VTuber募集と鼻歌
二話目です。これからもこちらは継続してあげていくつもりですので、今後ともよろしくお願いします。
「お母さん今日のアイナちゃんの配信見た?ステラライブのVTuberを新規募集するんだって…。募集人数は4人らしいんだけど…。今度はどんな子が出るのかな?」
夕食の時にそんなことを母に尋ねてみた。いくら私が登校拒否していて家に引きこもっているとはいえ、朝食や夕食の時は母と一緒に食べている。父を亡くしてからの母を悲しませたくなんてないからね。
「見たわよ~。誰があんたにVTuberを勧めたと思ってるのよ。…そうだ!あんた募集してみなさいよ!今のあんたの声なら結構いいとこいくんじゃない?」
「…何言ってるのお母さん。私が人前で喋れないの知ってるでしょ。それに今更誰かと関わるのなんて…怖いし、無理だよ。後、私なんかが受かるとも思えないし…。私は小説を書いてそれでお金を稼げていれば十分なの。これ以上誰かと関わる必要ないよ。」
「そんなこと言ったって…。私がいつまでもあんたの世話をできるとは限らないのよ?何が起きるかなんて誰にも分からないんだから。私が明日事故にあって死んじゃったらどうするの?あんたどうやって生きていくつもりなのよ…。今は私がいるから小説も私を通して出せてるけど私が居なくなったら、あんたそれもできなくなるのよ?少しは人と喋れるようにならなくちゃ。」
「うっ…。それは…まぁそうなんだけど…」
「まぁどう生きるのもあんたの好きにやりなさい。私は応援しかできないけどね。あんたの願いを否定することは絶対にないから安心しなさい。…応援の方法は無茶するかもしれないけどね」
「ありがとうお母さん。…ん?最後なんか言った?」
「いいや別に?」
「そう…ならいいんだけど」
そう言ってその日の夕食は母との雑談で終わった。
それにしても私がVTuberに・・・かぁ。そんなこと想像したことすらなかったよ・・・。でも私コミュ障だし、家から出れない引きこもりだし、まず応募したところで受からないよね。
それに心は最初から女だったとしても、つい最近身体が女になったばっかりでまだこの身体にだって慣れていないのに・・・。背は男だったころより10cmくらい低くなって今じゃ150cmくらいだし、それに声もだいぶ高くなってて、自分で喋ってるのに自分じゃないみたいに聞こえるんだよ?
もし、VTuberになるとしてもその違和感が完全に抜けきってからのほうがいいに決まってる。
いやまぁ、私なんかがVTuberになれるわけないんだけどね?だって喋れる気がしないし、まず絶対泣く。号泣するね。断言してもいい。
ずっと泣いてる配信者なんて誰が見たがるのか。そんなのサイコパスな人しか見ないよ。そんな人たちに好かれてもなんとも思わないし、仲良くなりたいとも思えないね。
そんなことを考えながら一人PCに向かって作業をする。今しているのは小説の原稿の改正だ。
担当者の人からここをこう直してほしいと赤ペンで修正書きが入っているのでそこを丁寧に直していく。そういう作業をするとき私は鼻歌を歌うんだけど、まさかその鼻歌を母が扉の陰からこっそり録音していたなんてその時は全く気が付かなかった。
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数日後、私のもとに一通の書類が届いた。何かの通知みたいなものが入っていて、新しく書こうとしてる小説のプロットを出したから、それについてかな?なんて思いながら、外袋を破いて中を確認すると、なんとステラライブからの合格通知書だった。・・・え?なんで?私応募してないよね?なんで応募したことになってるの?しかも受かってるし…。え?ほんとになんで?
「ん?どうしたの流君。そんなとこに突っ立ってないでそろそろ夕食食べましょ?」
「お母さん…。私に隠れてステラライブに応募書類送った?」
「え?どうして?」
「ステラライブから合格通知書が届いたんだけど…。私応募どころか応募用の動画とかも一切作ってないよ?どうしてそんな私のところに合格通知書が届くの?」
「あらあら、ほんとに合格しちゃったのね。その応募書類を送ったのは私よ!いつまでも流君のことを助けられるわけじゃないから、ある程度流君に人に慣れてほしくてね。VTuberなら直接誰かと顔を合わせて話すわけでもないし、人に慣れるのにちょうどいいんじゃないかと思って応募しといたのよ」
「いやいや、お母さんの言いたいことはわかるよ?でも応募するための動画はどうしたの?」
「流君いつも小説の改稿するとき鼻歌歌ってるでしょ?それを録音して私がちょちょいと編集したのを送ってみたのよ。それがまさか合格するなんてねぇ」
やはり犯人は母だったらしい。私の為を思って応募してくれたのだから、攻めるに攻めれない…。ちょっと悔しい。ま、まぁでも通ったのは書類選考だけだから面接受ければ落ちるでしょ…。……面接。家から出ないとだよね…。どうしよう…。私一人じゃ家から出れないのに…。面接受けられないじゃん…。いやいやこれはお母さんが勝手に送ったやつだから行かなくてもいいのでは?
「あ、そうそう流君、面接の日はいつなの?私その日休みとるから教えて?流君一人じゃ面接に行けないでしょ?」
流れるように逃げ道を塞がれた…。くっ、もう行くしかなくなったじゃないか…。流石に私のことを思ってくれている母の言葉には逆らえない…。正直に面接日を言うしかない…。
「…明後日」
「分かったわ。明後日ね。流君はしっかり準備しといてね」
はぁ…。行くしかないのか…。やだなぁ…。知らない人と喋りたくない…。でもお母さんが会社を休んでまで一緒に行ってくれるんだからやらなきゃ…。はぁ…。
私の気持ちは憂鬱な気持ちでいっぱいだった。
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