赤い血、燃える顔
かなり空きましたが許して欲しい
そして、申し訳ない
こんな、小説しか描けなくて
有恵と別れたあと
俺は帰路へ着く
今日は遅くなったな…
母さんにドヤされるかもしれん
などと思いつつ、電灯の明かりに温かみを感じている
周りが真っ暗で、家とか電灯がなければお先真っ暗といった様子だ
玄関のドアノブに触れた時、なんて言い訳すればいいか
適当に友達と遊んでたで通じればよし。ダメなら先生に怒られて補習受けてたで通そう
そうやって、家の眩しさに明け暮れた
「なんで才貴はあんなこと聞いてきたんだろう」
有恵は考える
昨日から、才貴の様子はなんだか変だった
その理由はおそらく西宮蒼治郎。
たしか西宮に呼ばれた才貴についていったところまでは覚えている
でも、そこからの記憶は曖昧で、いつの間にか寝ていた
寝るなんて学校ではしたことないのに、なぜか、だ。
しかも疲れて寝たとかではなく、意識を失った感じだった
起きた後に疲れがどっと来たのはそのためだろう
では、何が起こったのか
例えばわたしが薬を飲まされてぐったりとしていたのか
だとして、だれが飲ませたのか
また、睡眠薬の類いにしては効果が短く、争ったとかの記憶がない
とすれば、だれか…才貴はないとしても西宮が自分に投薬したという線は薄い
そんな薬を飲まされるほど、わたしがぼーっとしていたということはない…はずだ
ただ、
どこかの文献で読んだことがある
『人は概物と同じ力を扱うことができる。自分の内側に強く想うことで、概念が実体的に、もしくは抽象的に理解することができる…』だとか
この考えがあっているとしたら、誰かがわたしを眠らせたという考え自体は間違っていたという結論は早計だ
西宮蒼治郎……西宮といえば大概省長官西宮道元氏が印象強い、が、それと蒼治郎の関係が濃いかどうかはわからない
しかし、才貴は蒼治郎が概物を倒したと言っていた
で、あれば西宮蒼治郎は西宮道元と血縁であるかもしれないといえる
西宮道元は対概物専門家としては最高と謳われるものだ。
その子息であるとしたら、蒼治郎も相当の概物ハンターと考えるのが妥当だろう
あの渡り廊下でわたしが起きた時、才貴の顔はやつれていた
また、今朝芦上が西宮に関する言葉を出して彼を見つけた時、才貴はどことなく恐怖していた
もしかしたら才貴は西宮となにか論争…喧嘩をしたのではないか
だが、才貴は生きている
武力は十分あるはずの西宮蒼治郎に見逃された…
なぜだろうか
どうしても情報が足りない…
けれど、才貴が西宮と喧嘩したとして、それをわたしに伝えなかったのはカッコつけたか、迷惑をかけたくなかったか
そこまで思い至った時、有恵の頬は赤くなっていた
才貴は昔から優しい
体育の授業とかで怪我した人がいたら自然に保健室に連れていくし、頼み事は断らない。あの優しさにわたしがどれだけ救われたか…才貴との出会いを語ると長編映画が20本作れてしまうほどだ。才貴はどこまでも他人に甘くて、どこまでも自分を無価値に思ってる
そんな全体主義の優しさに妬ましく想う自分が、果てしなく恥ずかしい
けど、才貴がわたしのことを想ってくれてる…かもしれないってだけで、元気が湧いてくる
そんな、不確かな予想で胸がいっぱいになりつつ、ますます彼のことを好きになってしまうのでした
昨日は散々だった
家に着いたのが8時だったのは流石にまずかった
飯は冷え、優雅に過ごしていたうちの母は、俺が帰って飯を準備し直し、その他いろいろ面倒をしなくてはならなくなって、相当ご機嫌斜めだった
そのためご機嫌とりで学生の大切な夜を完全に潰された
まあ、これから気をつければまだなんとかなるかもだが、遅くなるならはよメール送れと釘を刺されたので、これからはそうしようと思う
あの殺気じみた気配は、概物に勝るとも劣らない感じだった
まあ、閣下の意向は俺の命に関わるので、俺も文字通り必死だったわけだ
あれ…?
有恵が来ない…
いつもならこのあたりで来るはずだ
先に行ったのか?
はたまた遅刻しているのか
まあいいか
すると
「おーい才貴ー?」
変な声がする
「………おう、芦上」
「なんか返事遅くねー?」
なぜお前なんだというツッコミはよしておいて、とりあえず芦上と出会った
「ん?そういえば有恵は?あいつがお前と一緒じゃないなんて珍し事もあるもんだな」
「そう…なんだよ」
そう、なんであいつが…いつもなら笑いながら話すってのに…
「あ、じゃああいつの前では聞かないこと聞いちゃお。お前さ、有恵のことどう思ってる?」
「どうって…ただ大好きなだけだよ。どんなことがあっても俺が請け負う覚悟がある」
本心だ
これだけは揺るがない
「うおっストレートすぎるのはこっちがダメージ入るから気をつけろよな?」
「例えお前が有恵を傷つけるようなことをしたら、首を撥ね飛ばす自信があるぜ」
「おお、おっかねぇな」
なんて、冗談を交えたようで本気だったり
学校に着くと、また鬱屈な気分がやってきて生徒が入り混じり、ぐちゃぐちゃな空気で俺は息をする
教室に入ると、十数名の生徒と有恵、そして西宮がいた
「あ、有恵…どうしたんだよお前。えらく早いな」
「ん、ええ、わたしが早かったのは先生に提出物があったからだよ。模試の受験届ね。」
「そうか…いや、珍しく朝会わなかったから気になったんだよ」
「ごめんねー、なんかメールとかしとけばよかったねー」
「んーにゃ、そこまでやらんでもいいって」
なにかワケがあるかと思ったが、特に何もないようだ
授業中、なんとなく窓の外にいる鳩を眺めていると、窓に薄く映った有恵が見えた
有恵は、深く考え事をしているようだ…が、本当はなにかあるんじゃないか?
なにを考え────────
「おい櫛喰!外に先生はいないぞ!」
「んあ…すみません…」
「はあ、とりあえず答えろ。だったら別にいいぞ」
「えーっと…係数が2で…単位がkgだから…あーすみません、わからないです」
「じゃあ立っとけー」
クラスは笑いに包まれた
有恵は────笑っていなかった
「なあ、才貴ー?お前授業中にどこ見てんだよ。珍しいというよりらしくないよな」
「あー、ちょっと、な…」
芦上は首を傾げ、俺のほうを見る
休み時間
「有恵…なにか、あるのか?」
「えっ、どうしたの急に」
しらばっくれるというよりとぼけたように驚く
「いや、なんか考え事よくしてるっぽかったから…」
「んー、ちょっとまだ教えらんないなー。でも、わたしのことよく見てるんだね。さすが才貴だよ」
「はぐらかすのは…」
「これはね、才貴が解決するには少し複雑だよ…いや、ごめんだけどわたしの中で考えがまとまったら改めて説明するよ」
…
「そんなに見つめられると恥ずかしいよーわたしの顔真っ赤だったりしない?」
「…いつも通りの整ったキレイな顔だよ」
真っ赤になった
火が噴き出るというより、太陽みたいな眩しさを感じる…
えへへ…と照れている様子だが、隠し事をしているの自体は確定した
と、いうより、俺も有恵に隠し事してたんだから、別に彼女を責めるってのもおかしいものか…
廊下を眺める
いたのは、白髪の───────
ガラッ
教室の前の扉から、”絶対"は入ってきた
クラスがどよめく
だれだ、だれなんだと
別の学年としてだれになんの用事なのかと
俺は、西宮がすぐに教室から離れたのを見た
開口一番に白髪の"絶対"、潮波永香は言う
「おはよう」
恐ろしいほどに明るい声で、圧と熱を感じさせ
そして座った
7×7の席順のちょうどど真ん中
右から数えても左から数えてもあるいは前、後ろから数えても4番目
そこに彼女は座った
そして腕を枕にして寝た
教室の誰もが言葉を失い、唯一潮波永香の存在を知っていた俺だけが理性を保っていた
うちのクラスが始まって約1ヶ月と少し
その間、初日から空いていた中央の席
都市伝説的な意味合いを込めて、うちのクラスには幽霊がいるという話があった
ふと、目下のかわいい少女を見ると
彼女は目を開いて、その白い髪を焼き焦がすように熱線を浴びせていた
と、どこからか
「な、なんだったんだ…」
なんて声が聞こえて
クラスの静寂は壊された
またガヤガヤし始め、有恵の顔は驚いてはいるものの机を見たまま考え事をしているようで、邪魔することが憚られるような姿だった
「あり…え…?」
それでも声をかけた俺は、なんの理由があったのか
いや、特に理由なんてなかった
「…」
有恵は返事をしない
「ありえ…?」
「ッ!……どうしたの?」
ビクッとしてやっと返す
「聞きたいのはこっちなんだが、どうしたんだ?」
「え、や、なにが?」
ひどく焦っている感じがする
「やけに真剣だからさ、なんか、あるのかなって」
「……………」
目を向けてはいるが、口は半開きで心ここに在らずと言わんばかりだ
「あの、」
「…あ、いやその、いまは時間がないから放課後ね」
「え、あー、うん、わかった」
そう言って、有恵はまた俯いて考えを深めた
すぐに、次の授業が始まった
潮波永香は突っ伏したままで、寝ているようだ
「ん?おい、そこのきみ、起きなさい」
先生が催促する
「おーい、起き…仕方ない、おい佐藤、起こしてやれ」
「え、オレすか?!んー、あのーすみませーん」
背中は少し気が引けたのか佐藤はちょっと立って肩を突っつく
「あのー、って起きないんだけど」
「うーむ、まあいい、とりあえず名前は…ん?」
教師が疑問をもつ。当たり前だ、だって彼女は今日まで教室にいなかったのだから
「……ああ、この子か」
そんな小言を、俺は聞き逃さなかった
「もうそっとしときなさい、すまなかったな佐藤。席戻っていいぞ」
諦めるというより納得した感じだ
そんな展開が何度かあった
佐藤はそのたびに起こす係となったが、不服そうに失敗し続けて、教師がやめの合図をかける
クラスメートも軒並み疑問しか感じない
そうして昼休み
潮波永香は一切起きない
死んでるのか?
「なあ、才貴、あの子なんかおかしくね?先生の態度もなんか変だし」
「俺もようわからん」ちょっと嘘をつく
あれは触らぬが吉だ
有恵はまだ考えている様子
「考えるの苦手だしまあいっか、よし飯食うぞ!」
芦上がそう言ったから、了解しようとしたら
「ご飯の時間なの?」
白い"絶対"は起きた
背伸びをして血流を回し、あくびをして停滞した循環に活を入れる
時間にしたらほんのわずかだが俺の方を見てすぐに教室から出た
なんだったんだ…
「なんだアレ…」
まるで嵐だった
いや、静かだったから嵐にしてもかなり奇天烈だ
昼休みでも、有恵はただ考え事をしているようだった
潮波永香…この前会ったときとは明らかに違う雰囲気だった…
そういえば…西宮がどっかに行って戻ってないな…
どこなんだ…などと思いつつ俺と芦上は購買部にパンを買いに行こうとしていた
わからないことばかりだな、なんて呑気だったのも、日常だからかもしれない
眠い5限目を適当に過ごして、そのまま放課後までスキップ…できたらよかったが、あいにく眠い5限目も直前に"絶対"がまた席に着いて爆睡をかましたため、むしろ目が覚めた…わけでもないが、やはり不思議と言わざるを…えな…い…
そんなこんなで先生にちょこちょこ怒られながら7限目の終鈴が鳴る
有恵と帰る…とかを考えたと同時にまた"絶対"は起き上がってどこかへ向かった
尾けてみるのもいいが、やはり有恵と帰るのが優先か
「有恵…?」
「ん、帰ろうか」
ただ帰る
それは、当たり前のことであって、なにも不思議ではない
「…」
俺から聞くのはなんか違うよな
うーむ、どうしたものか
と、悩んでいると
「才貴、あの子のこと知ってる?」
「んえ、あの白い髪のやつか?…まあ初めて見たな。俺が知らないってことは相当の不登校なんだろう。高校三年間であいつを見たことすらない。聞いたこともな。」
「…そう、あの子ね、特学生の講座というか説明の時にいたの、それでね、彼女は公務員…対概局の人だって自分で言ってたの。いや、あの子、対概局のトップに近い人らしいのね、なによりわたしが才貴と出会う前に助けてくれた人なの説明会のときはピンと来なかったけど、今、あの目を直接見てわかった。あの人は人間として区分されるような次元じゃない」
「…?なんのことだ?有恵が助けられたってどういう?」
「わたしが才貴と出会う前にちょっと概物が目の前に出たの。そのときに助けたくれたんだ」
「…知らなかったけど、それがどうしたって」
あの人ってそんなことしてたのか…
有恵を助けてくれたんだったら礼を言わないとな
そこまで考えが廻ったところで有恵が
「もしかしてだけど、才貴ってわたしに隠し事してる?」
「───ッ?!」
なぜそこまで…と思わず聞きたくなった
図星だから誤魔化しはできない
「なんでそんなふうに考えたんだ…?」
有恵はすぐに答える
「今朝、西宮くんに聞いたの。最近才貴にちょっかいを掛けてないかって。本人はそんなことないって言ってたけど、あの反応ならきっとわたしの予想は合ってると思ったの。そしたらね、多分才貴はわたしに嘘をつくか隠し事をしてないと辻褄があわないの。」
さすがに有恵の頭脳を舐めていた
こいつはとにかく勘が冴える
なにか秘密にしてたらすぐに当たる
「なんで白髪のあの子を見てあんなに驚いてたんだ」
「わたしがね、異能力って考え方を知ったのは本なんだけど、確信に至ったのはあの子のおかげなの。あの子が急に手から剣を出して概物を切り裂いたから」
…なにも言えない
詰め将棋をされてるみたいだ
「わたしね、昔才貴に願いを込めたんだ。才貴から悪いものを取り除いてほしいって。多分だけど才貴、これにも思い当たることがあるよね」
「…それは───」
「言わなくてもいいよ、わかっちゃってるし。思い違いがあるとしたらそのとき謝るね」
恐ろしい幼馴染だ
「その、それでね…」
「…どうしたんだ」
「わたし、今までもわかってたけど、その、ね」
言い淀む
「やっぱり、わたしね、才貴のこと大好きなんだってわかったの」
知ってる。知ってるさ。だって俺がそう思うんだから。
「わたしとね、一緒にね…」
「いいよ、俺も大好きだ。お前のためなら命を賭しても頑張れるだけの自信がある」
顔が赤い
真っ赤だ
「そっか…やっぱりそうだよね」
そうだよ、俺は
「ありがとう、さぃき………」
膨らんだ
有恵が、膨らんだ
黒く、黒く黒く黒くなって、刺々しい
筋肉らしき黒腕が、うねる
「え────」
とばされ
パァンッ────────!!
は?
なにが、うぇ、おえっ
血と胃液を吐きながら、潰れた腹をさする
しようとしたが、腕もなかった
ぐぇ
ボトボトと落ちるのは黄色くて赤い、そんな汚い俺の命
あぁ、なにが、起こって
同時に
黒かった"それ"は光り出し、あたりを破壊、穴を開けた
俺の腕はすでになく、腹から下も消し飛び、ぐちゃぐちゃな顔は涙を流しているのかすらわからない
これは、概物だ
脳が否定する
本能が否定する
感情が、体が、記憶が、経験が、知識が
全てを否定する
「なんなんだよ…これ…なんで」
わからない、わららない
わ、わだ、わがらない
煙を上げて肉体が生える
「まだ、いるのか…俺を治してくれたのか」
だれも答えない
そこにあるのはただの塊
いや、有恵だ
じゃなきゃおかしい
だって、だって、だってッだッてッてッッ
途端
光が落ちた
否、光では、ない
「にし、みや…」
「すまない才貴。遅れた。それでこれは…?」
なにも知らない、この天災はおれに聞く
「それは…あり、え……なんだ」
掠れた声で潰れた喉を震わせてただ言った
「…なんと言った」
「有恵が、そこに、いるんだ、いや、いたんだ」
「なに…?詩条さんが…」
刹那
また光る
"それ"は蠢いて、ぐねぐねと破壊を実行しようとする
「これは…ッ」
また穴が…
「傷がない」
「すまない才貴、少し荒々しいが」
西宮は上空に跳んだ
ただ跳ねた
そして気づいた
眼下に広がるのは黒い"それ"とあたり一面が放射状にバラバラにされた建物とナニカ…考えたくもない
その半径は100mはある
しかし、なんで
「失礼します、西宮蒼治郎です。」
西宮は耳に手を当て、おそらく応援を呼んでいるのだろう
「願います。おそらくこれは…概度8、いや9はあります」
?!
「何を言って」
「しっ、すまないがこれはまずい。本当にまずい」
なんだよ、もう、なんなんだよ
浮遊感が消えたころ、自由落下する
「な、なあ」
「すまない、ぼくも、わからないんだ」
「なんで、有恵が…」
着地
穏やかで静かな、落下
くっそ、どうすれば…
「やあ、櫛喰才貴、僕だ」
"絶対"が音もなく現れた
「潮波…」
「さて…これはどういう子なのかな」
「あれは…有恵…詩条有恵です…」
「…冗談は嫌いだ」
「こんな状況で嘘をついて、何になるッ!」
「……本当か、そうか、そうなのか」
「お前は有恵のことを知らないかもだが、あいつは、あいつは…」
「知ってるさ、僕の友人だ」
なにを…
「西宮、アレは概度いくらだと目星をつけている」
「…この破壊痕を見るに、9…だと思われます。下手したら10…」
「そうか…そうなのか、そうだったのか…」
だから
「どうするんだよ、なにか指示を、くれよ、あいつを助かるほうほ────
「西宮」
「はい」
「櫛喰を連れて、後退。そして待機。以上だ。君はこの場では邪魔だ。」
「「…?!?!」」
俺と西宮はお互いに驚いた顔をした
が、そんなの
「何言ってんだおま
「…わかりました」
は?
「お前もなにを…」
飛ぶ、否、跳ぶ
「おい、西宮!!!!!」
西宮は応えない
答えてくれよ
「やめて、あいつと離さないでくれ、たのむ、おい、なあ!」
もはや潮波も有恵も見えなくなって
小さい、そして確実に光は点滅して
タン…
「ここまで来れば大丈夫だ」
「なんでだよ…」
「ここまで来れば『大丈夫』だ」
聞いてわかった
早く行けって意味だ
こいつはこいつなりに俺を尊重している
こいつは命令には背けない
しかし、俺にどこで戦いが起こっているかを見せ、戻らせる気だ
走った
とにかく、とにかく走った
足に付いた炭はまだ落ちてなくて、黒いズボンみたいだった
初めてこんなに走った
初めて
初めて
はじめて
有恵と別れた
そこにあったのは、ぐちゃぐちゃだった有恵が、切り刻まれて、さらにぐちゃぐちゃになっていた
その前には潮波永香が右手に大剣、左手に片手剣を持って突っ立っていた
どこから見ても、こいつが、有恵を
周りはもはやなにもなかったが
俺の頭にもなにもなかった
「なあ、潮波」
「なんだい?」
「それは何だ」
「それって…どれだい」
「冗談は嫌いなんだろ」
「揚げ足は取れるみたいだね」
「お前はなにを取った」
「…」
「黙るな、俺からなにを取った」
「不測の事態といえる」
「で?」
「世の中は不条理と不摂理と不平等で出来ている」
「じゃあ、それでいい」
殴り掛かる
潮波はそれを避け、剣の腹で俺を払う
「ぐぇ」
「なにを喘いでいる」
足蹴り、右手に持っていた剣を捨て、拳で腹を突く
「ぐあっ」
もはや潮波はなにも喋らない
立ち上がる気力もなくなってから
俺は果てない無気力を、無力を、ボロボロの口から吐いていた
「君を上司に対する反抗、及び暴行の未遂で解雇する。残念だが君はしばらく頭を冷やせ。そして、まあいい。"これ"は任せたまえよ。僕なら、しっかりと処分できる」
そこまで聞くと、俺は──────。
拙い文章でしたが読んでいただけて幸いです
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