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15. 追憶⑮

「すみません、私のせいで動けなくなってしまって……」


 ふにゃふにゃの赤ん坊を抱いたエテルナが、食事を運んできたリオに申し訳無さそうに言った。


 エテルナの産後の体調を考えて、キャラバンはしばらくこの森に留まる事にしたのだった。


「子どもを産むってのはそういうもんさ。気にする事はねえ。

 それにここらは気候もいいし水も食べ物も豊富だし、ずっと過ごしていたいくらいだね!」


 リオは気を遣わせないようにか、明るく笑う。


 その話を外で偶然聞いたジルマが、何やらワクワクした様子でテントに入ってきた。


「おお、すまねぇすまねぇ!

 突然だが、さっきの話なんだけどな――」


 声もかけずに入ってきたジルマに怒るリオだが、ジルマは聞こえていないのか構わず話を続ける。



 ジルマはエテルナが出産や子育てでてんやわんやしている最中、エテルナの石像周辺を探索していたそうだ。

 すると、石像から少し離れた所に、人が居なくなって間もない一軒家を見付けたそうだ。


「中も調べてみたが、必要最低限の家具があるだけでガランとしてたぜ。

 所々傷んではいるが、補修すれば十分住めそうだ」


「『住めそうだ』ってお前さん、そんな勝手に……。持ち主が帰ってきたらどうすんだい?そりゃここで暮らせるのは嬉しいけどねぇ」


 リオは苦言を呈するが、それでもジルマの気分は下がらない。


「戻ってきたらその時はその時だ!そいつと仲良くなって一緒に住んじまえばいい。それか近くに家を建てさせてもらって――」


 その時、ジルマの顔が急にぱあっと明るくなる。


「そうだ、そうだよな……。最初からそうすりゃいいんだよな、うん!」


 自分自身と会話を始めたジルマを、リオとエテルナは心配そうに見守る。


「俺達で作るんだ!住む場所を1から!」


 ジルマの鶴の一声で、キャラバンの旅はこの森で終わりを告げた。






 ジルマ達はすぐにエテルナの石像を中心にして、周囲の開拓と家の建設を始めた。


 伐採や木材の切り出しには、エテルナの魔法が大活躍し、ジルマ達は以前にもましてエテルナを信頼するようになった。


 建築に詳しい者が誰もいない為、一番最初に完成した家は理想とは程遠いくらい不格好であったが、これは記念すべき第一歩を踏み出した瞬間であり、非常に感慨深いものだった。


 皆、次第に作業に慣れていき、家も一棟また一棟と増やしていき、同時に土地も拡げていると、やがて人の往来する道と繋がった。


 そうするといつの日か行商人や旅人が訪れるようになり、中にはこの場所を気に入り腰を落ち着ける者も出てきた。そうしてこの場所は、だんだんと村のようになっていった。







 エテルナの赤ん坊はロアンと名付けられ、特に大きな病気もせずすくすくと元気に育っていた。エテルナが一番心配していた視力も、今のところ問題無く一安心していた。


 以前にババ様から言われた事もすっかり忘れかけていたが、ロアンが三歳になろうという時、それを思い出させる事になる。







「これなにー」


「ふふ、これは母さんのだからダメよロアン」


 エテルナはロアンに優しく笑いかけ、カースライトのペンダントを服にしまう。


「さあ、お散歩に行こっか!」


「うん!」


 エテルナはロアンの手をひいて外に出た。


 そう思ったのも束の間、突然ロアンが手を振りほどき、好奇心に任せて走り出してしまい、あっという間にどこに行ったか分からなくなってしまった。


「ロアン!どこなの!?」


「エテルナ、どうした!?」


 エテルナの声に驚いたリオが大急ぎで駆け付けてくれたので、慌てて事情を説明するが、それに対してリオは不思議そうに言う。


「ロアンならミリーとあそこにいるじゃないか。エテルナなら感じ取れる距離だろう?」


 確かに少し離れた草むらで、ミリーが何かと遊んでいるのは感じ取れている。

 その『何か』がロアンだとリオは説明するが、それにエテルナはただ戸惑う。


「……ロアンの魔力が……感じ取れない……」


 エテルナは気配だけでなく、魔法で魔力を感じ取る感覚を強化して周囲の様子を把握している。

 魔力の流れには人それぞれに特徴があり、しばらく一緒にいればどのくらいの距離に誰がいるのかは分かるようになる。


 この時まで、ロアンの側を片時も離れた事がなかった為に気付かなかったが、何故かロアンだけ魔力の流れを感じ取れず、エテルナから離れてしまうとどこに行ったか分からなくなってしまう。


「これが呪い……?」


 かつてババ様に言われた言葉が一気に蘇ってきた。


「エテルナ……。

 とりあえずロアンを連れてくるからよ」


 何と声をかけていいのか分からないリオは、ロアンとミリーが遊ぶ草むらへ向かうが、そこで不思議な光景を目にする。


「いやー!」


 ミリーがロアンの持つ小枝を欲しがっているが、あまりにもしつこくされたロアンが嫌がって癇癪かんしゃくをおこす。

 手に持つ小枝をミリーに向けて振りかぶろうとした時だった。


 それまで軽々と振り回していた小枝を、まるで鉛の棒を持つかのようにやっとの事で持ち上げると、その勢いそのまま後ろへコテンと転び、後頭部を思い切り打ち付けてしまった。


 幸い、たくさんの草がクッションになってくれたお陰で大した事はなかったが、驚いたロアンはワアワアと泣き出す。


 急いでロアンを抱き起こすリオだが、この光景に頭が上手く働かず驚くばかりだった。


「さっきのは一体……」


「リオさんどうしました!?ロアンは!?」


 ロアンの泣き声を聞いたエテルナが、慌てて駆け寄ってくるので、リオは先程見た事を歯切れ悪くエテルナに話した。


「それって……、ロアンは『武器が持てない』って事……?」


 エテルナは愕然とその場に立ち尽くす。


 それは、これまでずっとエテルナを見ていたルークも同じ気持ちであった。


 ルーク達一族が受け継いでいる体質の根源がそこにあったのだ。







「かあちゃ……」


 涙で顔がべっしょり濡れたロアンがギュッと足にしがみついてくる。その感覚でハッと意識を取り戻したエテルナは、不安な気持ちを紛らわすかのようにロアンをきつく抱き締め返した。

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