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開いた口が塞がりませんッ!

 ――やっぱりそれって嫉妬じゃないの?


 なんて突っ込む声が、頭のどこかで聞こえた気がしたけれど、今はそんなことに加勢している場合じゃない。


 さっき、『キス以上のことは勿論、子供だって産んでもらわなきゃならないんだから』って言ってたよね?


 ということは、桜小路さんと結婚したら、キスどころか、セッーーピーピー(※一応全年齢対応なので菜々子の判断により自主規制をかけているようです) して、子供まで産まなきゃいけないってこと?


 ――それって、もはや偽装結婚じゃないんじゃないの?


 あっでも、遠い昔の戦国時代とかだと、人質になった女性は子供も産んでたんだっけ。


 ――だとしたら、やっぱり人質の私が子供を産むのは当然ってこと?


 図星をつかれた羞恥に顔を真っ赤にしていたはずが、今度はあまりの衝撃にボンッと爆発寸前まで全身をまっかっかにして、目まで白黒させてパニックに陥ってしまっている。


 そんな私に向けて、いつしか怒気は消え失せ、落ち着き払った桜小路さんから今度は実にあっけらかんとした言葉がかけられて。


「そんなに驚かなくても、結婚するんだ。セックスして子供をもうけるなんて普通だろ?」


 その言葉に、当然だけれど納得なんてできるはずがない。


 今まで恋愛ごとに馴染みのなかった私にとって、『セックス』なんて、未知との遭遇でしかないのだ。


 よって過剰反応を示した私は慌てふためいた。


「セッ、セッーーピーピーどころか、ついこの前まで、キスさえしたことなかったのに、そんなの絶対無理ですッ!」


 正面でしれしれっと腹の立つくらい余裕綽々の桜小路さんの襟ぐりを引っ掴んで抗議するも。


 当の桜小路さんはいつもの如くフンと飽きもせず小バカにしたように軽く笑ってから。


「ピーピーとやかましいヤツだなぁ。そんなに心配しなくても、お前が少しでも慣れるように、キスだって何度もしているだろう? そのうち慣れる。二ヶ月後に晴れて夫婦になったら、夫である俺が懇切丁寧に手取り足取り教えてやるから、安心しろ」

 

 なにやら得意満面で衝撃的な事実を混じえつつこれまた意味深なことをのたまった。


 ――いやいやいや、安心なんてできるわけないってば! ……じゃなくて、二ヶ月後にって初耳なんですけど、一体どういうことですか!?


 脳内で盛大な文句大会を繰り広げている私は、驚きすぎて大口をあんぐりと開けてアワアワしながら桜小路さんのイケメンフェイスを凝視したまま動けずにいる。


 どうやら、開いた口が塞がらない、とはこういうことをいうらしい。


「……あの、二ヶ月後ってどういうことですか?」


 少ししてやっと声を出した私の質問に、桜小路さんはあからさまにムッとした表情になって、プイッと明後日の方向を見据えながら不機嫌そうな声でキッパリと言い切った。


「そのままの意味だ。一ヶ月後に俺の父親である当主と顔合わせしたら、その一月後には入籍して式も挙げる手はずになってる。前にも言ったと思うが、これは『決定事項』だ」


 ――確かに、『決定事項』とは言ってたけど、二ヶ月後に結婚するなんて聞いてないッ!


それよりなにより、桜小路グループの御曹司なら、それ相応の式場でないと格好にならないだろう。


 式場がそんな簡単に押さえられるはずがない。絶対無理に決まってる。


「二ヶ月後に結婚だなんて、そんなの聞いてないし、いくらなんでも急すぎですッ! 絶対無理ですッ! 第一式場なんてとれっこありませんよッ!」


 そう思って放ったのだが……。


「式場のことなら心配ない。俺は帝都ホテルの経営者のひとりだからな。それに、お前が事故に遭ってから、多忙を極める仕事の合間を縫って、伯父や継母にも気付かれないように、あらゆることを想定して秘密裏に慎重に進めてきたんだ。抜かりはない」

「――ッ!!」


 今度は正面から見据えつつ、そう言い渡されてしまっては、反論の余地も与えてはもらえなかった。


 私の知らないところで色んなことが勝手に進められていたことにも驚いたし、腹立たしかったけれど。


 そんなことよりも、私の言葉を聞いた途端、真正面から私を見据えてきて、菱沼さんと仕事のことでも話すように、やけに堂々とした自信たっぷりな物言いで、淡々と言い放った桜小路さんの姿が、なんだか知らない人のようで。


 何故だか、無性に悲しくなって、泣きたくなってきた。


 これまで、不器用ながらも、泣いていた私のことを慰めてくれたのも、りんごのコンポートや服で私の機嫌をとろうとしてくれたのも。


 桜小路さんにとったら、全部全部、計画を進めるための手段に過ぎなかったんだ。


 そんなこと、分かってたはずなのに、こんなにも悲しいのはどうして? 


 やっぱり桜小路さんのことを好きになりかけてるってこと?


 ――違う。絶対にそうじゃないッ! 泣くもんかッ!


 泣き出したりしないように奥歯をしっかりと噛みしめて、正面の桜小路さんを見据えたままで動くことのできない私のことを、どうやら桜小路さんは不安がっていると勘違いしたらしい。


 私のことを元のように自分の胸へとしっかりと抱き寄せた桜小路さんは、とびきり優しい声音で、私のことを宥めるように囁いてきて。


「勝手に巻き込んでしまった菜々子には悪いとは思うが。菜々子に危害が及ばないように対策も練ってある。継母には、しっかりと釘を刺してあるから、もうここにも好き勝手に出入りはできない。もし仮に何かを仕掛けてきてもすぐに対処できるように、ここの警備も強化してあるから安心しろ」


 最後にはーー


「婚約者として、菜々子のことはこの俺が絶対に守る」


 あたかも本物の婚約者を安心させるようにして、宣言でもするかのようにそう言ってくると、力強くぎゅっと抱きしめられていた。



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