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5.追憶⑤

 荒れ地が近付く程、魔力の淀みが酷くなっていく。


「ぅえ――――」


 あまりにも穢れた空気に耐えきれず、嘔吐するエテルナ。このままでは、メガルダンドに合流するまでに体力を使い切ってしまいそうだ。


「エテルナ、頑張るんだ」


 そう言うリレーミアの顔色も随分と酷い。

 メガルダンドの姿が見えてくる頃には、二人共満身創痍だった。




 隙間程度に開いていた扉は5割程開いており、そこから濃密な魔力が黒い霧となって噴き出し、更に鉤爪と同じ色の真っ黒な塊が今にも扉を押し開いてしまいそうになっている。


 それを必死に押さえているメガルダンドだが、魔力の影響で正気を失った周辺の魔物達が、餌に群がる虫の様にメガルダンドに纏わり付いている。


「メガルダンド様!」


 二人は足をもつれさせつつも、急いで駆け寄る。

 メガルダンドの表情は険しく、時折くる扉からの衝撃は、山かと見紛う程のメガルダンドの巨体を後ろへと押しやる。


「リレーミア、エテルナよ、よく聞くのだ。

 残念だが、間もなく扉は完全に開く」


「申し訳ありません!!私が……私が手間取ったばかりに……!!」


 リレーミアが崩れ落ちるように跪いた。エテルナも慌てて同じ姿勢をとる。


「この扉が現れた時点で、最早運命は決まっていたのだろう。リレーミア達はよくやってくれた。


 だが、もう我らだけの手には負えなくなった。

 この侵略者との全面戦争の為、協力者をできる限り多く集めてきてほしい」


 メガルダンドが言い終わると同時だった。


 魔界の扉が遂に完全に開いた。


 それまではみ出ていた黒い塊が決壊した土砂のようになだれ込み、それと同時にどす黒い霧状の魔力が、辺りを覆い尽くす勢いで広がっていった。

 メガルダンドの身体に纏わり付いていた魔物達は、その魔力の穢れに耐えきれず跡形も無く蒸発した。


 エテルナとリレーミアは、メガルダンドの咄嗟のバリアで守られた為、どうにか命拾いをした。


 爆風のような魔力の放出が落ち着くと、鉤爪の付いた黒い塊が次第にドラゴンの形になっていく。

 メガルダンドに引けを取らない程の巨大な黒竜だ。


「こんなモノが存在するなんて……」


 エテルナは恐怖で頭がいっぱいになる。


 黒竜が口を何やらもごもごと動かしている?と思ったその時だった。額から高速の光がメガルダンドに向かって発射された。

 それを身体をくねらせて避けたが、代わりに遥か遠くの山が一つ消えた。


「詠唱が早すぎる……魔力の弾を単に飛ばすだけであの威力だというのか?」


 リレーミアは光が飛んで行った方を見つめ、目を丸くする。今にも眼球が零れ落ちてしまいそうな程だ。


 メガルダンドは牙を剥き出し、威嚇の声を上げる。


「レイヤカース様に随分と無礼ではありませんか」


 黒い服とフードで目元以外を隠したハンドレッドが、扉の裏からひょっこりと現れた。メガウスと老婆も一緒だ。


「お主ら……。魔界の扉(こんなもの)をいきなり我らの世界に創り出した上にこの狼藉ろうぜき。ただでは済まされぬぞ」


 メガルダンドがレイヤカースの全身に絡み付き、拘束した。だが、レイヤカースも激しく抵抗する。


 ハンドレッド達がメガルダンドに攻撃をしようとするので、リレーミアとエテルナも飛び出そうとするが、メガルダンドがそれを長い尾で阻止する。


「メガルダンド様!?どうして……」


「リレーミア、エテルナ。お主達は先程言った協力者を集めてくるのだ。それまでは、引き続き我が食い止めていよう。

 ……ただ、いつまで持つか分からぬ。なるべく急いでほしい」


 リレーミアは胸が詰まり返事ができない。


「リレーミア!急ごう!!」


 エテルナがリレーミアの腕を掴み、全速力で駆け出し、一番近くの城塞都市へと急ぐ。


 鉄と木で出来た重厚な門は、ガッチリと閉じられていた。流石にこれは力づくでは動かせない。


「私はエテルナです!急いでるの!お願い、開けて!」


 エテルナは門を力いっぱいに叩くが、中からの反応は何もない。痺れを切らしたリレーミアはエテルナを抱え、遥か上の城壁へ飛び乗る。


 そこから街中を見渡すが、何故か人の気配が綺麗に消え失せていた。


「誰もいない……。どうして……」


「エテルナ!残念だが、考えている時間はない。次の場所へ急ごう」


 それから二人は、リレーミアの転移魔法も使いつつ今までに訪れた町や国を巡り、協力者を集めた。


 命の保証ができない危険な戦いの為、難航するかに思われたが、エテルナへの人々の信仰は予想以上にあつく、皆率先して参加してくれる事になった。


 そして3日後には、実に数千人の人々が荒れ地に集結したのだった。

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