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日常が一変すると日常になる  作者: 起臥黎明
2/7

災厄の始まり

一応2話目です

身を通していただけると嬉しい

西宮蒼治郎。

青い髪に赤く光る目、容姿端麗、高身長。

そして恐ろしく強い。

一目見ただけでもわからされる存在感の違い。


 「おまえは…」

 心の中で押し殺しながら小さく叫ぶ

 巨大な概物をまるで虫のように潰してみせた英雄。

 クラスは彼一色になり、真っ青な俺は、その青年に声をかけられずにいた。

 「どうしたの才貴?」

 かわいい声が心配する、というよりかは疑問の意味か

 「いや、西宮って、この前の概物倒したっていう…」

 あまり大事にしたいとは思わないだろうし小声で言ったが

 「えっ、じゃあわたしたちを救ったのって…」

 割り増しな声で俺の気遣いは無為になった

 と思われたが、みんな西宮でいっぱいのようだ

 脳のキャパシティの問題か?

 なんて、下らない考察をしていると

 「やあ、櫛喰才貴くんだね」

 これはまた快活な声が耳に入る

 「やあ、初めまして(なのか?)、西宮くん」

 ぎこちないが、誤差の範囲だろう

 「いや、少し離れた場所で聞いてたようだから、シャイなのかと思って。早めに交流をもつのは悪いことではないだろう?もちろん、いやならば付き合う道理はないだろうが」

 そう言って、また自分の席に戻って行った

 なんだったんだ?ただのお話か?

 にしては不自然だった気がしたけれど…

 すると、眼下の紙切れに気づく。

 だれが落としたのか、机の上だったので妙に目立ったのだ

 捨てようと思い、拾い上げるとなにか書いてある

 『あまりぼくのことを広めることはやめてくれると嬉しい。自慢することでもないしね。放課後よければ話そう。4階の西渡り廊下でどうだろうか』

 いつ書いたのかわからないが、おそらく西宮のものだ

 しかも達筆…なのに読みやすい…

 「なにこれー」

 透き通る声がする

 「西宮のやつっぽい。さっきの話聞かれてたのか…」

 地獄耳という評価で決定だな

 「わたしもついて行っていい?」

 「俺が決めることじゃないけどいいと思うぞ。俺が有恵に話しちゃったのが原因だし。」

 それより、あの概物倒したのを見たのって俺しかいないのか…?

 他の連中は西宮との話で一所懸命だ

 

 「おーい、授業始まるから席につけー」

 早いな、時間過ぎるの

 


課後

 さて、とりあえず渡り廊下に向かうか

 後ろについてくる愛らしいやつは俺の後を歩幅すらズラさずに尾けてくる。べつにいやじゃないのでなんともないが。

 着いた、と思うと目前に西宮が。

 あれ、あいつ俺らが教室でたときはまだ数人のクラスメートとくっちゃべってたよな?

 「それで?話ってのは?」

 「詩条さんも来たんだね、よろしく頼むよ」

 「こちらこそよろしくー」

 「さてと、話っていうのは君のちょっとした扱いだ」

 「扱い?」

 「そう、ぼくは他人とは異質でね。少しだけ記憶操作ができるんだ。短時間の記憶だけど」

 「なんだ?催眠術の類いか?」

 「そんな幻術ではないよ。もっとわかりやすいものさ。 そうだな、詩条さん、ぼくの指何本に見える?」

 そう言って肌白いわりに筋肉のついた指を3本立てた

 「3本に見えるよー」

 「じゃあその本数を覚えといてね。少しだけ時間がいるんだ。きみからなにかぼくに質問はあるかな?」

 「時間ってどういう…」

 「その説明はまだ難しい」

 「そうか… 」

 うーむ、質問か…とくにないな…

 「そうだ、お前なんで髪青いんだ?目が赤いのはまだわかるとしても、染めてるのか?」

 「遺伝としか言いようがないが、おそらく他人には普通の色に見えているよ。黒髪にね。」

 「でも俺には…」

 「そうだね、どうやら君にはぼくの髪が青く見えるようだ」

 「どういうこと?」

 「その質問に答えるためにも時間がいるんだが…」

 「うーん、じゃああれだ、この前あの概物をどうやって叩きのめしたんだ?」

 「この前…?ああ、ここのやつか。あれは跳んで殴って蹴って斬っただけだよ」

 「”だけ”の意味わかってんのか?それにしても、斬ったってどういうことだよ、お前が使ってたのはただの棒だろ?」

 「あれは、ただの棒というより特別な棒だね。2色ボールペンと3色ボールペンくらい違うよ」

 「すまん、それほぼ同じじゃないか?」

 「うん、大きな部類ではそうだね」

 なんだ?こいつ天然かなんかなのか?

 それとも厨二病的なアレか?痛いやつなのか?

 「そろそろだな…」

 腕時計をつけてもいない右腕を見て西宮はつぶやいた

 「詩条さん、ぼくはさっき何本指を立てた?」

 3本だろう、何を言って────

 「たしか、4本?」

 んなッ?!

 「有恵?何言ってんだよ、3本だって…」

 「えっそうだっけ」

 なんだ、なにかおかしい

 俺が見間違えた?あるいは有恵が…

 「わかってくれたかい?」

 ──ッ!!

 「記憶操作、ほんとだっただろう?」

 「な、おま、有恵になにを──」

 「別に脳をいじったりしたわけじゃない。変えたのは世界のほうだ」

 「は?」

 何言ってやがる。やっぱり痛い病気だろ

 「精神科にでも行け…」

 「ぼくはね、世界の常識、存在に少しだけ干渉できるんだ」

 「なんだと」

 信じられない。それしか言葉がない。

 西宮はつづける

 「われわれ人間や動植物、石のような無機物にさえ、存在力というのがある。存在力とはその存在があり続けられるための力。ベクトルだ。基本的に外側に向いている。」

 存在力?ベクトルが外?なんだ、物理の話なのか?

 天災はつづける

 「存在力というのは存在という概念、つまり万物の存在というもの自体がその存在を保つための力。ゆえにどんな概念にもなりうる能力がある。ぼくはその力の一部を記憶操作という概念に変えて行使することができる。条件はあるけどね。」

 なんなんだよ、なにを言いたいんだ

 「ただ、どうやら君にはぼくの記憶操作が効かないようなんだ。それが腑に落ちなくてね。」

 「そ、そうか。悪いけど自覚がないんだ」

 「それを信頼できるとでも?」

 「な、どういうことだ?」

 「異能力の発言には条件が必要って言ったよね。その条件が例えば『なにかしらの異能力にかかる』であり、効果が『その異能力を無効化した上で何かをすることができる』だったとしたら、いまぼくはピンチである、かもしれないわけだ。きみの敵意の可能性を排除できない限りは信頼も信用もできない」

 「ちょ、ちょっと待てよ。なんで俺がお前に敵意を?!」

 いきなりにもほどがあるだろ

 「例えその敵意とやらを俺がもってたとしてなんですぐにお前を攻撃しない!!」

 「それは無害の証明にはなり得ないよ」

 一触即発な状況だ。動けない。動けば先日あの概物を殺したように消しかかるだろう


 「ちょっと待ってよ」

 有恵?

 「なんで西宮くんはそんなに才貴のことを嫌ってるの?」

 「? いま説明した通りだけれど」

 「わたしはその異能力ってやつ信用してないよ。西宮くんが才貴へ向ける感情のように」

 「そうか…今日の昼ごはんはなんだった?」

 「自前のお弁当です」

 「中身は?」

 「鯖の塩焼きにお米に昨日のサラダの余りとミニトマトと…」

 「鮭だったはずだよ。ね、才貴くん」

 ッ!まさかこいつ、すでに操作を…

 「そうなの…?」

 「……そうだ」

 嘘をついても弁当の中身を見ればピンクの魚の身が残っているだろうし、無駄に時間をかけるのは状況として芳しくない

 「ね、これが異能力…」

 「…」

 有恵のフォローが途切れた。仕方ない

 「さて、とりあえず本音で話し合おう。」

 手刀の構えをとる。おそらく俺の肉体など豆腐と同等かそれ以下の感覚だろう

 なんだってんだよ、俺がなにを

 と、そこでキレイな声が俺の思考を横切る

 「西宮くん、才貴に能力を失くす力があるのは、多分わたしのせいだよ」

 なにを言って…西宮の目つきが変わる

 燃えるかのようだった赤い目が、さらに真紅を帯びて、睨みつける

 「わたしね、10年くらい前に星に願ったの。幼いと思うかもだけど、そのとき『才貴にかかるあらゆる悪いものをなくして』って」

 なんだ、そんな話初めて聞いたぞ

 「…条件は?」

 「それは言えない、多分このことを胸の中に隠すことも条件になるから」

 「ならば悪いが」

 西宮の鋭い手先が、俺に向けられていた手刀が、有恵へと方向を変え、風を切りながら進む

 「ふざけんな…ッ」

 掴む。両の手で、西宮の片手を止める。否、全身で止めている。

 「なんで、俺だけならともかく有恵をッ」

 「…」

 それは、軽蔑の目。差別する者の目だ。

 「逃げろッ」

 「えっ」

 反応が遅れた有恵は、言葉を吐くが俺は構わず

 「逃げろッ」

 そして有恵は走り出した

 と思った時、有恵は倒れた

 「なにが?!」

 「少し、少しだけ…ね」

 天災はぴくりとも動かず、ゆっくりと口を開けた

 「んで…なんで…」

 直後、俺は尻もちをついた

 握ってた腕が払われたのか、どうなのか

 落とされた腕を見てそう思った


 




 落とされた?

 「ひゃっ」

 ドロドロと流れる血脈。鮮血と鈍血が混じって真っ赤になった

 右腕が落とされれれれれた

 痛みより怖さが勝って、頭は正常なまままままままだ

 胃から込み上げる酸が、喉で詰まって息苦しさが増す

 「きみを殺したとして、なんとでもなる」

 なんで…そんな声を嘆くことすら許されない

 「それより彼女を殺してきみの能力が解除されればよし、されなければきみも殺せばいいか」

 そうやって天災は有恵に近づいて構える

 「や、めろおおおおおおおおおおおおお」

 血反吐と吐瀉物を撒き散らしながら彼女の無事を神に祈る

 刹那、なにかを掴んだ

 右腕で。

 感覚がないはずなのに、幻肢痛の一種かなどと呑気に思いつつ、答え合わせをする

 腕が、生えていた

 いや、生えたにしては真っ黒すぎる

 まるで炭だ

 しかし西宮の左手を掴んだ右腕は、思いっきり俺の方へと引っ張られ、先ほど微動だにしなかった西宮を連れてやってきた。

 「なんだこれは」

 そして俺は立ち上がり、整った顔立ちの天災を自分が知る限り限界の強さで殴った

 「ぐふっ」

 そんな無様な声をあげてイケメンは崩れ落ちた

 「これは、君の能力か?まさか臨死体験による強制発現…?タイミングが悪過ぎる」

 「お前がいくら俺の腕を落とそうが首を切ろうが内臓引っ張り出そうが俺はどうでもいい。でも、有恵を…」

 傷つけるやつはッ

 「許さないッ」

 殴る。殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る

 喧嘩なんて痴話でしかしたことないし拳を交えるなんてどうかしてる

 けど、こいつだけは…

 天災は両腕を器用に使って、おれの単調な攻撃を的確に流した

 右大振りは身を屈めて避け、左フックは右手で受け止めてそのまま外に払う

 そうして隙を晒した俺は蹴りを腹に喰らい、のたうち回るかと思ったら、脳がアドレナリンだかドーパミンだかをドバドバ出すせいで痛みが一切ない。

 そう知ったのならもうなにも怖く、ない

 天災の赤い目は揺れ動きながらもどこか遠くを眺めており、おおよそ俺を見ていない。

 俺の肉体はボロボロになっていた

 いたる箇所が千切れており、そこが黒で塗られて出血が停まっている。

 でも、さっきまであった怖さはなく、むしろ勇気に満ち溢れていた

 と、そのとき

 地面が近付いてきた

 いや、俺が倒れたのだろう

 と、気づくのに幾瞬かかった

 受け身も取れず、不恰好に倒れ、天災に攻撃の機会を完璧に与えてしまう

 息が、荒い、体が、自分の、ものじゃ、ないみた、いだ

 「おそらく存在力の消費量が限界に達したみたいだね」

 「んだと…はあ…」

 まともに会話ができない

 「さてそれじゃあ」

 「待て、有恵は…」

 すると天災は有恵を素通りしてどこかへ行こうとする

 「何のことだい?」

 「は?」

 驚きの言葉が勝手に飛び出す

 「ぼくがしたかったのは君らが無害であるかどうかを調べること。転校というか異動先でこんなことになったのは意外も意外だが、結構面白かったよ」

 おも、しろい?俺の命を、こいつは、有恵の命を、こいつは、なんて野郎だ

 「後日改めて謝らさせていただこうと思う。少なくともいまのきみらに謝ったところで火に油を注ぐだけだ。」

 「いつ謝ってももう遅いぜ…なんで殺されかけたやつを許さないといけないんだ」

 「言えてるね。まあ、これは自己満足のひとつだから適当にあしらうもまた一興といえる」

 なんなんだ?なぜこいつは人を殺すことをここまで軽視してる?

 「ああそうだ、詩条さんだが、おそらくすぐに起きるよ。軽く記憶をいじって寝ている最中ということにしているから」

 それには無言で返す

 「では、よき学生ライフと洒落込もう」

 天災はそう言って、4階から飛び降りて平然と歩いて行った

 身体のあちこちがズタボロの絞ったぞうきんみたいだが、なんとか起き上がって有恵に近づく

 と、自分の拙さを思った直後に

 直前まであった炭がもとの肌に戻っている

 そして俺が流した血が、いつのまにか消えているのだ

 「…能力ってなんなんだ…」

 「うう…」

 愛らしい声があげられた

 「有恵!大丈夫か?」

 「あれ、才貴じゃん。なんでこんなところでわたし寝てたの…」

 「さあな、催眠術にでもかかってたんだろうよ」

 なんて、ジョークにしてはブラックすぎるが

 「そういえば西宮くんは?」

 「帰らせたよ」

 「へぇ…そうなんだ…」

 有恵に説明すべきか否か、いや、説明するとなると西宮に対する印象がさらに悪化するだろう

 人間関係のこじれはもはやあいつにとって殺人の動機になりうる

 ならば、有恵には伏せておくのが吉と見た

 「あれ、才貴なんだかやつれてない?」

 「ん?ああ、ちょっと西宮との能力がどうこうって話で気が滅入ったんだよ」

 なぜかわからないが服も直っていた

 肉体だけならただの傷が治るというのの延長線上だが、服の修復なんてできるものなのか?

 それとも西宮がなにか…

 兎にも角にも生き残ったのはまあいいとして、かなり面倒になったな…


 平凡な日常ってやつが壊れたような音が、このとき聞こえたが、その音は有恵のかわいい呼吸で打ち消されることとなった。

ここまで読んでくださったみなさんには感謝申し上げる

最近腰を痛めたので、執筆の頻度がマチマチになりますが、ご了承願います

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