12.復活の守護竜
フラスコが跡形も無く砕けた瞬間、中にある光の玉が更に輝きを増す。
するとルークは、不思議な力に吹き飛ばされてしまい、バァンとラティエの目の前に墜落した。
二人が急いで抱き起こす。怪我をしているわけではないが、鎧や服が原型が分からない程ボロボロで、戦いの激しさを物語っていた。
ルークは安らかに目を閉じたまま、全く動かない上に、呼吸も感じられなかった。
「ルーク様!目を開けて!」
「ルークしっかりしろ!」
呼び掛け、揺らしたりするが、全く反応が無い。動揺するラティエだが、バァンはそれ以上に取り乱していた。
「ルーク!起きてくれよ!」
ルークを乱暴に揺すり、諦めず何度も呼び掛ける。その声は段々と震えてきていた。
「ルーク!
……俺、まだお前に……言えてねぇ事が……のに……!」
「バァンさん……」
あまりの取り乱し具合に、ラティエもかける言葉が見つからない。
ラティエが立ち尽くしていたその時だった。
「人の子らよ、慌てる必要は無い」
頭の中に響く重厚な声が、どこからか聞こえてきた。
二人は警戒しながら声の出所を探すが、なかなか見付けられない。
すると、円形の断崖絶壁の中心で輝く巨大な光が、ふわふわとバァン達に近付いてくるではないか。
先ほどの激しい光は少し落ち着いていて、同時にバァンとラティエは、フワッと暖かさを感じた。
「とんだ迷惑をかけてしまった。まずは、助けてくれた礼を言おう」
また先程の声が聞こえた。
どうやら、この光の玉が声の主らしい。
「あ、あんたまさか……」
「守護竜……様?」
「ここでは何かと不便であるな、神殿で詳しい話をしよう」
その瞬間、辺りが真っ白な光に包まれた。
何も見えなくなると、身体がふわりと軽くなった感覚がした。
光が弱まり、お互いの姿が確認できるようになってくると、目の前には夜明けの大海原広がり、リレーミアが目の前にいる。
いつの間にか、メガルダンドの神殿に戻ってきていた。
「ありがとう人の子、感謝する」
穏やかにリレーミアがお礼を言うと、何も無い空間からか大きな布を出してきて裸同然のルークの身体を包み、そのまま海面に寝かせた。
リレーミアの様子では、メガルダンドは無事に復活できたのだろう。しかし、様子が出発前と変わらないように見えたので、バァンとラティエは少し不安に思った。
すると突然、足元の水面が激しく揺れ動き、嵐の海のように激しくうねる。
だが不思議なことに、水の抵抗は一切感じられない。水面に横たわるルークも、微動だにしていない。
バァンとラティエが動揺していると、大きな波音を立てて、白く輝く竜の頭が現れた。
バァンを丸飲みに出来そうな程の大きさのストンデルスの頭を、一口で丸齧り出来そうな大きさだ。
海に沈む身体の部分は、暗い海の底に沈んでいて、全体が全く分からない。
バァンとラティエが圧倒されていると、リレーミアが横で跪いたので、二人も慌てて同じようにする。
「そう畏まらずともよい」
光から聞こえた声と同じだった。バァンとラティエはゆっくりと顔を上げた。
「リレーミアよ、苦労をかけた」
「メガルダンド様……勿体のうございます……」
リレーミアはうつむいたまま、声は震えていて、心から安堵している様子が伝わる。
二人は口をあんぐりと開けたまま、固まっていると、
「ううん……」
ルークの顔が動き始めた。どうやら意識が戻りそうだ。
バァンとラティエは安堵しつつも、咄嗟に武器の持ち手に手が伸びる。
「二人とも、大丈夫だ。あれは一時的なものにすぎない」
メガルダンドが二人を落ち着かせた。
そうしているうちに、ルークはハッと目を開け、飛び起きた。
「ここは!?なんでリレーミアがいるんだ!?
うわあ!!俺の鎧がなくなってる!?」
酷く混乱している様子だ。
いつの間にかリレーミアの所に戻っている上に、裸同然の姿になっている為、無理もない。
バァンとラティエが近寄ると、ルークはどうにか落ち着きを取り戻した。
「ごめん。俺、ストンデルスに食べられて気を失ったみたいだ……。バァンとラティエが助けてくれたんだよな。ありがとう……」
ルークは、飲み込まれて以降の記憶がないようだ。
「ルーク、違うんだ。俺達は……」
「ルーク様が助けてくださったんですわ」
「どうやって?」
バァンとラティエは口ごもってしまった。あの凄惨な戦いの様子を、ルークに包み隠さず話してもよいのだろうか。
互いに目配せをすると、バァンが口を開いた。
「と、とにかくスゲェ戦いだったぜ!」
誤魔化す方向で行くようなので、ラティエもそれに乗っかる。
「ルーク様本当に素敵でしたわ!並みいるストンデルス達を千切っては投げ千切っては投げ──」
「ばか!お前……!」
ルークは笑って話を聞いていたが、バァンの反応でそれが比喩では無いと確信できてしまった。
「ルークよ、助けてもらったにも関わらず、手荒な事をしてすまなかった。ああでもしないと、魔物の衝動が仲間達に向かいそうだったのでな」
「ど、どうして俺の名前を!?それに魔物の衝動ってなんだ!?」
メガルダンドの話を止めに、バァンとラティエは誤魔化す事を諦めた。
二人はルークにあの時の様子をありのまま話すが、ここまで怒涛の展開だった為、少々支離滅裂だった。
「俺の身体、一体どうなったんだ……」
二人の話をどうにか理解したルークだが、自分がそんな残忍なやり方で魔物を倒した事実に戦慄した。
「それは、我から説明しよう」
メガルダンドが口を開く。
ルークが暴走してしまったのは、渓谷に流れる聖域と呼ばれる由縁となった濃密な魔力。そしてハンドレッド達が撒いた、マルディシオンの残り香。
この2つが影響したものらしい。
今のルークの姿は、マルディシオンの呪いと封印の呪いが、絶妙なバランスを保っている結果だが、先程の影響でそのバランスが崩れ、出来損ないのマルディシオンの作用が現れていたそうだ。
「じゃあ、渓谷で感じていた力が湧き上がってくる感覚は、魔物になりかけてたって事なのかよ……」
「そしてルーク、ストンデルスに飲み込まれた時、お主はエテルナを強く拒絶したな?」
その言葉に、ルークは心臓を捻りあげられた気分になった。
「なんでそこでエテルナが……?」
「我が知っている全てを話そう。この世界で何が起きているのかも」




