21話 冥界の玉座
陽たちが次の目的地ベオリアへ向かっている頃、冥界ではーー。
「ただいま戻りました。」
ガリウスは転移魔法を使い、冥界の暗く冷たい玉座の間に現れた。広がる闇の中、玉座に座る威厳ある人物、冥界の王ハデスに向かい、深く頭を下げる。
「ご苦労だった。で、アポロンの召喚者はどうだった?」
冷たく鋭い声が、玉座から響いた。
「ハデス様、アポロンの召喚者ですが…精霊族の姫の加護を受け、かなりの力をつけておりました。ケルベロスに傷を与えたほどです。無視できない存在かと。」
ガリウスは淡々と、陽の成長ぶりを報告した。
「ふむ、精霊の加護か。ヘリオスの魔力を持っているからこそ、精霊のエネルギーと干渉でき、力が引き出せたのだな。奴の力の解放は気にかけるべきだが、急ぎ判断する必要はない。」
ハデスは表情を変えずに答えた。
「剣士の若者も、かなりの成長を見せています。私としては、そちらの方が嬉しく思いましたがね。私の助言により次の目的地はベオリアになるはずです。既にアテナとヘルメスの召喚者が向かっているので、あと五日ほど経てば合流するでしょう。アテナとアポロンの目的は似ていますが、ヘルメスの動向が気になります。」
ガリウスは一歩進み、慎重に口を開いた。
「ヘルメスの召喚者か…。あいつは何を考えているか分からん。ヘルメスの召喚者となれば、厄介であろう。」
ハデスは不快そうに顔をしかめた。
「ええ、彼の動きは不透明です。アポロンの召喚者とは違い、何をしでかすか予測がつきません。」
ガリウスも困惑を隠せない様子で続けた。
「まずは、奴の動きを見ておこう。奴に不審な動きがあれば、こちらも対応を考えなければならん。」
ハデスは目を細め、慎重に状況を見極めようとしていた。
「もし、ヘルメスの召喚者が不審な動きをした場合、対応はいかがしましょうか。」
ガリウスはハデスの指示仰いだ。
「奴がこちらの計画に干渉してくるようなら、ケルベロスを使ってもよい。必要があればケルベロスを召喚せよ。」
ハデスは冷たく断言し、少しも感情を交えずに命令を下す。
「分かりました。それでは、引き続き彼らの動向を監視いたします。」
ガリウスは深く頭を下げ、再び闇の中へと姿を消した。
その時、暗闇の中から、静かに赤い長髪の女性が姿を現した。
「ハデス、話は聞いていたわ。」
赤い髪をたなびかせ、玉座の前に立ったのは、冥界の女王ペルセポネだった。
「ペルセポネか。」
ハデスは彼女に軽く頷き、続けた。「先程も言ったように、ヘルメスの召喚者…奴が我々の邪魔をするのであれば、こちらも対応を考えなければならん。」
「ヘルメスの召喚者は確かに厄介ね。アポロンやアレスの召喚者とは違って、何を考えているのか全く分からない。ちなみだけれど、北の国ではアレスの召喚者がノルデリアを占領したという情報も入っているわ。」
ペルセポネの声には、警戒心が滲んでいた。
「アレスの召喚者がノルデリアを占領したのも警戒するところであるが、今はヘルメスの召喚者が鍵だ。ヘルメスかアレスか、どちらにせよ我々の邪魔をする者は、必要に応じて排除する。」
ハデスは静かに、決然とした口調で言った。
「ヘルメスはベオリアでの展開次第ね。」
ペルセポネは冷静にそう言いながら、ハデスをじっと見つめた。
「そうだな。だが、まずはペルセポネ、お前にはゼウスの行方を探ることが優先してお願いしたい。今回、手掛かりはあったか?」
ハデスは静かに玉座に座り直し、深く考え込んだ。
「ゼウスの居場所はまだ確定していないわ。けれど、手掛かりは少しずつ集まっている。もう少し時間を頂戴。」
ペルセポネは軽く頷き、立ち去る準備をした。
「ああ、頼む。」
ハデスは短く答え、再び一人になった。重く冷たい冥界の空気が彼を包み込む。
「日向陽…アポロンからヘリオスの力を授けられた者。精霊の加護があるとはいえ、ただの人間が光の神の力を扱えるはずがない。奴は一体何者だ…。」
ハデスの心には、陽への疑念が深まっていた。それが、冥界の闇に沈むように広がっていった。




