13話 力の解放
陽が馬に跨ろうとしたその瞬間、どこからか不思議な声が響いた。
(私に乗りなさい…)
「え?」陽は一瞬驚き、周囲を見回した。レオンやリオンも何事かと目を向けてくる。
「誰だ?」陽が問いかけるが、返答はない。ただその声が再び頭の中で響く。
(私を召喚するのだ。)
その声の正体が誰なのか、陽はすぐに理解した。それはヘリオスだった。だが今、セレーナの救出が最優先だ。理由を問いただす暇はない。陽は焦る気持ちを抑え、静かに手をかざした。
「来い、ヘリオス!」
すると、眩しい光が天から降り注ぎ、一瞬で巨大な光の獣――ヘリオスが姿を現した。その背は広く、陽たちが乗るのに十分な大きさだ。
「この背に乗れ。」ヘリオスは低い声で告げた。陽、レオン、リオンの三人は急いでヘリオスの背中に跨る。
「ファルナスの森へ急ぐんだ!」陽が叫ぶと、ヘリオスはすぐに空へと飛び上がり、風を切って進んでいく。
普段、ファルナスの森は神聖なる地でありつつ、非常に危険な場所として知られている。古代の魔物や精霊が立ち入る者を決して許さない。しかし、ヘリオスの光の力が森を照らし、魔物たちはその光を恐れて近づこうとはしなかった。
やがてファルナスの森の入り口が見えてきた。到着すると同時に、セレーナのペンダントから放たれていた光はピタリと消えた。まるで、ここが彼女の居場所を示す最後のポイントであるかのように。
「ここが…ファルナスの森か。」陽は息を呑んだ。森の入り口には、見上げるほど巨大なゴーレムが待ち構えていた。石でできたその体は何千年も前に作られたもので、長い間この森の奥深くで眠っていたはずだった。
「まさか…ゴーレムが復活しているなんて。」リオンは驚きを隠せず、その場で立ち尽くした。
「なぜ、このタイミングで…?」陽も疑問を抱いた。ゴーレムが復活した理由が分からない。そして、どうやってその封印が解かれたのかも検討がつかない。
しかし、考える間もなく、ゴーレムは容赦なく襲いかかってきた。巨体が動くたびに大地が震え、その一撃はあまりにも強力だった。
「剣が通じない…!」レオンが剣を振るが、ゴーレムの硬い石の体には何の効果もない。ただの武器では、この相手には勝てないのだ。
「魔法を纏わせないと無理だな…」陽は剣にヘリオスの光を纏わせようとしたが、ヘリオスがそれを止めた。
「やめろ。その程度の光では、古代ゴーレムには通用しない。」
「じゃあ、どうすればいい?」陽が焦りながら問いかける。
「お前は私の力の17%を引き出せるようになった。それを使え。身体の一部を獣人化させるのだ。」
「獣人化…?」陽は戸惑いながらも、ヘリオスの言葉に従うことにした。ヘリオスの力を吸収すると、陽の黒い瞳は徐々にヘリオスの黄色い瞳に変わり、筋肉が増強されていく。腕はまるで獣のような形に変わり、尻尾も生えた。
「これが…ヘリオスの力か…!」陽は体中に湧き上がる力を感じた。いつもとはまるで別次元の感覚だ。
ゴーレムが再び襲いかかってきたが、陽はその一撃を難なく受け止めた。まるで、その衝撃が効いていないかのようだ。
(集中しろ、右の拳にありったけの力を込めて…ぶん殴れ。)
「ぶ、ぶん殴れ!?」
陽は一瞬戸惑うが、ヘリオスの指示に従うしかなかった。右の拳に力を集中させ、迫り来るゴーレムの拳に向かって自らの拳を振り下ろす。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
激しい衝撃波が巻き起こり、大地が揺れた。陽の拳がゴーレムの拳と交わり、その一瞬でゴーレムは粉々に砕け散った。残ったのはただ一つ、魔晶石だけだった。
「これが…ヘリオスの力…」陽は呆然としながらも、その手に残る感覚に驚きを隠せなかった。
「魔晶石…。これ、リーナさんが取っておけって言ってたな。」陽はその魔晶石をポケットにしまった。
レオンとリオンも、他の魔物たちを倒し終え、ようやく場は一旦の静けさを取り戻した。
「陽…さっきの力は、一体なんなんだ?」レオンは驚きを隠せない様子で陽に問いかけた。
「俺にもよく分からない…。ヘリオスの力を急に引き出せるようになって、体が獣人化して…力がみなぎって…。しかも、こんなに力を使ったのに意識ははっきりしてるんだ。」陽は自分でも信じられないまま、ヘリオスに理由を聞こうとした。
だが、その瞬間、陽の鼻がピクッと反応した。
「セレーナさんの匂いだ。この先に彼女がいる!」
リオンがすぐに反応する。「やはり、ファルナスの森の奥だったか。」
だが、レオンだけは別の反応を見せた。「え…匂い? 陽、お前…。」
陽は一瞬自分の発言に気付き、慌てて弁明した。「ち、違う! 獣人化したから鼻が利くんだよ!さっき風呂上がりのセレーナさんに会った時の匂いが、なんというか印象に残ってて…!」
「陽、貴様、姫様を…!」リオンが怒りを露わにする。
「下心なんてねぇ!落ち着け、リオン!セレーナさんは近くにいる。遊んでる暇はない、早く行くぞ!」
陽たちは古代ゴーレムの粉々になった破片を後にし、さらにファルナスの森の奥深くへと進んでいった。
森を進んでいくと、目の前に現れたのは、巨大な大樹だった。陽たちはその大きさに圧倒される。ファルナスの森の最古の存在とされるその大樹は、ラゼリアの大樹と呼ばれていた。
「こんな大きな大樹が、この世に存在するなんて…」陽は息を呑んだ。
「この近くにセレーナさんがいるはずだ…」陽はあたりを見渡し、様子を伺っていた。しかし、空気が次第に重くなり、嫌な予感が漂い始めたその瞬間——。
「陽!逃げて!!」
突如、セレーナの叫び声が森に響き渡った。




