17話 特訓
陽とセレーナはレオンが出て行った後、お互いに気まずさを感じながらも、何とか気を取り直し、夕食を食べに広間へ向かうことにした。
セレーナが歩き出すと、口を開き、気を取り直すように話しかけた。
「陽、一緒に行きましょうか。」
「はっ、はい!いいんですか?」
「何か問題でも?」
「俺なんかと一緒に行ったら誤解されるんじゃないかって。姫さんの立場でそれは困るかなって思いまして。」
陽は苦笑いをしながら言った。
「私は困りませんよっ。」
「え?」
「ほら、陽、早く行きましょう!」
そう言って陽とセレーナは広間へ向かった。
広間に到着すると、すでにテーブルには食事が並べられており、レオンが待っていた。レオンは陽とセレーナが一緒に入ってきたのを見て、ニヤニヤしながら尋ねた。
「おいおい、二人で来たってことは、一緒に待ち合わせでもしたのか?仲が良いことだな〜?」
その言葉に、陽とセレーナは同時にドキッとして顔が赤くなった。陽は急いで否定しようとしたが、言葉が詰まってしまう。
「い、いや、そういうんじゃなくて…!」
セレーナも慌てて続けた。
「そ、そうです!たまたま合流して一緒に行く流れになっただけです!」
レオンは彼らの様子を見て、ますますニヤニヤしながら「わかった、わかった」と手を振った。
「冗談だよ。でも姫さんも俺らに気を許してくれたみたいで、何よりだ。」
二人はますます赤くなりながら、それ以上何も言えず、席に座った。
広間のテーブルには、美味しそうな料理が並んでおり、団欒の時間が始まった。食事を楽しみながら、レオンとリオンが稽古について話し始める。
「リオンさんとの稽古は厳しいけど、最近少しずつ腕が上がってきた気がするんだよな!」
リオンは少し微笑みながら、レオンを褒めた。
「確かに、レオンの成長は目覚ましい。最近は稽古中でもしっかり対応できるようになってきた。」
「ははっ、まあ、俺はカイオスの一番弟子だからな!当たり前だっ!」
レオンは嬉しそうに笑いながら、陽に話しかけた。
「陽、お前もそろそろ体力回復したんだし、修行再開だな。ヘリオスの力を最大限に引き出せるようにならないと、これから先キツそうだしな!」
それを聞いたセレーナは少し頬を赤らめながら、みんなに報告する。
「実は、私が陽に魔法を教えることになったんです。これから数週間フィオーナ草原で特訓を始めようかと思います。」
レオンは驚いたように目を見開いたが、すぐに納得したように頷いた。
「姫さん直々に教われるなんて、こんなチャンス二度とないかもしれないぜ、陽。頑張れよ!」
リオンも異論はなく、二人が魔法の特訓をすることに賛成した。
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次の日、陽とセレーナはフィオーナ草原に向かい、魔法の特訓を始めた。草原は広がる青空の下、風が優しく吹き抜けていた。セレーナは陽に魔法について説明を始めた。
「陽、魔法を使うためにはまず、その属性のエネルギーを正しく感じることが大切です。私たちの体には、自然界にあるエネルギー、すなわち魔力が流れ込んでいます。これを感じ取ることができれば、魔法は発動できます。属性は主に『火』『水』『風』『光』『闇』『地』の六つです。」
「魔力か…」陽は少し理解した様子で頷く。
セレーナはさらに詳しく説明を続けた。
「それぞれの属性には、得意な分野と相性があります。たとえば、火の属性は攻撃力に優れていて、直接的な破壊力を持つ魔法が多いです。ただし、火は水に弱く、水の魔法に消されてしまいますが、逆に地属性には強いです。地の力は火に焼かれやすいですからね。」
「水の属性は、癒しや防御に優れていて、回復魔法などに適しています。そして風に強いんです。風は水の流れを乱せず、抑え込まれてしまいますが、地に弱いのが特徴です。地が水を吸収し、効果を弱めてしまうんです。」
「風は、素早い移動や攻撃を得意とする属性です。地に強いですが、水に弱いんです。水によって風の勢いが削がれてしまうからです。」
「地の属性は、強固な防御を持つ魔法が多いです。水に強く、その流れを吸収して防御を固めることができますが、風には弱いです。風の勢いに対して地は無力で、簡単に吹き飛ばされてしまうことがあります。」
「そして光と闇。これらは特別な属性で、互いに打ち消し合う関係にあります。光は闇を消し去り、闇は光を封じ込めることができます。」
陽は真剣な顔で聞き入り、整理していた。
「なるほど…それぞれの属性には相性があって、ただ単に力を使うんじゃなくて、相手の属性によって使い方を変えなきゃならないってことですね。」
「その通りです。属性の相性を理解すれば、戦闘で有利に立ち回ることができます。これを覚えておけば、ヘリオスの力を最大限に引き出せるはずです。」
(ヘリオスの力は光属性だから、まずはここからだな。)
「ちなみに、その魔力を感じ取るっていうのはどうすれば…?」
「良い質問ですね。魔法のコントロールは、まず自分の内に流れているエネルギーを感じ取ることが基本です。最初は目を閉じて、静かに心を落ち着けるといいです。そして自分の体に流れるマナが、どこからどこへ流れていくのかを意識してみてください。少しずつですが、体の中で温かく感じる部分や、何かしらの流れを感じる場所があるはずです。それが、魔力が流れている証拠です。」
陽は言われた通りに目を閉じ、呼吸を整えた。しばらく静かに集中していると、何か体の内側に温かい流れを感じた。
「これが…魔力か?」
「そう、その感覚です!今、その魔力を手に集中させてみましょう。手に意識を向けて、魔力を集めるんです。」
陽は試してみたが、手先にエネルギーを集めようとしても、なかなか上手くいかなかった。眉をひそめ、焦り始める陽を見て、セレーナは優しく陽に声をかけた。
「焦らないでください。最初は誰でも難しいものです。」
セレーナは陽の手を取って、自分の魔力を彼に流し込んだ。「こうやって、魔法の流れを覚えてください。私の魔力を感じながら、自分の魔力を、私の魔力の流れに合わせてみて。」
陽はセレーナの言葉に従い、彼女の魔力を感じながら自身の魔力を手に集めようとした。次第に、彼の手の中で温かい光が輝き始めた。
「これだ…!ようやく感じた!」
「素晴らしいです!」セレーナは微笑んだ。
二人は成功を喜び、少し休憩を取ることにした。フィオーナ草原の柔らかな草の上に腰を下ろし、陽とセレーナは並んで座った。
セレーナはしばらく静かにしていたが、ふと思い立ったように陽に聞いた。
「陽の故郷って、どんなところなんですか?」
陽は少し考えた後、笑みを浮かべて答えた。
「俺の故郷、日本は…まあ、平和な場所ですよ。食べ物も美味いし、それなりに娯楽や自由があって…。ただ、俺は毎日が同じように繰り返されて、正直、ちょっと退屈に感じていましたが。」
セレーナは興味津々で陽の話を聞いていたが、ふと彼の言葉に引っかかったようで、少し沈んだ表情で尋ねた。
「…けれど、いずれは、元の世界に戻るんですよね?」
陽は少し戸惑ったが、正直に答えた。
「はい。恐らく、いつかは戻ると思います。家族もいますし…」
その言葉にセレーナは頷いたが、どこか寂しそうな表情を見せた。
「そうですよね。陽にもご家族がいますし、最愛の方も…」
陽は驚いて、すぐに否定した。
「いやいや、俺結婚してないし、最愛の人もいないですよ。」
「え?それでは想い人は?」
陽は照れくさそうに頭をかきながら答えた。
「まあ、仕事が忙しくて、恋愛はしばらくしてないんですよね。ははは。」
その言葉を聞いたセレーナは、少し嬉しそうに、笑を浮かべた。
「そうなんですね…。」
「エリュシアに来て色んなことが起きて、始めは大変だったけど、毎日刺激的で、割と楽しめてますよ。」
「セレーナさんのおかげで魔法も少しずつ上達しそうですしね。ありがとうございます。」
セレーナは満足気に微笑んだ。
「よしっ、じゃあ特訓再開といきますか!あとは本格的に魔法を発動するための詠唱が必要ですよね!」
セレーナは陽に詠唱の基本を教えた。
「では、次にそのエネルギーを外に放つ感覚を覚えてください。自分のイメージがとても大切です。光の魔法を使うなら、光の槍や光の壁を思い描き、その形と動きを心に描いて。」
「イメージ…か。」陽は頷き、光の槍を作るイメージを頭に浮かべた。
「次は詠唱です。詠唱は魔法の発動を正確に導くための手段です。イメージに集中した後、頭に浮かんだ言葉を自然に口に出して、エネルギーを形にしていくのです。実際にやってみるので見ててくださいね。」
セレーナの瞳が真剣な光を帯びる。彼女はゆっくりと口を開き、詠唱を始める。
「天に輝く光の柱よ、我が願いを受け取り、その力を槍に変えよ。全ての闇を貫く、純粋なる力を今ここに。」
セレーナの手のひらから眩い光が溢れ出し、やがてそれは鋭い槍の形を成した。槍は純白に輝き、清らかな光が周囲に放たれていた。
「ルクススピア!」セレーナが一言、魔法の名を唱えると、光の槍は一瞬で目標へと飛び、遠くにある岩に命中した。岩は一撃で砕け、光の粒が四方に散って消えていった。
「どうですか?」セレーナは振り返り、優しく微笑んだ。
陽は目を見開き、感嘆の声を漏らした。「すっげぇ…さすがセレーナさん。こんなん俺にできますかね。」
「何事も練習あるのみですよ」
陽は少し戸惑った様子で、光の槍を思い浮かべながら手を伸ばした。そして、詠唱を試みようとした。
「光の槍…光の槍…」と念じながら、手に魔力をを集めた。
その瞬間、何も詠唱しないまま、彼の手から突如として光が放たれ、強力な光の槍が一斉に発射された。光の槍はフィオーナ草原の遠くに立つ木を一瞬で打ち倒した。
驚愕の表情を浮かべた二人は、目を合わせる。
「陽、今…詠唱は?」
「し、してない…です。」
「うそでしょ…信じられない…」
セレーナは息をのむように呟き、目を見開いて陽の方をじっと見つめた。




