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9.足手まとい

 まずはラティエが、ハルバードを壁から抜こうと走り寄る。

 それを阻止するべく、一体のストンデルスが炎のブレスを吐く。


 ブレスは魔法攻撃ではない為、鎧の効果は意味が無い。 ラティエは飛行魔法で逃げ回る。


 ブレスを吐き続ける個体に狙いを定めて、ルークとバァンは左右からそれぞれ武器で切りつけた。


 ストンデルスの首が輪切りにされ、その頭は足元の漆黒の闇へと飲み込まれていった。

 残った胴体部分は大暴れした後、ズンと地面に倒れた。切り口からは血が滴り、白みがかったピンクの肉がてかてかと輝く。


 まずは一体。この調子でいこう。


 そう思った時であった。










 ズル……








 首なしの胴体が動き出し、再び鎌首を掲げる。


「な……」


「おいおい……」


 魔物といえど、普通は身体と頭部を切り離されればひとたまりもないはず。


「あ、あれで致命傷じゃないって事ですの?」


 常識を越えた生き物を目の前に、ラティエは膝が震える。


「ははは!バカめ!お前ら人間だって、指切ったぐらいじゃ死なねえだろ?」


「どういう意味だ?」


 ルークが、ハンドレッドの様子を伺いつつ睨む。


「大した事じゃねぇさ。切り落としたのが本体じゃなかっただけの事だ!





 ……ん?」


 不味い事を口走ってしまったかな?とハンドレッドは首を傾げるが、自分が勝利している姿しか見えていないハンドレッドの口は止まらない。


「もうここまで言ってしまえば仕方ない。

 ストンデルスは、多頭のドラゴン。メインの頭以外は全てダミーだぜ!

 ダミーと言っても、ちゃんと口や目はあるからな、せいぜい食われねぇように気を付けな!」


 なんと、この数十いるストンデルスは、全て合わせて一つの生き物だったのだ。ハンドレッドの言う、『メインの頭』さえどうにか出来れば勝てるのだろうか?


「行け!ストンデルス!」


 ハンドレッドはルーク達へ手をかざすと、全ての首が一斉に向かってくる。

 メインの首を探すが、どれも全く同じで見分けがつかない。


 とにかく飛行魔法を駆使し、隙間をぬって避けていくが、片手剣並の巨大な牙や刺々しい鱗がルーク達に触れ、地味ながらダメージを与える。


「くぅ……。なかなか痛いですわね……」


 ラティエが腕にできた切り傷を手で覆いながら、逃げ回っていると、今にも死にそうなハエのように、よろよろと飛び回っているバァンが目に入った。

 慌てて近寄り、抱き起こすようにバァンを支えた。

 見ると、バァンの両手の平が淡く光っているので、回復魔法を唱えようとしているようである。

 だが、飛行魔法と回復魔法の発動が両立できないらしく、どっち付かずな状態だ。


「バァンさん、傷は……大丈夫そうですわね。それにしても、回復魔法できましたの?」


「あんま話し掛けんな、気が散る……!」


 ラティエが支えてくれるので、バァンは回復の方に専念する。眉間にシワを寄せ、険しい顔で集中するが、ルークと同じようにはいかない。

 ルークならあっという間に治してしまうであろう傷でさえ、血を止めるだけでヘトヘトになる。


 集中し過ぎて、ストンデルスの一体が近くまで来ている事に気付かなかった。

 ラティエも必死で身をかわすが、バァンを支えていると思うようにはいかず、体当たりを食らってしまう。


「きゃああ!!」


 衝撃で吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「……バァンさん、ごめんなさい。大丈夫ですの?」


 急いで起き上がり、バァンへ駆け寄る。頭をぶつけたのか、額から流血している。

 回復魔法を唱える前よりも、結局ダメージを負ってしまっている。


「情けねぇ……!!これくらいの傷すら、ルークに頼らないと治せないのか……」


 バァンは怒りに任せて壁をガンと殴り付けた。魔力でパワーが上乗せされていたのか、殴った部分は隕石がぶつかったのかと思うような、クレーター状に凹んでしまった。


 あまりの音と衝撃に、ラティエは一瞬、滅茶苦茶に叱られた子供のように肩をすくめるが、ストンデルスは待ってはくれない。

 複数の首が再びこちらを狙い、向かってくる。


「バァン!ラティエ!凄い音がしたけど、そっちは大丈夫か!」


 ルークも二人と同じように、複数の首に追い掛けられていた。


「ええ!ルーク様も気を付けて!」


 こんなタイプの敵ならば、お互いが絡まるように誘導し、動けなくするのがお約束の方法だろうが、そう上手くはいかない。

 タコやイカの足が、絶対に絡まったりしないのと同じように、すぐにほどかれてしまう。


 メインがわからないなら、まとめて攻撃すればよい。とばかりに、ラティエは魔法を唱える。

 洞窟内がひんやりしていて、湿気が多い事を利用して、大きな氷の刃を作り出した。


「ラティエ、便乗させてもらう!」


 ルークが近付いてきて、ラティエの魔法を補助する。あっという間に同じものが増えて、何百という数の氷の刃がルークとラティエ、バァンの回りに浮かんでいる。


「ルーク様はやっぱり凄い方ですわ……。ラティエだけでしたら、数個が限界でしたもの」


 ラティエは、ストンデルス達とハンドレッドがいる方をキッと睨み付け、氷の刃を一斉に放った。

 嵐のように刃の暴風雨が吹き荒れ、ストンデルスとハンドレッドを襲う。


 その様子を、バァンは壁にもたれたまま、ただ呆然と眺めていた。


(二人ともすげえなぁ……。

 それに対して、俺は何かしたか?この戦いで)


 バァンの頭の中は、ヘドロのように淀んだ思考でいっぱいだった。


(今までの戦いだってそうだ。結局ルークが全部一人で倒してるじゃねぇか。

 無理矢理ついて来たくせに、壁にすらなれてねぇじゃんか……。



 ……俺、足手まといだよな)

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