表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日常が一変すると日常になる  作者: 起臥黎明
1/7

対面式

いつも、俺は日常を愛していた

変化がない日々が続けとは言わないが、毎日を楽しめるというのは、それが俺の幸せだ

それを守るためなら…俺は────。

 今日はとてもいい日だ

太陽はキラキラしてるし

わずかに湿りつつも涼しい風が髪を靡かせる

自転車で走る同い年くらいのやつらはみんな月曜の鬱屈に嘆息しているように見える

建物の影に入ると暑さを忘れ、日向に出るのが躊躇われる

なんなら空の白色が太陽を塞ぐまで待とうかと思われる

今は7時23、いや24分か

急ぐにはまだ早いし怠けるにはもう遅い


 学校というものに意義があるとして、そこに意味はあるのか

そんな議論をしてると少し暗くなったのでちょいと前進をば

まさか雲と同じスピードを出せるとは思わんができることなら少し速くなりたい

まあ、走れば暑くなるし熱線を浴びるよりキツいのは日を見るより明らかだ


 そういえば昨日あったニュースで近くの街に”概物”が出たって話を聞いたな

 個人的に被害が出るくらいならウチの街で出して欲しいという、現代っ子ぶりを見せているが、本当に出たとしたらどうなるのだろうか

 潰されるか、はたまた食われるか

 まあ、その時にどう思うかなんて今の自分にわかるはずもないがそうなったら神にでも命乞いするのだろうか、神は信じてないけど


 「おはよう」

 軽快で聴くだけで心地の良い声が聞こえる

 「うん」

 愛想のない返事を送る

向こうがどう思うかなんて特に気にしてないが、まあ、いい印象を受けるとは思っていない

 だがしかし

 「お返事ありがとう、才貴!」

 こんな日常、そのまま当たり前だしなんとも思わないけど、返事をすること自体はよく思われるのだろう。少なくとも彼女は。

 「昨日のニュース見た?すごいねー」

 「昨日、というとあれか、あのが」

 「まさか人気アイドルクリスマス・イブが解散なんて!」

 「あーそっちか…」

 「そっちって言うと、どっちがあるの?」

 「いや、となり街で概物が出たって話かなと思ったんだよ」

 「そんなのもあったねー」

 『そんなの』というには、いささか規模が違う気がするが、誤差というほかあるまい、彼女に限っては。

彼女にはいつも元気を与えられる

 話を遡らせるとしたら、10年前くらいまでかかると思う。

詩条有恵。2010年にしては少しだけ珍しい?名前かな

 彼女との出会いを語るとなると原稿用紙が100枚あってもどんだけ書いても空白で98枚は埋まるのでいうてそんな濃いものではない、が

 原稿用紙2枚分の話を────


 「ねえねえ!課題した?」

 「急だな…してねぇよ」

 「ノート要る?わたしもやってないけど!」

 「そのノートに需要はあるのか?」

 「女の子の手汗がついたノートだよ?フリマアプリで二千円は稼げるね」

 「言っとけ」

 そんな他愛も生産性もない話で学校前まで来てしまった…

なんか癪だな

 

 「お、才貴!」

 「ん」

変なやつが話しかけてきた

朝から元気だなこいつら

 「有恵もおはようさん」

 「うん、芦上くん」

 「課題やってないから見せてくれ」

 「わたしも才貴もやってないよー」

 「自慢げに言うのか」

 と、世界の終わりみたいな惨事に直面ingといえる

 笑うほどのことではないが、日常というのは微笑むには少し過剰だ


 「とりあえず言い訳考えるぞ─────


爆音。

それは建物を木霊し、反響し、空を掻き乱すには十分で、思考をミックスするにはあまりにも大きすぎた。

「ッ!!」

聞こえない!

誰の声もッ周りの日常もッ

なんだ、耳がッ割れッ頭がッぐるじッ

息できッ立ってッてッてッてッ


 揺れが落ち着いた頃、頭痛がひどくて、頭が痛みで警鐘を鳴らしすぎて鐘が壊れたように感じたとき

 やっと意識が覚醒した

 「痛い…」

ッ!!

 「あり、えッ?!おい、大丈夫、か?!」

 有恵が倒れている。隣で芦上が横に。

息が、途絶え、途絶えで、心配する、自分、も、また、倒れそう、になって、いる、ことに、気づ、ききれ、てはいない


 なんでッ?!なんでこんなに、こんなことに、なにが、あっああっ

 は、はや、はや早く

 とにかく2人の息があるのか、ごちゃごちゃな頭で判断して、有恵の口元に耳を近づけることにこんな状況でも多少なりドギマギするが呼吸を確認し、芦上も健在だとわかると、やっと落ち着いてきた頭が、同時に胸を撫で下ろす

 砂埃で周りが見えないが、阿鼻叫喚な世界で、自分たちが3人だけでないことにまた少しだけ安堵した

 くそっ、さっきの音と同じくらい騒がしい

 早く2人を安静にさせない───と──────


砂埃が払われた、と気づくと同時に

”なにか”、いる

そう直感した

現代に生きる自分ですらわかるほどの、恐怖のかたまり


そこにいたのは、”概物”だった

なんてデカさ

山が動いているかのような、こんな巨体が動けるのか?

そんな疑問もすぐに打ち消された


 ゴウッゴウッと音を鳴らして、そこにいるのは見た目として怪物と言う他のない存在。

 容姿を説明するなら、真っ黒な肉体に黄色いラインが数本生え、8本の腕が7本の指でビルを掴み、頭部と見られるものには目玉らしきものがあり、ギョロギョロと辺りを伺っている。口と思しきものには猛獣を思わせる犬歯が無数とムカデの顎のような牙が数本。

 まさに蜘蛛の怪物、否、概物だ。

 なんなんだ、こんなに怖いのか

 食われる、さっき、あんなの、思ってたのに、血と臓物と脳漿をぶち撒けながら、弾け飛ぶのか

 せ、せめて2人をどこかに

 逃げ、逃げないと


またも爆音

しかしそれは先ほどの爆発のような音ではなく、金切り声のような感高いものが鳴り響く

空気の共鳴と空回りする自分の魂の葛藤

 にげ、逃げられるはずがない

 これが蛇に睨まれたカエルの感情

 やつは俺らのことをエサ程度にも思ってやしない

 ただの人間、生命としての格の違い

 どうす、すれば、


そこまで考えが回ったと刹那

天から光が落ちた

いや、光ではなく人だ

ただの、ただの人だ

海の如く深い青に真っ白な正装着。

端正な立ち筋に腰にあるのは剣のような棒。


 彼に見惚れていると彼は光るのと同じ速度で動く。

 地面に、概物が開けたクレーターよりも大きい凹みをぶち開けながら、跳躍、拳を握り、叩き込む。瞬間、概物はその凹みよりもさらに大きい凹みを生み出しながら後方へ吹き飛ぶ、と思ったが同時に天空へと蹴り上げられ、抜棒と同時に空間が歪んだかのように、概物に切れ込みが生まれ、そして一瞬でチリと化した。

 「んだこれ…」

 という圧巻の言葉すら喉の奥に沈められ、周りにあるのはクレーターとその青年のみであった。

 青年はこちらに振り向き、叫ぶ、否、話す

 「みなさん、ご無事ですか?救急隊がまもなく訪れるのでいましばらくお耐えください。わたしは救護に回りますので」


 なんだ、これは

 こんなものなのか

 これが人間なのか

そして気づけば青年はどこかへ駆けて行った



それからしばらくして救助がやって来て3人を運び、病院で診察後、2人はショックによるちょっとした失神で、すり傷が少しばかりあった程度だった

入院するほどのことはなく、2人の覚醒はせいぜい半日といった具合で、後遺症等はないようだった

俺は俺で、あの概物を見た意識のある被害者ということで対概物会社にいろいろ聞かれた


さてはて休閑。

2週間が過ぎた頃、無事なやつから学校への登校が推奨され始めた

さすがにこの間に関しては学校側も休んでいるやつらのことを出席停止にするんだろうけども



なんであんなのが、あそこに…

 「先日の南区の概物事件についてですが、本日は専門家の九童さんに来ていただきました。よろしくお願いします。」

 「はい、よろしくお願いします。それでですが、今回の概物は蜘蛛だったようですね。ご存知かもしれませんが、概物とは概念の怪物、そして概物はその概念に向ける恐怖・尊重・愛慕の強さによってその性質が変わります。われわれが蜘蛛に向ける感情は主に恐怖が強いため、肉体が凶暴なものになりました。地震に震度という10段階の災害レベルがあるように、概物にも10段階の災害レベル、概度が存在します。今回の蜘蛛の概物はこの中でレベル3に相当し、レベルとして見れば低く思われるかもですが、自然災害だと救援が多数必要になるほどです。今回は国家対概物対応局、通称国概局が応対し、被害は最小限に抑えられましたが、概物があれ以上凶暴化した可能性まで考えるといささか猶予があったとは思えませんね。それで」


プツンッ

 「才貴、今日から学校って言ってたでしょ。もう7時10分になってるよ」

 「ああ、母さんありがとう。」

 そうやって日常に戻れたことへのありがたみと母の気遣いのありがたみに感謝して家をあとにする


街が復旧工事に入って少しずつ日常が戻っている様子だ

学校は不幸にもほぼ損害がなかったので普通にあるようだが、5校時で終わるようなので久しぶりの学校といえども足取りは軽い。いつもは7校時だからな。


 「おはよう」

 気分のいい高く澄んだ声が聞こえる

 「おはよう」

 有恵も元気そうではある

 「よかったねーお互い何事もなくて」

 「そうだな、安心したよ」


 そうして学校へ向かう

 なにがあっても太陽が昇るように

 何があっても有恵は俺に会いに来る

 よかった。ほんとうに。

 

 「そういえばさ、昨日好きな本の新刊が出たんだよー」

 「ふーん、なんて本?」

 

 そんな、日常を口にして、笑って歩いて

 ただ楽しい

 「才貴ー!有恵!」

 「ああ、芦上か、おはよう」

 「おはよう芦上くん」

 「ほいほいおはよう。学校行くのめんどうやなあ」

 「なら休めばいいのに」

 「あれ、事務的なやつ発生すんだろ?それはそれで面倒やん」

 「それもそうか」

 「そうだよ」



学校に着いて、クラスメートの無事を安堵とともに噛み締めて、HRを待つ

 「よし。うちのクラスはほぼ全員傷なく済んだみたいでよかった。復帰初日から全員登校とは感激だぞ。」

 うちの先生はそこそこ明るいし、根性がある若めの教員だ。日常の回帰がこうも嬉しいとは

 「ああそうだ。転校生が来るぞ。」


クラスがどよめく。

だれも聞いていなかった話だ。

互いに目を合わせ、騒がしくなり、不愉快な音が鳴り始めたころ

先生がにこっとして

 「静かに。じゃあいいぞ」


静寂の中、扉が開くと同時に俺は、唖然とした


あの青さは…

 「どうも。西宮蒼治郎です」

 空が淡く見えるほど青い髪に整った顔立ち、烈火のような赤い両目が、クラスを視界で埋める

 そこにいたのは、天災だった。

こんなとこまで読んでくださりありがとうございます。

拙く惨めな長文だったかもしれませんが、書き終わったいまは満足感でいっぱいです。

これからも続投していくつもりなので、温かい目で見てやってください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ