35話 君らしくない
ライサが鋭い声で叫ぶと、その光が収まり、現れたのは陽、セレーナ、アレク、そしてバジルだった。
「バジル様が、なぜここに!?」
騎士団員の一人が動揺して声を上げたが、バジルは既に詠唱を始めていた。
「星の光よ、そっと心を包みたまえ。夜の囁きに耳を傾け、穏やかな眠りの深淵へ沈みゆけ。『星の囁き』。」
バジルの詠唱が終わると、騎士団員たちはふっとその場に崩れ落ち、静かに眠りに落ちた。辺りが静寂に包まれると、ライサは陽を見つめ、低い声で尋ねた。
「どうして、お前がここにいるんだ。」
「決まってるじゃないですか、助けに来たんです、ライサさん。」陽はにっこり笑って答えた。
だが、ライサは表情を強張らせ、
「どうしてそんな危険な真似をするんだ!」と怒りに近い声を上げた。
「これは私たちの国の問題だ。私たちでどうにかする。君たちを危険な目に合わせるわけにはいかない!」
陽は真剣な表情で応えた。
「じゃあ、今のライサさんの状態でどうやって、騎士団長や国を守ろうとするんですか?」
「それは…」ライサが言葉を詰まらせる。
「ライサさん、俺たちがベオリアに来た目的、覚えてますか?」陽は鋭い眼差しを彼女に向けた。
「ベオリアに迫る影に対抗するために、俺たちはここに来たんですよ。俺たちはただの客じゃない。」
ライサは口を開きかけ、再び言葉を飲み込む。そして深く息を吐き出し、「だとしても、陽、お前があの国王カンジェロスに勝てるのか?あの信じられない強さを見ただろう!私ですら敵わなかった。それをお前がどうやって——!」
陽は思わず声を荒げ、
「あーっ!もう、あんたって人は!」
と言うなり、檻の中にいるライサの胸ぐらを掴んでいた。
「ライサ!いつまで一人で戦おうとしてるんだよ!目を覚ませって!確かに俺はあんたに勝ったことなんてねえ。けれど、だからって、あのカンジェロスに一人で挑むわけじゃない!この国を守りたいと思ってるのは、あんただけじゃないんだ!」
陽がこれほど怒った姿を見るのは初めてだった。セレーナやアレク、バジルも思わず息を呑んで見守っていた。
ライサも驚いてはいたが、黙っていなかった。彼女も陽の胸ぐらを掴み返し、鋭い声で返した。
「私には、守るべきものがある!父上や弟、騎士団員たち…そしてこのベオリアの民だ。陽、お前にも果たすべき使命があるんだろう?それを全うするのが筋じゃないのか!こんな危険な場所で命を落としてどうする!」
陽は一瞬黙り、目を伏せると静かにため息をついた。「…ああ、そうかよ。俺が死ぬって最初から決めつけて、俺を信頼してないんだな。仲間だと思ってたのは俺だけかよ…。」
その言葉にライサの表情が強張る。陽は胸ぐらを離し、振り返って小さく頭を下げた。
「みんな、ここまで来てくれたのに悪かったな。帰ろう。」
「えっ…?」セレーナが戸惑いの声を上げる。
「陽殿、どうか考え直してくれぬか?」バジルも止めようとするが、陽は振り向かずに首を横に振った。
「絶対に嫌だね。『誇り高き狼族』って言ってたけどよ…ただのプライドが高い一族だけじゃねぇか。ライサ、お前は親父さんが処刑されるところを黙って見てるといい。俺はもう知らん。」
「くっ…」ライサは唇を噛みしめ、悔しそうに目を伏せた。自分の中でこみ上げる苛立ちを感じながらも、何も言い返せなかった。
セレーナは悲しそうに陽を見つめ、「陽…」と呟いたが、彼の決意は揺らぎそうになかった。
「バジルさん、転移魔法をお願いします。」陽は毅然と告げると、バジルは静かに頷き、転移魔法を発動させた。次の瞬間、陽たちは檻の前から姿を消し、宿へと戻った。
陽たちが宿に戻ると、待っていたレオンが勢いよく声をかけた。
「カイルたちはどうだった!?」
陽は一瞬、答えに詰まるように拳を握りしめた後、短く「…すまん」とだけ言って、そのまま苛立ちを抑えながら部屋を出て行った。
宿の前に出て夜風に当たり、頭を冷やそうと深呼吸を繰り返す陽。そこに、アレクがそっと近づいてきた。
「気にしてるのかい?さっきのこと。」
陽は苦笑いを浮かべ、少し黙った後、ぽつりと答えた。「…そりゃあ、そうですよ。自分でも驚くくらい初めて女性に声を荒げてしまって…。姫様やみんなの前で、酷いことを言いましたし。」
アレクは陽をじっと見つめ、優しく微笑んだ。「姫様も心配してたよ。陽があんな風に声をあげるなんて、君らしくなかったって。」
陽は目を伏せて、苦しそうに言葉を続けた。
「…あの時のライサさんを見て、まるでこの前の自分を見ているみたいで腹が立ったんです。俺も結局、自分のことで精いっぱいで周りを見られなかった時期があって…。ああして声を荒げて、まだ俺は小さい男なんですね。」
アレクは静かに陽の肩に手を置き、
「でもさ、転送の直前に僕にあれを頼んだってことは、君は結局、ライサを信じているってことだろ?」と優しく声をかけた。
陽は少し驚いたように顔を上げ、照れくさそうに笑った。「…アレクさんには敵いませんね。はい、あんなこと言いましたが、俺はまだライサさんを信じてます。」
「そうかい。そうかい。」アレクがそう言って頷くと、ふと背後からセレーナが現れた。心配そうな顔で陽を見つめている。
「陽、大丈夫?」
陽はその優しい言葉にほっとしたように笑顔を返し、「ああ、もう大丈夫だ。ありがとう。…みんなを待たせてる。部屋に戻って、作戦の続きを話さないとな。」
そう言って、陽はセレーナとアレクとともに宿の部屋へと戻っていった。




