BET-7 【偶然】1.思いがけないことが起こること。2.必然の間を繋ぐもの。
――死ねばイイッ!
私は“用意”をして研究室前の廊下に隠れていた。
研究棟内に自然に溶け込む為の白衣、昨夜ホームセンターで購入し、袖口に隠したサバイバルナイフ。
正直まだ、自分がこんな物を用意して、こんな所に居るのが信じられなかった。
物陰に隠れながら高槻の研究室のドアの様子を探る。もうすぐ出てくるのか、一日中ここに居るつもりなのか、ドアは語ってくれない。
昨日まで……より正確に言えば十二時間程前まで、自分の人生は完璧だった。
自分が生まれた家は関東のとある地区で、代々国会議員を排出している名門一族。
広大な芝生の庭のある家は、ほとんどの友達の家よりはるかに広く、豪華だ。知り合いで家にお手伝いさんが居るのは私だけだったし、犬を三匹も飼ってるのも私だけ。
小さい頃から兄は次代の政治家になるのだと言われ、私もそれに匹敵する立派な職業に就けと教えられ続けてきたが、別にそれは私たちにはまったく苦痛では無かったように思う。私の家は友達の、普通の家とは違って優秀だから当然だと認識していたのだ。
私はそんな両親の期待をまったく裏切らず、成長するにつれて次々に才能を開花させて行く。成績は常に学年でトップで、特に部活に入っている訳では無かったが、運動面でも何度か地域の同年代の記録を更新した。市のコンクールに出した絵画が有名画家の目に留まって、美大への進学を勧められたこともある。
それも全て当然のことなのだ。だって私は人の上に立つ一族として生まれてきたのだから。
生まれた時からやれ神童だ、才色兼備だと言われ続けた以上、私にも当然妬んでくる輩は大勢居た。しかし、それ以上に私を慕う友人が多く居たし、私の家のことを聞くと誰も妙な事をしようとは考えなかったようだ。
最近では三つ上の兄より先に議員になれるかも、とすら思っていたのだ。まさに私の歩んできた道は完璧な人生。――――昨日までは。
高校が地元の私立大付属だった為、東京の大学に受験で進学したのは知り合いの中で私だけだった。慣れない環境、街、人。私の隣には守ってくれる家族も友人も居ない。自分がいかに狭い囲まれた世界の中に居たかを痛感する。
とにかく新しい仲間を一刻も早く確保しなくてはならない。確保して、崇めさせて、私が人々の上に立たなくちゃいけない。私の方がそこら辺に居る人間よりも全てにおいて上なんだから、私が彼らを束ねてあげた方がお互いの利益になる。
そう考え、入学早々さまざまなクラブや研究室を回った。何事も自分で一から作るよりも、今あるものを自分の物にする方が早い。しかし、簡単に自分がトップになれて、なお且つ後々の自分の経歴に花を添えるような集団というのは中々存在しなかった。
そしてとうとう見つけたのが高槻ゼミ。現在の所属人数は少なく、高槻教授は電子工学が専門ながら、個人的な伝手で財界に顔がきくことで有名だったのだ。一年の内はゼミに参加することは出来ないが、学年が上がるまで見学と称して通いづめれば、いざ参加した時に集団の中で優位に立ちやすい。それまでは適当なクラブに入って末席として穏便に過ごしていれば良いだろう。
そう考えた私は目標を高槻ゼミに定め、その日の飲み会について行った。
――そして嵌められた。
初めての屈辱。初めて他人に見下される思い。……耐えられなかった。
高槻は正確には写真を学校と両親ではなく、我が家の議員を代々排出してきた選挙区のライバル議員に流すと脅迫した。自分の家柄がステータスになった事は多々あれど弱点になるの初めてで、それをさらりとやってのけた高槻はまさに人生初の障害、人生初の私より人の上に立ち慣れている男だったのだ。
父は良く言っている。選挙ではイメージが何より肝心だ、と。仮に飲酒の事実が不確かな写真でも、ネガティブキャンペーンの材料には十分過ぎるだろう。
憎い、憎い、憎い!
今の私の根本を支えている家を危険に晒すわけには行かない。出会ってから数時間であっさりと私を屈服させた高槻という男が何より憎かった。
意を決してドアに手をかける。開かない。
高槻は用心深い男のようだったから、基本的に鍵をかけているのだろう。仕方がないからノックする。
数秒の間の後、ドアを僅かに開けてこちらを探る高槻。立っているのが私だと分かると何の疑いも無く部屋に入れた。
「やれやれ、夕方まで待ち切れなかったのかね?」
ざわり。怒りが波紋して全身を伝う。
誰がお前なんかに……、家のことさえなければ誰がお前なんかの言う事を聞くか……。
高槻は満足気な顔でこちらを見ているが、期待に沿うつもりで来たのではない。
袖口のナイフを握りなおす。持ち手が若干汗ばんできた。
――脅すだけだ。脅して、私を服従させるなんて馬鹿な考えを改めさせる。
「気が早いのは結構なんだが、学生たちなしで始めると私が怒られてしまうからね」
悠長なことを言いながら背中を向け、高槻は自分のパソコンをロックして作業の一時停止をしている。
――次だ。次にこちらを振り向いたら、ナイフを取り出して脅しつけるんだ。
高槻の手元を見つめてその瞬間が来るのを今か、今かと待つ。まだ駄目だ、殺す訳じゃないんだから。殺したりしたら余計に家に迷惑をかける……。
自分は殺しに来たんじゃない。ナイフで脅して、写真のデータを控えも含めて消させるだけだ。パソコンはそこそこかじってるから、ゼミ生のも含めて全部のパソコンに触れさせてもらえば自力で……。携帯のデータもこいつを使ってゼミ生に命令させれば……。
「しかし従順な子だな」
…………え……?
……ジュウ……ジュン?
それって私のこと? ジュウジュンって何でも言う事聞くっていう従順?
対等に交渉する為に来た私が従順ですって……?
無意識の内にナイフを両手で握り、高槻の背中狙って大きく振りかぶっていた。
「今まで何人も君と同じようにしてきたけど、抵抗もせずに素直にここに来るのは初めてだよ」
……違うわよ……私は従ってなんかいない! ただ、交渉しに来ただけ。
そこら辺の凡人と一緒にしないで!
今すぐ高槻の背中にナイフを突き立てようとする右手。それを渾身の力で留める左手。
駄目よ! 殺したりしたら家が……私を守ってきた基盤が……。
「議員の娘なんだから、そんなに軽い女じゃ駄目だよ」
……グサッ。
……もう、いいや。家系とか、どでもいいや。
私は私なの。一番大事なのは私のプライドなの。
私はプライドの塊だから、プライド傷つけられたら一番傷つくんだ。
父親が落選しようが、兄が路頭に迷おうが関係ないや。だって今この場で、今傷ついてるのは私だもん。
だから良いよね……自分を傷つける人を傷つけたって……。
高槻が最後の言葉を発しながら椅子ごと振り向いた瞬間、私の左手はがんばるのをやめた。右手と一緒に開き直って、本能の赴くままに速く、深く、力強く振り下ろした。
虚ろな目を向ける高槻。彼は既に呼吸をしていない。私の両手と白衣の胸元にはきれいに返り血が付いていた。
とりあえず部屋の隅の洗面台で手を洗う。部屋のタオルを使うとまずいと思ったので、行儀が悪いが着ていた白衣の裾を使った。自分でも不思議なほど思考が冷静だ。
まずは自分の身を守るために偽装工作しなくてはいけないと思った。そこで昨日乾とか言うゼミ生から聞いた、冷房の話を思い出す。あらゆる実験が可能なように、研究棟の空調はそうとうな温度まで下げられるとの事だった。
試しに服の袖を使って、指紋を着けないようにパネルをいじってみると10℃まで下げられた。これで死亡推定時刻は誤魔化せるだろう。もしもこの状況を乾が見たら、私のことを警察に話すかもしれない。一瞬不安になったがすぐに杞憂だと気づく。彼らにも私を脅していたという後ろめたさがある以上、ゼミ生たちが私のことを警察に話す事はあり得ないのだ。誰だって他人の大罪を暴露するよりも、自分の身の方が心配だろう。
それから死体に刺さったナイフの指紋を念入りに拭き、部屋を後にしようとした時、廊下に人の気配がした。耳をドアに付けて確かめると、立ち話をしている学生グループが居るらしい。現場を出る所を見られるわけにも行かず、窓を開けて部屋を去ることにした。
窓を開けておくと、疑いの目がゼミ生以外にも向くので抵抗があったが、仕方ない。何も事件から完全に無関係になる必要は無い。疑わしき数万人の中の一人へと埋没するだけで十分だ。誰かに家で怯えていたとでも言っておけば、むしろ捜査の目から逃れ易いかもしれない。
そうだ! 入学してすぐに仲良くなった黒御簾由佳という子が居たじゃないか! 素直で扱いやすそうだし、彼女に相談する振りをしておこう。
外に出てから一度だけ、室内を振り返る。死体となった高槻は相変わらず虚空を見つめていた。
きっとあれは、どこにも存在しない「自分に従順な柘植かりん」という女を見つめているのだ。現実にはそんな人間は居ない。居るのは丁度今、プライドの為にお前を刺殺した柘植かりんだけだ。
――私のプライドがあいつを屈服させたんだ……
なのに。……なのに……なのになのになのにっ!!
「……どうしてあなたまで私のプライドを踏みにじるの?」
かりんが呟く。
それが誰に向けた言葉なのか、“あなた”とは誰なのか、私には分からなかった。
涙を浮かべながら唄方くんのこめかみに銃を当て続けるかりん。私が知っているどのかりんでも無いけど、どのかりんよりも本当のかりんに近い気がする。
私はかりんを勘違いしていた。彼女はしっかりしていたんじゃない。しっかりしている振りをするのが、上手かっただけなんだ。
かりんは本当は弱い子だったんだ。もっと早く気付いていたら、私に何か出来たんだろうか?
部屋には緊張が走り続けたまま。警部は手錠を持ったまま硬直しているし、猿渡と乾も腰を抜かしてしまっている。てっきり雉山も一緒に震えているかと思ったら、何だか私の斜め前あたりで両手を上げかけたような変な体勢だ。視界の端に入って鬱陶しい。
「刑事! その手錠を捨てなさい! 他にも武器があったら全部よ」
警部は「刑事じゃなくて警部だ」と言おうとしたが、おとなしく手錠を部屋の奥、機械類でごちゃごちゃした辺りへ投げた。
かりんがすぐに私たちを撃ち殺すとも思えなかったが、事態は一向に好転しない。
どうにかして説得するんだ。その為には、黙っていてもらわなきゃいけない奴が居る。
私は「絶対に口開くなよオーラ」を込めて唄方くんを睨む。彼は人の神経を逆なですることしか基本的に言わない。
「撃ったらどうです?」
おいおいおい。空気を読め、目で会話する方法を学んでよ!
とても銃を突きつけられている立場の人間とは思えない発言が彼の口から飛び出た。バカが武器を持つのも危険だけど、バカが武器を向けられるのも危険らしい。
「正気? ギャンブラーさん」
「少なくともご飯奢ってあげたのに、その恩を仇で返そうとする人よりは正気です」
「じゃあ仇じゃなくて鉛玉で返してあげようかしら?」
「どうせなら、もうちょっと栄養のありそうなものが良いです」
「誰が食べさせると言ったのよ!」
「え? だってご飯の話をしてたでしょ?」
ダメだ……この二人の会話面白い……。
思わず笑いをこらえる私を他所に、場の空気は悪くなる一方だ。
「本当に、撃つわよ」
「構いませんよ」
「あなた、自分が死ぬって分かってるの?」
「死ぬとは限りません」
何を言っているんだ、唄方くん。そんな至近距離で頭撃ち抜かれれば絶対に……そう思ったところでふと気がついた。彼は運が良いのだ。
私は二度、唄方くんを殺しかけた。しかしどちらもありえない程の偶然で、彼は傷一つなく生存している。根拠のないただの予感だが、もし彼が撃たれて助かる可能性があるなら、私がすべき事はなんだろう?
唄方くんだけじゃない。どうやったらかりんを助けられるだろう?
「な、何言ってるの? 至近距離よ! 頭よ!」
「かりんさんは偶然を信じますか? 自分はこの事件の捜査で様々な偶然に助けられました。そして自分の持論なんですが……」
そう言ってゆっくりと手を上げる唄方くん。そのままかりんの手と一緒に銃の引き金を握る。
あっ、あっ、とかりんの口から声が漏れる。唄方くんが予想外の行動に出たせいか、さっきよりも手に力が入っているようだ。
――マズイ!
「偶然ってね、連鎖するんですよ。……例えば」
次の瞬間、彼はとんでもない行動に出た。
かりんと重ねた手の、人差し指を一気に曲げる。二人の指が一緒に引き金を引いた! いや、唄方くんがかりんに引き金を引かせたのだ!
「バカ!」
叫ぶことができたのはそれだけだった。やっぱり、バカに武器を持たせては行けないのだ。
カチッ
金属同士がぶつかる乾いた音がした。
銃声が轟き、唄方くんを撃ち抜く。そして彼のこめかみから血が噴き出て……
……あれ? 血が噴き出てこない……。銃声もしない……。
――なんで?
「例えば、偶然銃の弾が不発になったりとか……」
あり得ない。確率的にあり得ない事が目の前で起きている。
銃が……不発?
「そんな……私の銃が……」
一緒に引き金を引いたかりんも茫然としている。こんなチャンス、見逃すわけにはいかない。
目の前の邪魔な雉山を避け、一気にかりんのところまで床を蹴る。かりんは素早く銃を私に向けようとしたが、それよりもこっちの方が速かった。
かりんの首元にずっと隠し持っていた包丁を当てながら言う。
「例えば、偶然包丁を隠し持っている人が居たりとか……」
まさか、こんな所で役に立つとは思わなかった。身体検査を逃げてきた後、なんだかんだで捨てるのを忘れて袖に隠していた包丁だ。
「例えば、偶然手錠を二つ持ち歩いている刑事が居たりとか……だな」
横を見ると信楽警部がポケットから新しい手錠を取り出し、かりんの手首にかけるところだった。私に包丁を当てられているかりんは一切抵抗することが出来ない。
「ナイスです。刑事さん」
「だから刑事じゃなくて警部だ」
「でも今自分で刑事って言いました」唄方くんが割り込んでくる。
「細かいことを気にするな」
くすっ。誰かが笑った気がした。
誰かと探すと意外な人。さっきまでの剣幕はどこへやら、かりんが微かに微笑んでいたのだ。とうとう気がふれてしまったのかと私は不安になる。
そして自分から部屋の出口へと歩き出す。それを慌てたようについて行く警部。あまりの潔さに私は更に驚いた。
出口まで来て立ち止まるかりん。背中を向けたまま気丈な声で言った。
「運が良いんですね。賭博師さん」
自分が呼ばれたことに一瞬、驚いた様子の唄方くん。しかしすぐにいつもの顔つきに戻り、
「よく言われますよ」
ニヤリと笑っただけだった。
くすり。彼女ももう一度笑うと、警部と一緒に廊下の向こうへと消えていった。
最後の舞台に立つ役者のように、ゆっくり、ゆっくりと。
「まったく、あんたはどこまで運が良いのよ」
場所は再び部活棟屋上。斜めに降る夕陽を浴びながら私は缶コーヒーに口を付ける。
事件は終わった。でも私とかりんはこれで終わりだろうか?
そんなことを考えながら眼下の学生を見下ろす。
ごちゃごちゃと混ざり合ってても、一人一人違う人間なんだよねぇ……。背の高い人、低い人、賢い人に強い人。そしてかりんみたいに弱い人。当たり前だけど、世の中いろんな人が居るんだ。裏じゃ最低なことしてる大学教授も、純情可憐な容姿の殺人犯も、異常に運の良い探偵も。ついでに少々腹黒いだけな、ごく普通の女の子である私も居る。
「あれ? 気づいて無かったんですか?」
以外そうな顔の唄方くん。彼の手にはオレンジジュース。
気づいて無かったって、何に?
「銃の不発の件、偶然なんかじゃないですよ」
……嘘!
「こんなこともあろうかと、壁を撃った後に銃のリボルバーを一つ前にずらしておいたんです。つまり自分の頭のわきで引き金が引かれた時、リボルバーは既に発砲済みで空だったんです」
「どうしてそれを先に言わないのよ!」
「だってその方が面白いでしょ?」
……反論する気が失せた。
でも、リボルバーをずらしただけって事は、もう一発撃ってたら唄方くんは死んでたって事だ。まさか、その後すぐに私が包丁で止めに入る事まで予想してたの?
「それは流石に偶然です」
ぐいっ、と上を向いて残りのジュースを飲み干す唄方くん。空になった缶を器用に潰すと、適当に後ろに投げる。そして見てもいないのにちゃんとゴミ箱に入る空き缶。
結局運が良いんだね、この人。
はぁ……うらやましい、と私はため息を吐く。
「でもね、黒御簾さん。偶然ってのは結局元を辿れば必然なんですよ。偶然はその間を繋ぐだけです」
……そうかもしれないな。
かりんが高槻を殺す羽目になったのも、今私たちがあの絶望的な状況を抜けてここに居るのも、きっと必然から偶然が連鎖した結果なのだ。
多分、私とかりんが出会ったのも広い世の中のどこかであった必然の結果なんだ。後悔なんてしたらその間を繋いでくれた偶然たちに申し訳ない。
もう一口コーヒーを飲む。やっぱりほろ苦くて、ちょっぴり甘い。
「だからね黒御簾さん。ため息なんてしてると素敵な偶然を逃がしちゃいますよ?」
いつの間にかすぐ隣に来た唄方くん。生意気な目つきで相変わらず後ろ髪は跳ねている。
この運だけは良いバカ探偵と出会ったのも、大切にしなきゃいけない偶然なんだろうな……。
残り少ないコーヒーをゆっくりと味わう。唄方くんの真似をして空き缶を放り投げてみると、背後でゴトンという音がした。ジャストミート。
「なんだ。私も案外運が良いじゃない」
きっと私たちが今日繋いだ偶然は、きっとどこかでまた必然を作り、誰かと誰かの間を偶然で結ぶだろう。
ずっとずっと。そうやって繋がっていくんだ。
大学を少し離れた裏道。そこを通りかかった唄方の前に立ちふさがる者が居た。
「ああ、九谷さん。さっきは大学の封鎖、ありがとうございました」
九谷と呼ばれた女性は赤のベストに黒い短めのスカート、蝶ネクタイという明らかに目を引く服装。それも仕方のない事。それが彼女の制服だからだ。
「お礼なら要らないわ。クラブの9の数札持ち、運営人として当然の仕事だから」
ダメな子供を見守る教師のような笑顔を浮かべる九谷。
そう、彼女は鉄火場の職種の一つ、賭博師の活躍を陰で支える実働部隊「運営人」の一人なのだ。先ほど唄方の指示で大学の門を封鎖したのも彼女とその部下である。
「それより、どうするの? スカウトする予定だった教授は死んじゃったんでしょ?」
「それなんですがね……良い代役を見つけたんです」
「代役?」
唄方はポケットを探ると、さっき由佳に書いてもらった彼女の連絡先のメモを取り出した。
「……あなた本気?」
「ええ、もちろん」
いつも通り人を食ったような笑みを浮かべて、唄方は高らかに宣言した。
「自分は今季の賭博師新規採用試験に、東都大学一年生・黒御簾由佳を推薦します!」
第一の事件 END.
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
話はまだまだ続く予定となっております。今後もお付き合い頂けたら光栄です。
また、作者の活動報告ページにて本作品の裏話を掲載しております。
お暇な方はどうぞ。