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2. 再会、そして

「ルーク!!」


「ルーク様!!」


急に話し掛けられ、ルークは驚いて目を開く。なんだか久し振りに聞く声だ。


「良かった……もう会えないかと……」


ラティエが目を潤ませ、両手で口を覆った。


「本当だよな、なんか11ヶ月くらい会ってない気がするぜ」


「馬鹿な事を言うな。お前達の世界では半月が過ぎた程度だ」


リレーミアがバァンに冷静なツッコミを入れる。それに対してルークは、無愛想な相槌をうつのがやっとだった。

何せ、夢から覚めたばかりのような頭のもやもやがまだ続いている上に、バァンとラティエは服や武器が変わっているし、挙げ句、自分の知らぬ間に二人はリレーミアとの距離が妙に近くなっているではないか。


兎にも角にも情報量が多すぎて処理が追いつかない。

三人に色々聞きたい所ではあるが、メガルダンドも出てきた為それどころではなくなってしまった。


「皆揃っているな。早速だが今後の話をしたい」


場の空気が一気にピンと張り詰める。

アクストゥアとフィグゼーヌの国境南部に跨がる広大な荒れ地。そこの中心部にある魔界の扉に封印の楔を打ち、扉を完全に閉じる事。

これが、ルーク達の次の目標である。


「ルークよ、扉の前でこの剣を突き立てるのだ。かつてのエテルナと同じようにな……」


ルークの手元へと光の粒が降り注ぎ、やがて剣の形となる。それは、エテルナの記憶の中で見たのと同じものだった。

美しく神秘的な様相に、バァンとラティエは息を呑む。


「これが終われば、後はマルディシオーネだな……」


ルークが楔の剣を掲げ、不安と緊張が入り乱れる表情をその白銀に輝く刀身に映す。


「フィグゼーヌが荒野の方角へ向かって進軍している。マルディシオーネが何かしら企んでいるようだ。周囲の警戒を怠らぬようにな」


「はい……」


心の準備がまだできていない為、余裕が無いルークはついぶっきらぼうな返事をしてしまう。


「ルーク、そんなに思い詰めなくても大丈夫だぜ。俺とラティエもリレーミアのお陰で強くなってんだ、期待しててくれよな」


「装備も新しくなってますしね!」


バァンとラティエがルークに頼もしい笑顔を向ける。ルークは、顔の強張りが少し緩んだのを感じた。







「リレーミアよ」


メガルダンドがリレーミアを呼ぶ。リレーミアは胸に手を当て最敬礼した後、ルーク達に顔を向けた。


「私も一緒に行く」


三人はサプライズプレゼントを貰ったような顔になる。


「そ、そりゃあ心強いぜ!」


バァンが子どもっぽくガッツポーズしながらはしゃぐが、ルークもラティエも同じ気持ちだ。


「本当は我も向かいたい所なのだ――」


「またこの間のようになってはいけませんので!!」


リレーミアが怒り口調でメガルダンドの言葉を上から被せるので、メガルダンドは困ったように笑うしかできない。


「……と言う事だ。皆、力を合わせ、必ずや封印を成功させてほしい」


四人はしっかりと頷く。

そしてリレーミアが空間の裂け目を作り出すと、そこへ一斉に飛び込んだ。


「気を付けてな……。我はいつでもお主達を見守っている」
















ルーク達は赤や黒やと目まぐるしく画面が変わる空間を突き進む。トンネルを抜け出すように裂け目をくぐり抜けると、カラカラと乾燥した大地に立っていた。


自然の力を失った不毛の地は、10年前の戦争の傷痕を癒やす事は未だできず、当時の塹壕ざんごうがそのまま残され、魔法や銃火器での激戦で抉れた地面に武器の破片が残ったままである。


「酷い……」


ラティエが熱で癒着した魔導具の欠片の塊を取り上げて呟く。


「うへぇ……この感覚ちょっと苦手だぜ……」


「では帰りは歩くか?聖域まで眠らず歩いて何週間かかるだろうなあ?」


転移時の独特の感覚が抜けないバァンのボヤきに、リレーミアが嫌味っぽく反応するので、バァンは慌てて謝罪する。


「そんな事より!ねえ皆さん、これ……!」


ラティエが巻き上げられる砂埃に混じった、黒いもやを指差す。

それを風上に辿ると、ルークがエテルナの記憶で見た黒光りの扉が聳え立っていた。


「でっかいなあ……。あれ?そういえば城塞都市は?」


ルークは魔界の扉の大きさに圧倒されつつも、エテルナの追憶で見た城塞都市を探すが、この位置から見える筈の、城塞都市が見当たらない。


「……もう何も残ってはいない。実に馬鹿げた話だ」


リレーミアは、エテルナが亡くなった後の出来事を話しだす。嫌な事を思い出したのだろう、明らかに不機嫌な顔になる。


結局アクストゥア家とフィグゼーヌ家の対立は、都市を廃墟にさせてしまう程の全面戦争となってしまったそうだ。

どうにか生き残った両家はその後、東と西でそれぞれ町を興し、数世代後には一つの国になる程に発展を遂げ、表向きは交易など人々の流入もしてはいるが、裏での対立は根深くルークの時代に至るまで小さな小競り合いを幾度となく繰り返していた。


「アクストゥアとフィグゼーヌは争いをやめず、エテルナの子孫は役目を忘れ、マルディシオンを完全に封印する事も何百年とかかっている。このままではエテルナに顔向けできない。何としてもやり遂げるぞ」


胸の奥がチクリと痛むのを感じながら、三人はいつになく真剣な眼差しのまま頷く。


「ルーク、ここだ」


リレーミアが楔の場所へルークを誘導する。

近くで爆発が起きたのだろう。エテルナの剣は、焦げ目が付いたボロボロの切っ先が辛うじて地面に残されただけで、残りの部分は消し飛んでしまっている。


「封印の術式も修復したほうがよさそうだな。終わるまで少し待っていろ」


リレーミアがブツブツと詠唱を始めると、扉を囲む魔法陣がじんわりと光を放つ。


「これが壊れた時、兄貴は親父とはぐれたって事か……」


バァンが楔の残骸を見下ろして、寂しそうに呟いた。すると、予想とは違う方から声がした。


「そうだ弟よ。そしてそれは、本来の自分というものに気付けた出来事でもあった」

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