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3. 王国の襲撃再び

 ルーク達は武器の柄に手を添えつつ、声が聞こえた方を向く。視界の先には、ヴォーマが少数の兵士を従えて立っていた。傍には不敵に微笑むマルディシオーネの姿も。

 魔力の痕跡から、マルディシオーネが集団で空間転移してきたようだ。


 三人は素早く武器を構える。リレーミアも封印の修復を続けながらも、ヴォーマ達を睨み付け威圧する。緊張の糸が一気に張り詰めた。


「あ、兄貴……?」


「『なんでここに?』とでも言いたげだな、バァン。忘れたか?この前誘ったじゃないか。兄さんは悲しいぞ」


 言葉とは真逆の、見下した笑みを浮かべるヴォーマ。


『強大な力を持つ魔物を使役する為の遠征』


 魔女の屋敷で、バァンを引き抜こうとした際に聞いた話であった。


「まさかですけど……その魔物って……!!」


「そうだ。魔界に封印されし邪龍レイヤカース!

 そういうわけだ、そこの魔物。今すぐおかしな行動は止めて立ち去れ。人間の言葉は分かるか?」


 ヴォーマはリレーミアと目線の火花を散らす。ルーク達の後ろから放たれる、獰猛な獣の如き圧を物ともしていない。

 ルーク達はにじりにじりと、リレーミアを守るように位置取る。


「ヴォーマ!レイヤカースが何なのか知っているんだろ!?なら……」


「ああレディ!そういえばこの間の事を謝っていませんでした。あの時は、随分と恥ずかしい思いをさせてしまって申し訳ない」


 ルークが視界に入るや否や、突然ヴォーマが胸に手を当ててルークに向かって頭を下げてきた。


「え……?……ああ、もうそれはいいよ、それより――」


「とんでもない!私は大勢の前で貴女の素肌を晒してしまった。騎士として、男としてその責任を取りたい。次に会えたら、私は貴女を妻にしようと決めてきたのです!」















「……妻?」


 一瞬の静寂の後ルークは、自分の周りに誰がいるのか改めて確認したが、やはりバァン、ラティエ、リレーミア以外には自分しかいない。

 先程の言葉が嘘であってくれと願いながら、自分を指差すが、それに対してヴォーマは照れくさそうに頷いた。


「いきなりなので驚くのは当然です。この戦いの間にでもゆっくり考えて――」


「お断りです」


 死んだ表情で即答するルーク。そしてバァンとラティエが、リレーミアを守るルークを守る為にヴォーマの前で仁王立ちした。


「残念です。でも、私はいつでも待っていますから」


 ヴォーマは、努めて紳士的にお辞儀をする。


「ヴォーマ魔法剣士隊長、そろそろいいでしょうか。

 ……お喋りばかりしては、私が貴方達をわざわざ転移させた意味が無くなってしまいます」


 ヴォーマの前に呆れ気味のマルディシオーネが入り込み、早くやれと言わんばかりにヴォーマに目で合図を送る。


「ああ……」


 ヴォーマは、背中から飛び出る大剣の柄に手をかける。

 それまでの紳士的な態度が一転し、威圧的で粗暴そうな雰囲気へと変わる。緩みかけていた空気が、再び張り詰めた。


 マルディシオーネはそれを見て、満足気にヴォーマの後ろへ移動しようとするその時だった。














「動くな」


 ヴォーマの背中に背負われていた巨大な金属板が、マルディシオーネの首元に添えられていた。


「……ヴォーマ隊長、このままでは私に攻撃が当たってしまいますが?」


「ここまで道案内ご苦労だった。お前はもう用済みだ、宰相殿」


「おやおや、そんな事を言って王が何と仰るか――」














 マルディシオーネの首が弧を描き宙を舞った。


「その王の命令だ」


 ヴォーマがその落ち行く首に語り掛ける。


 音も無く切り離されたそれは、そのままゴスリと鈍い音を立てて、マルディシオーネの足元に転がった。そして、ヴォーマが大剣を地面に突き立てるように下ろした瞬間、その衝撃で首から下もその場に突っ伏した。


「マルディシオーネが……こんなに簡単に……?」


 リレーミアも驚きでつい詠唱が止まる。


「コイツがマスク姿の金髪女と話しているのを偶然聞いてな」


 それは十中八九ハンドレッドの事だろう。ヴォーマはその時に、マルディシオーネがフィグゼーヌ王国を利用してレイヤカースを復活させようと目論んでいると知る。


「半分賭けではあったが、王は私の話を信じてくださった。そして私は、マルディシオーネ討伐の密命をうけていたのだ」


「兄貴……、じゃあ俺達が戦う理由は――」


「そうだな、お前達が今すぐに立ち去ってくれるなら見逃してやるぞ」


 ヴォーマが手を掲げると、兵士達が近付いて陣形を作り武器を構えた。


「んもー!どうしてそうなるんですの!!」


「忘れたか?私達の目的はレイヤカースの使役だ。この女の始末はそのついでに過ぎん。

 今はスケルトンしか操れていないが、すぐに技術を発展させレイヤカースを王の手足としてやる」


 ヴォーマがスケルトンを召喚しようと、宝玉を掲げる。赤紫色のもやが噴煙のように宝玉から溢れ出る。


「どうしよう……今でさえ人数で負けているのに」


「そ、そうですわよ!ルーク様が危険な目に合っても構いませんの!?」


 ラティエがルークの影に隠れて言う。


「できれば私もやりたくないが、仕事は仕事なのでね。

 途中で気が変わったら、いつでもこちらに来てください。貴女だけは助けてあげますから」


「だったら……尚更お断りだ!!」


「同感だな」


 声のする方を見ると、いつの間にかリレーミアがルーク達の前に立っていた。


「お、お前いつの間に!?封印とかはいいのかよ!?」


「案ずるな、バァン。

 ……馬鹿な考えをしてるこいつ等をこの手で直接叩きのめさないと、とてもじゃないが詠唱に集中できそうにないんでな……」


 怒りのせいか身体と声が震えるリレーミア。魔力の流れが激しいせいで、身体から湯気のように湧き上がっている。


 味方な筈のルーク達でさえ気圧される程だというのに、ヴォーマやその兵士達は微動だにしない。

 やはりそこは場数を踏んだ差が成せるものなのだろう。


「貴様ら……ただて済むと思うなよ!!」


 最早どちらが悪者なのか分からない事を言いつつ、リレーミアは光の槍を作り出し、ヴォーマの軍団に向けて発射した。

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