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10.魔物達の目論見

 ストンデルスとハンドレッドに吹き荒れる、刃の嵐がおさまってきた。


 だがストンデルスも、一応は竜の端くれ。硬い鱗は魔法の耐性もあるようで、平然と全て受けきってしまっていた。

 一方のハンドレッドには、首と脇腹に深々と刃が突き刺さっている。


「あの方はともかく、ストンデルスにはあまり効いていませんわね……」


「うん、フラスコも割れてないみたいだし。どうしよう、またバァンと一緒にストンデルスを斬ってみるか……」


 バァンの方をチラリと見ると、うつ向いて壁にもたれかかり、拳を握り締めて震えているばかりである。


「バァン!どうした?早くこっちに来てくれ!」


「……お?ああ……すまねぇ」


 バァンはハッとしてルーク達に合流する。まだ考えを吹っ切ったわけではないが、せめて今は足を引っ張らないようにしたい。


「お、お前ら……鬱陶しい事しやがって!!」


 ハンドレッドが荒々しく氷を抜き取る。同時に、上半身の衣服も左右に引き裂くように破る。


「なんて勿体ない事を……」


「昔の格闘漫画みたいな事するなよ……」


 呆れ気味に突っ込むルークとバァンに対して、ラティエはキョトンとしている。


「うっせぇ!偶然だ!」


 ハンドレッドの全身の目が、一斉に開く。

 以前にも見たものだが、やはり目玉が沢山あるのはグロテスクである。それに、大勢から一斉に見られている様な感覚になるため、つい反射的に怯んでしまう。


 氷の刃が刺さっていた部分からは、どくどくと血が流れていたが、逆再生をしているように傷がふさがり、元通りになる。


 対してストンデルスは、バァンと協力して切り落とした頭部が、まだ再生していなかった。全ての魔物に、ハンドレッドのような再生能力があるわけでは無いようだ。


 だが種族の違い、と言うにはかなり無理がある。ハンドレッドには、何か秘密があるのだろうか?


「なんだ?あたしの身体が気になるのか?レイヤカース様にもらったこの身体が!」


 ハンドレッドは、艶かしく腰をくねらせたポーズをする。


「ルーク、あいつもマルなんとかってのを飲んでんのか?」


 ハンドレッドの口振りだと、そう考えられるが、飲んだ者特有の感覚が無い為、間違いなく彼女は、純粋な魔物であると言える。


「へへ、レイヤカース様に忠誠を誓えば、ちょっとやそっとじゃ死なねえ身体にしてもらえんだよ。後は、マルディシオンを飲んで魔物化したヤツも同じだ。

 ……流石に、首落とされたり、ミンチにされたらアウトだけどな」


 確かに、他に同じような体質の者と言えば、腕を斬られても、すぐに再生し始めたジニアス……とつい最近腕が再生したルークである。

 細かく言えば、一番最初に戦った一つ目の老婆も、火傷がすぐに治っていた。


 だが魔物熊も、バァンに潰された目があっという間に回復していたが、あいつはどうなのか。ハンドレッドの話だと、辻褄が合わない。


「簡単な事だ。マルディシオンを気体にして、その辺に撒いたのさ!」


 目を丸くするルーク達を尻目に、ハンドレッドは続ける。


「ま、今回も失敗だったぜ。また中途半端に魔物化した上に、制御もきかなかったからな」


 今の口振りからだと、マルディシオンの空中散布は、まだ実験段階のようだ。しかし、何故そんな事をするのだろうか。


「決まってるだろ、こうすれば飲ませる手間が省ける。そうすりゃ、全ての人間を魔物に変えられるからな!」


 前にハンドレッドが言っていた、『人間の根絶やし』とはこういう事だったらしい。


 かつてメガウスが流していた魔力も、実はマルディシオンを一度取り込んで吐き出していたモノらしいが、メガウスに取り込まれて性質が変化してしまったそうだ。


「何故、俺達人間を魔物に?」


「おおっと、質問タイムは終わりだぜ。続きはお前が死体になったら、マルディシオーネに持っていく道中にゆっくり聞かせてやる」


 またストンデルスが、一斉に向かってくる。今度はハンドレッドも一緒だ。


「うぐ……」


 バァンが突然、苦しみながら膝から崩れ落ちた。身体からは、湯気のような魔力が立ち上る。

 またハンドレッドが『吸魂の邪眼』を使っているようだ。


「前は色々あって邪魔されたからな。今度こそは、お前の全てを吸い付くしてやる!」


 ルークとラティエは、魔法や武器でハンドレッドを攻撃しようとするが、ストンデルスが邪魔をする。


 バァンの苦しみ方が、段々と弱々しくなる。それを狙って、一体のストンデルスがバァンに向かって大口を開けて突っ込んできた。


「バァンさん!!」


「そうはさせるかー!!」


 ルークはバァンを力いっぱい弾き飛ばした。代わりにストンデルスに噛みつかれた後、そのまま飲み込まれてしまった。


「ちょ、ちょっと!タンマ!!何やってる!!」


 それを見たハンドレッドが、慌ててストンデルスを呼ぶと、ルークを飲み込んだ首とは全く関係ないのが近付いていく。おそらくあの首がメインの首なのだろう。


「バカ!エテルナは死体を持っていかなきゃいけないんだから食っちゃダメだろ!!

 早く吐き出せ!!あたしが滅茶苦茶怒られるだろ!」


 ポカポカと殴り付けながらストンデルスを叱る。

 ストンデルスは明らかに困った顔をしていた。


 その間にすっかりバァンは回復していたが、ルークが自分の代わりに飲み込まれた事を知り、邪眼を食らっている時と同じぐらいに青ざめていた。


「ルーク……!!ちくしょう!!まただ……、俺が足手まといなばっかりに!!」


 バァンは目を潤ませながら、何度も何度も地面を殴り付けていた。


「バァンさん……」


 ラティエはバァンの頬を、ガンと一発思い切り殴り付けた。今までとは比べ物にならない威力で、大きな体格のバァンが少し吹っ飛んでしまった。


「バァンさん!今そんな風になってる場合ではありません!ラティエも今、無力感でいっぱいですけど、自己嫌悪は勝ってからにしてくださいな!」


 ラティエは叫ぶように、バァンを叱咤激励する。


「ルーク様はまだ生きていらっしゃいます!一人で勝手に諦めないでくださいまし!!」


 その言葉に、バァンは目が覚めたように立ち上がった。


「ああ、そうだな、すまねぇ。まだ諦める時じゃねぇよな!」


 バァンとラティエが武器を構え、一方的に喚くハンドレッドとストンデルスを睨み付けた。







(ああ……なんで俺って、こんな痛い思いしてるんだっけ?)


 ここはストンデルスの食道だろうか?真っ暗でぬるついた、狭く生臭い所を何処までも何処までも落ちていく。

 そして、右半身に激痛を感じつつ、薄れ行く意識の中ルークは考えていた。


(俺がマルディシオンを飲んでしまったからか……?

 そもそも、マルディシオンを飲みたくなったのは何でだった……?俺が落ちこぼれだったのは……?

 ……封印の呪いのせいだ。先祖のエテルナが、加護の封印を望まなければ……)












 ──エテルナのせいで……


 そう思った瞬間、ルークの心臓が、爆発したのかと思う程の、大きな鼓動がした。

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