そうか、それはよかった。あれから部長とは大丈夫だったか?部長と異動って後から聞いて心配だったんだ。」
「そうですね、色々ありましたけど、今日で解放されます。」
「おい、どういう事だ…?」
「もういいんです。最後に先輩に会えてよかったです。こう見えて私、先輩の事が好きでしたよ。今日で終わっちゃうのは残念ですけど、先輩は、先輩らしく、生きてくださいね」
そう言って彼女は笑みを浮かべた。
その瞬間。
ふわりと、彼女の体が浮かんだ気がした。
プオオオオオオオオン──
電車の警笛音が、遠くで響いた。
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「――っ!」
がばり、と布団を跳ね上げ、陽は荒い息を吐いた。
額には冷たい汗。胸の奥がひどくざわついている。
(夢…か。)
「陽……?」
声のする方向に目線をやると目の前にいたのはセレーナだった。
柔らかな光を纏ったような髪が、ほんのり揺れている。
「中々起きてこないから、様子を見に来たの。そしたら……うなされてたから、心配になって」
その瞳には、確かな優しさと――微かな不安が滲んでいた。
「大丈夫。……ただ、昔の嫌な記憶が出てきただけさ」
陽は短く言って、視線を逸らした。
「でも……その涙は?」
セレーナの言葉に、陽はようやく自分の頬が濡れていることに気づいた。
冷たいしずくが、指先を伝う。
言い聞かせるように呟く。
過去は終わった。埋めた。振り返らないと決めた。なのに――
「……すまない。少し、1人にしてくれ」
震える声。絞り出すような願い。
セレーナは何も言わず、ただ静かに陽のそばに歩み寄る。
そして、彼の手をそっと握った。
あたたかい。けれど、それ以上に、優しすぎた。
「……」
何も言わずに手を離し、セレーナは一度だけ陽を見つめると、静かに部屋を後にした。
扉が閉まる音が、やけに遠く感じた。
陽は深く息を吐き、陽は額を押さえた。
心を、整える。
揺れる感情を、静かに沈めていく。
(……そうだ。今日から、水の都アクエリアスへ)
涙を袖でぬぐい、陽はゆっくりと立ち上がった。
そして、静かに拳を握る。
「行こう。俺は……進むと決めたんだ」
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正午。陽はベオリアの南門に到着した。
門の前には、見慣れた顔ぶれが揃っている。
「すまない。待たせたな。」
「いや、問題ない。むしろ時間ぴったりだ」
そう言って微笑むのは、ザガート。
相変わらず、冷静で隙のない男だった。
陽の背後から、ひゅっと軽い音がした。
「遅刻かと思ったよ、陽!」
笑いながら言葉をかけるカイル。
そして、その隣に騎士団長ラドウィンが厳しい顔で立っていた。
「これより先の任務、健闘を祈るぞ」
短く、それでも重みのある言葉をくれるラドウィンに、陽は深く頭を下げた。
ふと、視線を巡らせる。
だが――あの姿が、ない。
「……アレクは?」
陽の問いに応えたのは、リーナだった。
いつも通り、凛とした立ち姿。
「アレクは、今朝早くにどこかへ行ったみたい。詳細は分からないけど」
「そうか……」
少しだけ目を伏せて、陽はつぶやく。
(相変わらず、謎の多い人だな)
「それで、リーナさん今回は……」
「私はアテナ様の指示で、アクエリアスが抱える“問題”の調査と解決に同行するわ」
そう言う彼女の目は、どこか戦う覚悟を宿していた。
「ただ――リミットブレイクに関しては、私は関与しない。」
静かに、しかしはっきりとした言葉に、陽は真剣な面持ちでうなずいた。
「ああ、もちろんだとも。でも、リーナさんがいるだけでも心強いよ。ありがとう。」
陽の素直な言葉にリーナの頬が少し赤くなる。
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「全員、揃ったな」
紫の髪を風になびかせながら、ライサが静かに言った。
その隣には、表情を変えないザガートが馬にまたがり、道の先を見つめている。
「それでは――出発する。目的地は、水の都アクエリアスだ」
その一声で、ベオリア南門がゆっくりと開いていく。
光が差し込み、広がるのは新たな旅路。
陽はヘリオスのそばに立つセレーナに声をかけた。
「セレーナ、乗ろう」
「ええ。」
セレーナが軽やかにヘリオスへ乗り、その後ろに陽が続いてまたがる。
背中越しに感じる体温と、穏やかな髪の香り。
自然と気持ちが落ち着いていくのを感じた。
リーナはすでにタリアに乗っていた。
背筋を伸ばし、周囲に気を配る姿はいつもどおり。
レオンも馬に乗り、隊列に加わっていく。
蹄の音が、軽快なリズムで地面に刻まれていった。
リミットブレイク、深層部の魔物、
ポセイドンより召喚されし者の正体、
これらの真相を求め陽たちは
水と光が織りなす水の都
アクエリアスへ向かった。
【アクエリアス調査メンバー】
・アポロンより召喚されし者:日向 陽 (神獣:獅子/ヘリオス)
・アレイオスの英雄一番弟子:レオン・アストライア
・精霊族の姫:セレーナ・グランディス
・アテナより召喚されし者:リーナ・ハートフォワード(神獣:グリフォン/タリア)
・ベオリア騎士団員:ライサ・ヴァルクレア
・ベオリア第一王子:ザガート・アルヴィオン




