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2. 追憶②

 気が付くと知らない場所に飛ばされたエテルナ。起き上がる体力など残っていなかった筈だが、今は立ち上がっており、その場でただ呆然としていた。

 ルークはその様子を黙って見つめていた。


「ここが……守護竜様が正しい者だけを導いてくださるという死後の安寧の地?なんて美しい……」


 エテルナが呟く。どうやら目も見えているらしい。


「人間、あんたはまだ死んではいない」


 エテルナが水平線に見とれていると、突然後ろから声をかけられた。振り返ると、今と全く姿が変わらないリレーミアがそこにいた。

 そしてそのすぐ横には巨大なメガルダンドが。


 エテルナは目が見えないせいで、『竜』というものがどんな姿形をしているか全く知らないはずであるが、本能なのだろうか、直感的に目の前にいるのが守護竜だと判断しその場に跪くと、両手を合わせて祈りを捧げた。


「大いなる守護竜様、私はエレノシュ村に住むエテルナと申します。どうか父さん、母さんを、村の皆をお救いください……」


「何故、他人の為にそこまで祈る?」


 リレーミアが淡々とした口調で尋ねる。今と比べると、心なしか冷たい印象をルークは抱いた。


「私は幼い頃より目が見えないため、仕事ができず皆に迷惑をかけてきました。今世界は混沌こんとんに満ちています。せめて祈る事で村の役に立てるなら……」


「その気持ちに嘘、偽りは無いか?」


 そう口を開いたのは、メガルダンドであった。まるで尋問をするような声色だったが、エテルナは怯む事無く自信に満ちた顔で頷いた。


 それを見て、メガルダンドはゆっくりと目を閉じた。











「我の目に狂いは無かったな」


 そしてまた、ゆっくりと目を開いた。表情は真剣なままだったが、張りつめた空気が弛んだ感覚がした。


「エテルナよ、我々は待っていた。お主のように常に誰かを思い、行動できる者が現れるのを。

 どうか我々の頼みを聞いて欲しい」


「私は守護竜様に命を救って頂きました。どうして断る事ができましょうか」


 エテルナは祈りの姿勢のまま、合わせた両手を強く握り締めた。その手と声は震えていた。


 安心したメガルダンドはエテルナに、魔界の扉が開きかけている事、その扉を共に閉じる協力者を探していた事を話した。


「勝手ではあるが、お主に加護を与えさせてもらった。お主は死の間際になっても、他人の為に祈る事を止めなかった。共に戦うに相応しい者だと判断したからだ」


 その言葉を聞いた瞬間、エテルナの両目から涙が次から次へと溢れでてきた。


「わ、私……やっと誰かに……」


 顔をぐしゃぐしゃにしながら大きな声で泣きじゃくった。ただ見ているだけのルークも、胸がジンと熱くなった。


「エテルナ、悪いが泣いている時間はない。メガルダンド様に使える身となった今、お前にはすぐにやってもらいたい事がある」


 リレーミアが冷徹な態度を崩さず言う。

 エテルナに向かって手を差し出すと、キラキラと光の粒が何処からともなくそこへ集まり、やがてそれが一振りの長剣となった。


 エテルナはぎこちない手つきでそれを取り上げる。

 白銀の剣身に、メガルダンドを思わせるデザインの柄。この海原の不思議な日の光を全身でキラキラと反射させて、どこか神々しくも見える。


「その剣はお主と同じように加護が与えられている。その力で邪悪なる者を全て滅せよ」


 エテルナとリレーミアが一礼する。

 その直後からエテルナは、メガルダンドとリレーミアと共に扉を閉じる為に奔走した。


 普段は海原から現世の様子を見守るだけのメガルダンドだが、この時ばかりは現世へ姿を現した。


 そしてリレーミアとエテルナを従え、扉が出現したという荒れ地へと向かった。


 メガルダンドの顔がすっぽりと入れてしまう程大きく黒光りする観音開きドアが、荒れ地のど真ん中にいきなりドンとある。

 少しだけ入り口に隙間が出来ており、そこから真っ黒な霧のような邪気が漏れ出している。


「既にここから多くの魔物が飛び出していったようだ。リレーミアとエテルナは先に魔物の方を頼む。我は扉を閉じた後に合流しよう」


 メガルダンドはそう言って、扉へ向かって頭から突撃した。あまりの衝撃に立っていられない程地面が大きく揺れるが、扉はびくともしない。

 これは予想外だったのだろう、メガルダンドとリレーミアに焦りの色が出た。


 エテルナも二人の様子に戸惑っていたその時だった。




 漏れ出ている邪気の気配がより濃くなる。

 何かとんでもないモノが近付いてきているとすぐに分かった。


 今まで感じた事のない異様な邪気のせいで、エテルナとリレーミアが固まっていると、今度はその隙間から突然巨大な手が覗き、扉をそのまま握り壊してしまいそうな程の力でがちりと掴む。その際、4つの真っ黒な鉤爪がメガルダンドの鼻先を掠めた。


「メガルダンド様!!」


 リレーミアとエテルナが扉に近付こうとするが、メガルダンドが長い身体を使ってそれを止めた。


「慌てるな。だが、我はここから動けなくなった。お主達は、二人でこの扉が開くより先に魔物を全て倒すのだ。我が少しでも時間を稼ぐ間に早く」


 それでも残ろうとするエテルナだったが、リレーミアが無理矢理連れ去っていった。




 そこからは怒涛の展開だった。


 エテルナは世界各地に現れた強力な魔物を、リレーミアと共にしらみ潰しに倒していく。


 これもメガルダンドの加護か、これまで日常生活さえままならなかったエテルナだが、昔からそうしてきたような身のこなしで剣と魔法を操り、魔物達と戦った。




 突然現れ、魔物を倒してあっという間に去っていく少女と6枚羽根の天使を、人々が英雄視するのに時間は掛からなかった。


 ルークはその様子を、あの石像の姿に重ねた。

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