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11. 追憶⑪

 リレーミアは驚きの表情を顔に出す。

 エテルナは思い詰めた表情で今後の事に思考を巡らせつつも、リレーミアもこんな顔するんだなあと他人事のように考えていた。


「……エテルナ、私は正直に言うと、人間は嫌いだ。普段は気にもしないくせに都合の良い時だけ、メガルダンド様に祈り、助けを乞う」


 リレーミアはエテルナの両肩を掴み、言葉を続ける。


「だがエテルナは別だ。だから、そんな人間達の為に自分を犠牲にしてほしくない……」


 メガルダンドを思う時と同じ顔で、リレーミアはまっすぐにエテルナを見る。


「ありがとう、リレーミア……」


 エテルナはリレーミアの手の上にそっと手を重ね、優しく笑い、言葉を続ける。


「でもね……私がメガルダンド様の加護を受けているから、街の皆は私やメガルダンド様に期待しちゃうのよね。

 なら、加護を封印して私が普通の人に戻れば、きっと皆自分達の力で選択し、正しい道を歩んで行ってくれると思うの」


 実に根拠のない希望だった。こちらに目をやる事無く、どこか遠くを見て言うエテルナに、リレーミアは肯定も否定も出来なかった。


「……とにかく、メガルダンド様の所へ行こう」















「……そうか。厄介な事になったな」


 大海原の謁見の間で、全てを聞いたメガルダンドは静かに目を閉じた。


「レイヤカースは扉諸共封印はしたが、滅ぼした訳では無い。いずれ、何らかの形で復活を果たすだろう。そうなれば、エテルナの力がどうしても必要なのだが……。


 それに、加護を封印すれば視力までまた失う事になるのだぞ?」


 メガルダンドとリレーミアはこれで諦めるかと期待したが、エテルナは穏やかな笑みを保ったままだった


「やはり……そうなのですね……」



 エテルナはそこまでの覚悟を既に決めてきていたらしい。そして、両手を合わせゆっくりその場に跪いた。


「でも、もう決めた事なのです。

 何かあれば、私は必ずこの封印を解きにここに来て、再びメガルダンド様のために戦います。だから……」 


「……決意は固いようだな」


 これ以上の説得は無理だと判断したのか、メガルダンドは惜しみつつも最終的にはエテルナの願いを聞き入れた。その瞬間、リレーミアは悔しそうに目を背けた。


 メガルダンドは首を上げ、軽く口を開けると、そこから輝く光が吐き出され、エテルナを覆った。

 エテルナは目を閉じ、光を受け入れ身を委ねた。







 光がおさまり、ハッと目を開ける。

 エテルナにはメガルダンドの顔や周りがハッキリ見える。


 困惑した様子で立ち尽くしているエテルナに、メガルダンドは穏やかに語りかけた。


「再び盲目になる前に、見ておきたいものもあるだろう。明日の夜更けだ。

 明日の夜更けになれば、封印が発動するようにしておいた」


「メガルダンド様……、ありがとうございます」


「ああ……、酷く疲れた。すまないが、我は少し休む」


 そう言うと、メガルダンドは大きな飛沫を立てて暗い水底へ沈んでいった。


 二人きりになった大海原には、静寂が訪れた。

 リレーミアは相変わらず体ごと目を背けたままである。そんな様子なので、エテルナはどこか気まずくて話しかけられない。


「家まで送る」


 リレーミアがこちらを見ずぶっきらぼうに言う。エテルナを思うが故の憤りが、痛いほどこちらにも伝わってきた。


「ありがとう、リレーミア……」


 一言お礼を言うのが精一杯だった。何を言っても、今は余計に怒らせてしまいそうだったからだ。


 目の前の空間が斬り裂かれ、裂け目からはエテルナの家が映し出される。辺りは暗く、灯りもほとんど無い。今は夜更けのようだ。


「リレーミア……」


 振り返ってリレーミアを見るが、頑なに背中を向けたまま、何も答えない。


「……ありがとね」 


 エテルナは震える声でそう言うと、裂け目に飛び込んだ。








「痛い!」


 空間転移の中に勢いよく飛び込んだせいで、エテルナは自宅のドアに思い切り顔をぶつけてしまった。

 あまりの大きな音に、何事かと様子を見に出てきたロウ。鼻を押さえてうずくまるエテルナを見付けると、飛び上がる程驚いた。


「た……ただいま」


「お、お帰りエテルナ!どうだった!?」


 お互い向き合ってテーブルに着くと、エテルナは箱の中身の正体をロウに説明した。中身が予想以上に酷い物だったのか、ロウは絶句する。


「その……だからね、私……」


 ロウが何かを言う前に、エテルナは巫女としての力を明日の夜更け以降より、封印する事を話した。そして、視力の事も。


 生まれつき盲目だった事、そのせいで子ども時代に苦労したこと、それからロウに出会うまでを、このとき始めてロウに詳しく話した。


「そうだったのか……。俺とは比べ物にならないくらい大変だったんだな……」


「ううん、比較なんてできないよ。

 ……でも、勝手に決めちゃってごめんなさい」


 ロウは悲しむかと思ったが、意外にもどこかホッとしているように見えた。


「いいや、俺もその方がいいと思うよ。

 エテルナは誰かに頼られたらほっとけないもんな!」


 ケラケラと笑うロウの顔を、穏やかに笑って見ていたエテルナ。すると、不意に頬を熱い雫がつたう。


「だ、大丈夫か!?どうした!?」


 ロウが慌てて駆け寄ってきて背中を擦る。


「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……。

 もう明日で……貴方の顔が見れないと思うと……!」


 エテルナはロウの胸に縋り付き、小さな子どものように声を上げて泣きだした。

 思わずつられて目が熱くなってきたロウだったが、必死で堪えて優しくエテルナを抱き締める。


「大丈夫さ!別に離れ離れになるわけじゃないんだ。それに目が見えないなら、俺がずっと側に居てエテルナを支えるよ」


 その言葉の意味を理解した瞬間、エテルナはロウをキツく抱き締めさらに大きな声で泣き出すので、ついにロウも一緒になって泣き始めた。

 あまりの騒がしさに、近所の人々が駆け付けるくらいであった。


 二人が泣き止んで落ち着いた頃には、外は既に明るくなってきていた。

 結局眠らないままであるが、エテルナの目が見えるのは今日の夜更けまでだ。寝てしまっては時間が勿体ない。


 パンパンに腫らした真っ赤な目のまま、二人は街中へと出かけた。

 話題の演劇を見たり、高台から美しい街並みを眺めたりと、その日一日をとことん楽しんだ。


 多少の急ぎ足で見納めの行脚を済ませた頃には、もう夕方も終わりかけの頃だった。

 睡眠不足のせいで、強烈な睡魔に襲われた二人は、いつもよりだいぶ早めに床についた。


「ロウ、その……明日からは、改めてよろしくお願いします……」


 ベッドに寝転んだ状態で、エテルナはロウの手を気恥ずかしそうに握り締めた。


「うん……こちらこそ。どうぞよろしく」


 エテルナはこの時の笑顔を、何があっても決して忘れまいと心に誓い、あっという間に眠りに落ちていった。

 不安はあったが、これからのエテルナの未来は希望が溢れていた。





















「だ、誰だ!?」

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