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13. 想いの力

「お主達も感付いてはいるかもしれぬが、邪竜レイヤカースの封印が弱まってきている。そこが全ての元凶だ」


 メガルダンドの話では、10年前にアクストゥアとフィグゼーヌの戦争が勃発。

 国境での戦いが激化した際に、そこにあった封印のくさびが、戦いに巻き込まれて破壊されてしまったそうだ。


 そのせいで、封印されていた魔界の門に隙間ができてしまい、ハンドレッドを始めとした残党達が復活。

 魔界の門を完全に開ききり、レイヤカースを復活させるため、各地で暗躍し始めた。


「ルークよ、マルディシオーネとは会ったな。あいつは今、フィグゼーヌ王国の国王を傀儡かいらいとし、国家の中枢を支配している。発達した魔法の技術を駆使し、全力で魔界の門を開こうとしている」


「そんな事まで分かるんですか?」


 ルークは目を丸くする。


 メガルダンド曰く、『ずっと見ていた』らしい。

 楔が破壊された事をきっかけに、復活を早めようと急いだが、マルディシオーネに隙をつかれてあのフラスコに閉じ込められてしまったらしい。

 代わりに、レイヤカース達の動きを見ていたそうだ。そして、今のエテルナの子孫がどうなっているかも。


「俺、守護竜様にずっと見守られてたのか……」


「随分と歯痒い思いもしたがな」


「でもよぉ、レイヤカースが復活すると、なんかヤバいってのは分かるけどよ。なんであいつらは俺達の世界を狙うんだ?」


 バァンが眉間にシワをよせ、難しい顔をして尋ねる。


「この世界を第二の魔界にするためだ」


 メガルダンドは話を続ける。


「レイヤカースは、世界の全ての生き物を魔物に変え、自身の支配下に置こうとしている。

 マルディシオーネにマルディシオンを作らせたのもその為だ」


「じゃあマルディシオーネを倒せば、俺は元の姿に……」


 ルークは拳をグッと握り締めた。


「メガルダンド様、ならまずは俺の封印の呪いを解いてください!お願いします!」


 そのまま深々と頭を下げるが、メガルダンドは、猛獣が唸る時のような声を出し続けるだけだ。そして、小さなルークをよく見ようと、目を細める。








「残念だが、それは出来ない」


 バァンとラティエが同時に何かを言おうと、一歩前へ踏み出したが、リレーミアに制止された。


「先程も説明した筈だ。お主の今の姿は、マルディシオンと封印の呪いが均等に作用し、打ち消し合っているからこそだ。そこで封印の呪いが消え去ればどうなる?」


 それは、あまりにも簡単な計算式だった。


「マルディシオンの呪い……」


 理性を持たない、異形の魔物になってしまう。それが答えだった。


 出来損ないのマルディシオンでさえ、あの暴走具合だ。人類への被害が甚大になるのが、容易に予想できた。


「それなら、一刻も早くマルディシオーネを倒そう!」


「待つのだ、ルーク。落ち着け」


 タオルを素肌に纏ったまま、神殿を出ようとするルークを落ち着いた口調でなだめる。


「今の状態でマルディシオーネの元へ行ってみろ。もし、霧状のマルディシオンが完璧な状態になっていたらどうする」


 ルークはサアっと血の気が引いた。


 渓谷での暴走は、渓谷に漂う濃密な魔力があってこそだった。

 その為、もしかしたら散布式のマルディシオンは、ルークには何の影響も出ないかもしれない。


 でももし、影響が出てしまったら……。





 考えるだけで恐ろしい事だ。前回は、運良くストンデルスとハンドレッドを標的としたため、上手く行った。

 だが、バァンやラティエの方を標的にした場合はどうなる?


 恐らく、()()()()()()()二人が生きているのが奇跡的な状況となるだろう。

 マルディシオーネとの戦いは、相当なリスクを覚悟しなければならない。そう思った。


「だが、まだ希望はある。ルーク、お主がエテルナを受け入れる事ができたならな……」


 メガルダンドは含みを込めて言う。

 ルークはメガルダンドの意図が分からず、キョトンとする。


「ルークよ、今のお主の身体には呪いが2つ存在する。しかし、互いに効果を打ち消し合うどころか、使えなかった魔法は使え、マルディシオンの効果である肉体や魔力強化の恩恵も得られている。

 何か都合が良すぎるとは思わぬか?」


 言われてみれば、メガルダンドの言うとおりだ。ルークにとって不都合な効果は打ち消され、有利な効果だけが選ばれたように現れている。

 何か特別な力が働いているとしか思えない。


「ルークを見ていて分かった。

 お主は、封印の呪いと同時に『エテルナの想い』も、脈々と受け継いできていたのだ」


 それは意外な事実だった。


『エテルナの想い』は、加護にかなり性質が近いものらしい。不思議な効果は、全てこれが影響していた。


「加護って言ったって……。俺、運が良い事なんてそんなに無かったし、父さんだって戦争で死んじゃったし……」


『加護』等と言うと響きが良いが、ルークにはハッキリ言って、恩恵が感じられていなかった。なぜマルディシオンを飲んだ途端に、そんな事になっているのか検討もつかない。


「もしや、レイヤカース関係の力に反応しているのでしょうか……?」


 リレーミアがメガルダンドに尋ねる。


「その可能性が高い。

 そして、ルークよ。エテルナを拒絶する事は、『エテルナの想い』も拒絶している事になる。

 その気持ちが強くなればなる程、想いの力は無くなり、マルディシオンの効果が強く出てくるようだ」


「そんな事言われても……」


 やはりルークは、今の自分の姿を受け入れがたいらしく、自分や仲間が傷付く度に、エテルナに対する『怨み』のようなものが少しずつ溜まっていった。


 そしてついにそれは、ストンデルスに飲み込まれた瞬間に爆発してしまった。


 逆を言えば、エテルナを受け入れると、想いの力を最大限に活用できるという事だ。

 そうなれば、マルディシオンを無効化できる上に、理性を保ちつつ、暴走時のあの再生力と戦闘力で、魔物と戦う事もできる可能性があるそうだ。


「そうなりゃ、もう勝ったも同然じゃねえか!」


 バァンが目を輝かせて言うが、ルークは全てを鵜呑みには出来ないようで、怪訝な顔をしている。


「でもやっぱり俺は、元の姿に戻りたいし……」


「その気持ちは当然だ。それは忘れてはならぬ大事な想いだ。

 そしてその想いの為にも、お主はエテルナの事を知らなければならない」

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