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4.追憶④

「理由は分からないんだが、周辺の地域で魔物の数が急激に増えている。一体何が起きているのか……」


 珍しくリレーミアが頭を抱えている。

 言っては何だが、いつもはどこか高圧的なリレーミアの態度が、この時は違って弱々しく見えた。


 だが、無理もない。扉から出てきた魔物達の魔力が、扉の開放の手助けになっている為、早急に倒さなければならない上に、メガルダンドの力がいつまで持ち堪えられるかも予測できない。


「リレーミアもこんな表情するんだな……」


 思わず本音が漏れたルークだったが、エテルナも同じ事を思ったようで、リレーミアを励ますように、手を両手で力強く握り締めた。


「リレーミア、行こう」


 エテルナはリレーミアの目を見てゆっくりと頷くと、荷物を持ち出し宿を出た。銀色の月明かりに照らされる中、そのまま魔物退治に繰り出した。


 威圧感のある重厚な門をくぐり街の外へと出た途端、リレーミアが異質な魔物の気配を感じ取った。


「ついてこい、エテルナ」


 リレーミアは6枚の羽根を広げると、低空飛行で外れの森まで一直線に飛んでいった。エテルナも慌てて後を追う。


 二人は魔物の気配を辿り、森の奥へと進んでいく。枯れかけの草木を掻き分けていくと、粗末な木の柵に囲まれた小さな集落を見付けた。動物避けのかがり火さえ焚いていない。誰もいないのだろうか?


「こんな場所に……」


 エテルナが近付いて行こうとするが、リレーミアに肩を引かれて止められてしまった。どうしたのかと尋ねようとするが、それも口に手を当てられて制止された。


 そしてリレーミアがゆっくりと集落の中心部を指差す。


 月明かりを頼りにどうにか目を凝らして見ると、山のようなものが蠢いているのがどうにか確認できた。

 魔物である事だけは分かったが、異質な魔力が辺りにごちゃまぜに漂っているため、扉の魔物なのか確信が持てない。


 だがどんな魔物であれ、集落の中に居る以上放ってはおけない。攻撃をしかけようと、二人は慎重に近付いていく。


 魔物の豪快な息遣いと、パキパキと何かが折れる音が聞こえる。どうやら食事に夢中なようだ。


 エテルナは一太刀で斬り伏せようと、リレーミアとアイコンタクトをとりつつ、その音に足音を紛れ込ませながらじわりじわりと距離を詰めていく。

 しかし気付いてしまった。魔物の口から人間の手が飛び出している事を。


「エテルナ!冷静さを失うな!!」


 だがリレーミアの声は届かない。

 エテルナは悲鳴のような雄叫びをあげながら、無我夢中で魔物の頭部へ斬りかかった。


 だがその攻撃は、予測以上に硬い皮膚と骨によって阻まれた。魔物はエテルナを、服に付いたゴミを取払うようにしてつまみ上げると、ポイ捨てをするように放り投げた。


 リレーミアがどうにかエテルナを受け止めたが、いつの間にか複数の魔物に取り囲まれている。


「何だこいつらは!?」


 リレーミアも見たことの無い魔物らしい。


 だがルークには見覚えがあった。回想の世界の為か感覚が全然働かないが、その魔物達の姿に胸騒ぎがした。

 ジニアスがマルディシオンを飲んで魔物化した姿にそっくりだったからだ。


「皆さん!魔物です!早く逃げて!!」


「誰も居ないのか!?」


 エテルナとリレーミアが周囲に呼び掛けるが、反応は無い。




「もうここには誰もいない……」


 集落の中央で人間を貪り食っていた魔物が立ち上がる。肌が黒っぽいせいだろうか、月明かりでは姿がよく見えない。


 リレーミアが光の玉で周囲を照らすと、全身に人の口が付いた紫色の巨人の姿が現れた。


 それはルークが以前に出会った魔物だった。


「メガウス?でも……」







 ルークは自分の考えに確信が持てない。何故なら、このメガウスはルーク達が出会った時と違って、なんとも逞しく引き締まった身体をしていたのだ。


「我が名はメガウス。魔界よりやって来た」


 しかもかなりハッキリ言葉を話している。まるで同族の別人かと思う程だ。


「私はエテルナです。集落の人達をどこにやりましたか?」


 険しい表情でエテルナが尋ねる。


「レイヤカース様の命により、ここの人間共は――」


「メガウス様!それ以上は!」


 メガウスの言葉を制止し、フードを被った人型の魔物が二体駆け寄る。一方は、ルークが古城で出会った時の姿そのままのハンドレッド。そして残りの魔物は、ルークにマルディシオンを渡してきたあの一つ目の老婆だった。


「そうか、だからこいつらはエテルナの事を」


 ルークの魔物達への疑問がようやく解決した。





「おいモノ!メガウス様が余計な事を喋らない内にずらかるぞ!」


「命令するな小娘!!」


 ハンドレッドと老婆は周辺の魔物を、全員エテルナとリレーミアにけしかけた。


「おい、待て!魔物共め!」


 リレーミアが飛んで追いかけようとするが、触手やら爪に阻まれてしまい、飛び立つ事すらできない。

 その間にも、魔物達はどんどんと距離を詰めてくる。


「くっ……、エテルナ!私に合わせろ!」


 リレーミアはそう言うと、自身とエテルナを中心にして風を回転させ始めた。エテルナもそれを補助し、風の勢いがどんどんと増していく。

 魔物達が風圧でぐるぐると巻き上げられ、やがてそれは巨大な竜巻となった。


 魔物同士がぶつかり合い、お互いの身体を傷付け合う。最後は細切れとなり、そのまま黒い塵となって消えていく。そうなるに連れ、ごちゃまぜだった魔物の気配が少なくなっていった。


 山の奥から太陽が覗き始めた頃、竜巻が止んだ。

 辺りには集落の建物のみを残し、誰もいなくなっていた。


「……逃げられたか」


「何だったんだろう、あいつら……」


 考えていても仕方が無い。

 二人は、生存者を探して集落を探索した。

 予想できた事だが、人間どころか家畜さえも居なくなっていた。


「なんて酷い……」


 泣きそうな顔でエテルナが集落の人間へ祈りを捧げていると、明るくなり始めていた筈の空が突然また暗くなった。

 黒い雲に覆われ、雲の隙間から覗く明かりは血の様に真っ赤だ。夕陽のような美しさなど微塵も無い。


「な……何だこれは?」


 リレーミアは思わず狼狽える。

 その瞬間、荒れ地の方角からこれまでとは比べ物にならない程の邪悪で淀んだ魔力が漂ってきた。

 それは吐き気をもよおす程であるが、方角から言ってメガルダンドが心配だ。


 エテルナはリレーミアに掴まると、ビュンと飛び立ち全速力でメガルダンドの元へと急いだ。

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