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10. 追憶⑩

 謎の宝箱を無理矢理渡され、呆然と立ち尽くすエテルナ。すると、走り去るアクストゥアとあわや正面衝突しそうになったロウが、周囲を警戒しながら帰宅してきた。


「やれやれ……、何だったんだあれは?」


「あ、おかえりなさいロウ……。

 アクストゥア様がこれをメガルダンド様にって……。魔力が籠められてるみたいなんだけど、どう思う?」


 エテルナは箱をロウに見せた。箱を視界に入れた途端、ロウの眉間にシワが寄る。


「これまた悪趣味だな……」


 ロウは手袋をして箱を受け取ると、鑑定用のルーペを取り出して、箱を何度もひっくり返したり、ゴテゴテした装飾部分を叩いたり引っ掻いたりして、外側を隅々まで調べる。


「ロウは凄いね」


 テキパキと慣れた手付きで品定めをするロウを、エテルナは何もかもが始めての子どものように瞳を大きくして見つめる。


「俺、親がいないからガキの時から行商やってたんだけど、ガキ相手だと悪い事考える奴が多くてさ。嫌でも目利きの力が養われたよ」


 エテルナはどう言葉をかけたらいいのか迷う。


「そんな顔しないでくれ、悪い事ばかりじゃなかったよ。色んなアイテムの知識が得られたし、お陰でその……、エテルナにも出会えたしさ」


 ロウが照れくさそうに笑うので、エテルナもそれに笑顔で返した。






 しばらくすると、ロウが静かに箱を置いた。鑑定が済んだようだ。


「ロウ、中を見ていないようだけど、いいの?」


「触るな!」


 箱に触れようとするエテルナを、強めの語気でロウが止める。エテルナは、かつての母親の怒鳴り声を思い出してしまい、呼吸は乱れ、大袈裟な程に身をすくませる。


 エテルナの様子がおかしい事に気付いたロウが慌てて抱き締め、泣く赤子をなだめるように優しく声をかけながら背中を撫でて落ち着かせた。


「ご、ごめんなさい……、もう大丈夫……」


「こっちこそゴメン……」


 エテルナが冷静になったのを見計らい、ロウは理由を話す。


「これはトラップ型の魔導具だ。箱を開けた瞬間に魔法が発動する仕掛けなんだ」


 ロウは続ける。


「しかも封が甘くて、外側にも魔力が漏れ出てる。

 エテルナみたいに魔力が強い人には無害だけど、俺みたいに魔法が苦手な奴は素手で触っただけで影響が出てしまう」


「な、なら、アクストゥア様はメガルダンド様に何か魔法をかけようと?でも一体どんな魔法を……」


「漏れ出る魔力から察するに、確実に良い物ではないだろうなあ。

 守護竜様が人間ごときの魔法にかかるとは思えないけど、何にしてもヤバい事を考える奴がいたもんだ……」


 汚らわしい物を見る目でロウが箱を見る。

 エテルナも箱を見つめ、しばらく考えると、


「……明日、山に行ってくる。リレーミアにもこれを一度見てもらおうと思うの」


 そう言って箱を分厚い布で覆った。


「ああ、それがいい。中に入ってる魔法が何なのか分かれば、あの男が何を企んでいるのかハッキリするだろうし」







 次の日の早朝、エテルナはベッドで寝ているロウを起こさないように、静かに身支度を整えていた。久しぶりに鎧を着込む。

 剣を探すが、そういえばレイヤカースを封印した際に使ってしまったのだった。


「包丁は……ダメかなぁ。ロウも包丁が無かったら困るよね」


 キッチンに移動し、包丁を握り締めて悩んでいると、ロウも起きてこちらにやってきた。

 手にはなんとエテルナのあの剣が!……と思ったが、心なしか小さくなっているように見える。


「おはよう。

 エテルナ、あれから武器を新調してなかっただろ。これはつい最近仕入れた物なんだけど、よかったら持っていってくれ」


 ロウによると、これはエテルナの剣を精巧に模したレプリカらしい。本物と比べると、一回り刀身が短い上に装飾は不格好であるが、刃は本物なので戦闘には十分使用できる。

 エテルナの活躍にあやかろうと、今巷で話題の代物なのだという。


 握り心地等、やはり本物とは比べ物にならないが、それでも包丁よりは十分である。


「ロウ、ありがとう。でもせっかくの商品をゴメンね」


「それより、エテルナの命が大事だろ?あと、これも忘れないでくれよな」


 そう言ってロウは、壁に飾っていたカースライトのペンダントをエテルナの首にかけた。それは以前、ロウがエテルナにプレゼントしたお守りを作り替えたものである。


「ロウ、ありがとう。行ってきます」


 エテルナの胸でペンダントがキラリと青く輝いた。


 聖域の山へは、ここからずっと北側にある。

 エテルナは空間転移も飛行魔法も使えないので、地道に陸路で山へと向かう。ただ、足に強力な魔法をかけ、猛獣から逃げる鹿のような足運びで進む為、普通に歩くより進むスピードは比べ物にならない程速い。


 普通に歩けば数日かかる所を、3日程で目的地に辿り着いた。ここからは己自身の体力で進まなければならない。


 難なく山の中腹まで来ると、目の前に突然光の柱が立ち昇り、中から懐かしい顔が現れた。


「誰かと思えば久しいな、エテルナ。少し雰囲気が変わったな」


「リレーミア、久しぶり!リレーミアは変わらないね」








 お互いに少しの近況報告をすると、エテルナは布で包んだ例の箱をリレーミアに見せた。


「……これを何処で手に入れた?」


「城塞都市の貴族様が、メガルダンド様へと」


 汚物を見るようにリレーミアの顔が歪む。


「……魔物を使役する為の術式が籠められている」


「……え?」


 エテルナが何か反応しようとする前に、リレーミアは箱の中へ、籠められている以上の魔力を一気に注入し、あっという間に消滅させてしまった。

 エテルナは一瞬の出来事に、口をあんぐりさせるしかできなかった。


「……随分と()()()贈り物じゃないか」


 リレーミアが今にも城塞都市へ殴り込みに行ってしまいそうになっているので、エテルナは必死にしがみついて止める。


「リレーミア……!ゴメンね、ごめんなさい……!」


「何故エテルナが謝る!」


 エテルナは何も答えない。リレーミアも怒りと遣る瀬無さで黙り込む。


 しばらくの沈黙が流れ、遠くの方で鳥か小動物が鳴くのが聴こえる。

 すると、エテルナが静かに口を開いた。


「……私、巫女をやめる」

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