短編 99 抱いてください
すごい話が出来ました。
ある意味サーモンの集大成。
可愛くて、ほっこりして、真面目で、オチもある。
すごい完成度なんだぞ! 本当に!
タイトルは酷いけど。
「抱いてください」
ハリネズミさんに言われました。
とりあえず手の平に仰向けで寝かせました。
超かわいいです。
ハリネズミさんは満足して去っていきました。
「抱いてください」
ヤマアラシさんに言われました。
「ちょっと無理です」
諦めました。あまりにもトゲがすごすぎます。
ヤマアラシさんは寂しそうな顔をして去っていきました。
「抱いてください」
ウミウシさんに言われました。
顔をひきつらせながらも手の平の上に乗せてみました。
でろりとしたものが手の平に広がります。
ウミウシさんはご満悦です。お礼を言って去っていきました。
「抱いてください」
パンダさんに言われました。
言われてすぐに抱きしめました。
パンダさんも抱き返して来たので死ぬかと思いました。
でも悔いはない。
パンダさんは嬉しそうな顔をして去っていきました。
「抱いてください」
クマさんに言われました。ツキノワグマです。
死を覚悟しました。でも抱きつきます。
死ぬのは怖いので背中に張り付きました。意外と硬くて気持ち良くないです。
クマさんはご機嫌で去っていき……待って背中に乗ったままだから! 下ろしてー!
「抱いてください」
イノシシさんに言われました。
「だくのー!」
ウリボーさん達も居ました。
パラダイス。まさにここが桃源郷。
撫でまくりの抱きまくりの頬擦りしまくりです。
イノシシ一家は艶々になって山に去っていきました。
「抱いてください」
カンガルーさんに言われました。
よーし、抱くぞー。と目の前に立った瞬間、蹴られました。
三メートルほどぶっ飛びました。地面にずさーと轍が残りました。
「あ、ごめん。つい」
カンガルーは戦闘種族。彼らは眼前に立つものへと容赦なく蹴りをぶちこむ修羅の者。
抱きつく際は後ろから……ぐふ。
「大丈夫ですかー?」
看護婦さんに言われた。
ここは病院のベッドの上。
今まで見てきたものは全て夢だったのだろうか。カンガルーキックで空を舞ったのも……夢?
「抱いてみます?」
看護婦さんに言われた。
「私……女の子なんですけど?」
「だって泣きそうな顔してるから……てい!」
看護婦さんに抱きしめられた。これはこれで良い。
抱きしめるのも、抱きしめられるのも、共に良いものだ。
これは夢じゃない。だからきっとあれも夢じゃない。カンガルーさんに蹴られたのも……げふ!?
「いだだだだだ!?」
「あら、そう言えば重傷だったわね。大丈夫?」
ベッドの上で痛みに悶絶し、のたうつ事になった。
看護婦さんはデンジャラス。
彼女は笑いながら去っていった。
全身に複雑骨折。
欲望のままに抱いてきた代償は安くはなかった。
それでも悔いはない。
「おみまいにきたのー!」
イノシシ一家がお見舞いに来たから全てがモーマンタイ。
「いやぁ、なんか済まんね」
カンガルーさんもお見舞いに来てくれた。よく見たら尻尾が超太い。そして全身がムッキムキだ。なにこの筋肉生物。
「だくのー?」
「うん、抱かせて?」
ウリボーならば大丈夫。ベッドの上でうりうりさせてもらった。
怪我が治ったらリベンジだ。
「……ん? 袋に入りたいの? オスだから無いよ?」
カンガルーさんはまだ病室にいた。床で寝そべっている。
腹も掻いてるが、まぁいいや。
私は抱きしめる者。そこに垣根は存在しない。どんな生き物だって抱いてやる。筋肉モリモリでもバッチコイ!
「抱いてくれますか?」
ヤマアラシさんもお見舞いにやって来た。
……少し考える。ナースコールをポチっとな。
さて……やるか。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
病室は血に染まった。悔いはない。退院までの期間が一年延びたが悔いはない……かふっ。
今回の感想。
まさに集大成。サーモン イズ これ。