57話 リミットブレイク
陽たちが王宮の間に入ると、厳かな雰囲気が漂っていた。巨大な窓から差し込む光が、石造りの大広間を柔らかく照らしている。
カンジェロス国王は玉座に腰掛け、その周囲にはベオリア勢の主要メンバーが集まっていた。ラドウィン、ライサ、カイル、そしてバジル。さらに、その隣には若き息子であるザガートの姿もあった。
すでに到着していたリーナやアレクも、陽たちを見て軽く頷く。陽は仲間たちの無事な様子に安堵しながらも、厳粛な空気に自然と背筋を伸ばした。
カンジェロスが立ち上がり低く重みのある声で口を開いた。
「よくぞ目覚めた、日向陽よ。病み上がりのところをすまない。」
陽は一礼しながら答えた。
「いえ。それよりも陛下には、私だけでなく仲間たちの傷の手当てを手配していただいたと伺いました。深く感謝いたします。」
カンジェロスはその言葉に満足そうに頷き、目を細めて陽を見つめた。
「顔をあげよ。お前たちが迷宮で果たした役割、そして命を懸けてこの迷宮とベオリアの危機を救ってくれたこと、国王として心から感謝する。」
そう言うとカンジェロスは深く頭を下げた。
そして、ラドウィンもまた立ち上がり陽たちに言葉をかけた。
「私からも礼をさせてくれ。陛下だけでなく、君たちは我々の民を、そして私の家族を守ってくれた。ありがとう。」
ラドウィンが頭を下げると、それに続く様に、ライサ、カイルも立ち上がり頭を下げた。
その光景をみた、陽は少し自信がなさそうに口を開いた。
「そんな…皆さん、頭を上げてください。俺一人の力じゃ今回の件は乗り越えられなかったんですから。」
カンジェロスは陽に微笑みかけた。
「ガハハハハハハ!!お前は謙虚な奴だな。でもま、嫌いではないぞ。」
カンジェロスが玉座に腰を下ろし、周囲を見渡して静かに口を開いた。
「さて、皆に集まってもらった理由だが――今回の一連の出来事について話すためだ。私から話すことは3つある。」
その一言で部屋全体が静まり返る。誰もが国王の次の言葉を待ち、緊張が高まった。
カンジェロスが続きを話そうとした、その時――
「その話、私も混ぜてもらえるかな?」
突然の声が響き渡る。低くも柔らかなその声に、場の空気が一瞬で張り詰めた。誰もが驚き、視線を巡らせる中、陽の胸元が淡い青い光を放ち始めた。
「なっ…陽!?どうしたんだ!」
レオンが目を見開いて声を上げる。
光は徐々に大きくなり、床へと広がっていく。その光の中に、一人の男のシルエットが浮かび上がった。やがて光が薄れ、現れたのは整った顔立ちに、どこか軽やかで無邪気な雰囲気をまとった男だった。
その男は柔らかな笑みを浮かべると、片手を軽く上げて挨拶をした。
「やあ、初めまして。ベオリアの王、リーナ、アレク――そして陽の仲間たち。」
その声を聞いた瞬間、陽は驚きの表情を浮かべ、声を上げた。
「ア…アポロン!?」
男は再びにこやかな笑みを浮かべ、陽に手を振る。
「久しぶりだね、陽。元気そうで何よりだよ。」
彼の背後では、青い光がゆらゆらと揺れていた。その光がだんだん消えていくと、中から現れたのは――太陽神アポロンだった。
陽は驚きのあまり目を見開き、声を上げた。
「なぜ、あなたがここに…?」
アポロンはにこやかに笑い、軽い口調で答えた。
「なんでって?それはエリュシアの未来に関係する大事な話をするのだから当然!でも、勘違いしないでくれよ。僕はアテナやヘルメスの召喚者に干渉するつもりはない。神々の中の約束でね。これはあくまで、君と僕の話だ。まあ、聞きたい人は聞いてくれても構わないよ。」
陽は混乱しながら、さらに問いかけた。
「それにしても、どうして今なんだ…?」
アポロンは肩をすくめて、少し楽しそうに笑った。
「理由は簡単だよ。君が覚醒したからさ。ヘリオスの力じゃなく、僕の力をね。」
「アポロンの力を…?」
陽は思わずその言葉を繰り返した。すると、アポロンは陽の胸を指差しながら言った。
「そうさ。もう気づいてるだろう?君の胸元にあるその紋章のことだよ。」
陽は驚きながら、自分の胸元に手を当てた。そこに確かに感じるのは、心臓と一緒に脈打つような、熱を帯びた力だった。
「君は僕の紋章を発動して、その力を手に入れたんだ。つまり、君はリミットブレイクを果たしたってことさ。」
「リミットブレイク…だと…?」
陽は胸元の熱を感じながら、混乱した表情を浮かべていた。その様子を見て、アポロンはふと表情を引き締め、カンジェロスの方に目を向けた。
「ベオリアの王よ、あなたたちを信頼して、少し陽の力について話をしてもいいだろうか?」
その問いに、カンジェロスは腕を組んで少し考え込んだが、やがて静かに頷いた。
「構わぬ。陽の力は我々にとっても重要なものだろう。ここで明かされるべきだ。」
アポロンは微笑み、陽の方へ向き直った。
「じゃあ、話そうか。陽、君はこれまでヘリオスの力を中心に戦ってきたよね。ヘリオスの獣人化や光を操るその力は、仲間を守るのにとても有用だった。」
陽はその言葉に頷きながらも戸惑った表情を浮かべた。
「けれど、僕の力――太陽神アポロンの力は少し違う。僕の力の特徴は『火』だ。これまでは君も火属性の魔法を少し使える程度だったけど…」
アポロンは陽の胸元を再び指差した。
「迷宮での一件で、君は僕の光の力、均衡の力を引き出したんだよ。」
「均衡の力だと…?」陽は思い返すように呟いた。
迷宮の中で仲間を守るため、無我夢中で力を振り絞ったあの瞬間。自分の体から溢れるように力が湧き出し、周囲が青い光で包まれたのをぼんやりと覚えている。
「そう、あの時君は限界を超え、リミットブレイクを果たした。そして、そのおかげで君は今までにないほどの力を手に入れたはずだ。その力っていうのは神の象徴によって変化する。」
「つまり…均衡の力は、アポロンを象徴する力の一部というわけなのか?」
「そう!大正解。」アポロンがニコリと笑みを浮かべた。
陽は再び胸元に手を当てた。脈打つ熱が、力強く全身に広がっていく感覚を感じる。
「これが…アポロンの力…」
「そうさ!でもね、陽――その力には危険も伴うんだ。」
アポロンの声に、陽は顔を上げた。アポロンのいつもの穏やかな雰囲気が消え、真剣な目で陽を見つめている。
「リミットブレイクには必ず『代償』がある。」
「代償だと…?」
陽はその言葉に動揺を隠せなかった。




