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8.渓谷の主

 フラスコの上に目をやると、いつの間にかハンドレッドが、それの上にある、栓らしき部分に腰掛けている。

 これには流石にぎょっとする三人。その様子を見て、ハンドレッドはふんぞり返って誇らしげにしている。


「どうだ、驚いたろ?あたしは凄いんだぜ」


 自分で言わなければよかったのに、せっかくの格好の良さが台無しである。


 それはいいとして、ハンドレッドが散々勿体を付けて『あれ』と呼んでいたモノが、どこを探しても見当たらない。


「なんだよ、ハンドレッド。結局お前しか居ねえじゃねえか、脅かしやがって」


 バァンは完全に油断している。


「『ハンドレッドさん』と呼べって言ってるだろ!毎回言わせんな!

 いいぜ……。そんなに死に急ぎたいなら、望み通りにしてやるよ」


 ハンドレッドは胸がはち切れそうな程、大きく息を吸う。










「来い!!!ストンデルス!!!!」


 ハンドレッドの怒号の如き呼び掛けが、洞窟中に反響した。

 あまりの大きな声に、ルーク達の鼓膜がビリビリと痺れる。


 一体どこからやってくるのか?三人は背中合わせで団子のように寄り固まり、武器を構えて辺りを警戒する。


















 しかし、待てども待てども現れる気配が無い。洞窟内はしんとした静寂に包まれている。


「……来ない?」


 ハンドレッドの口から出まかせだったのだろうか?ルーク達は戸惑うが、ハンドレッドは、顔全体の目を細め、余裕の笑みを浮かべている。


「ルーク、あいつが勝手に言ってるだけじゃねえか?さっさと攻撃し──」


 バァンが言い終わるかどうかのところで、ゴゴゴと音が鳴り、洞窟全体が大きく揺らいだ。

 洞窟を形成している石や土の欠片が、パラパラと落ちてくる。


「ふふ……」


 ハンドレッドが、細くなった目を更に細める。




 ルーク達がよろめいていると、フラスコを取り囲む崖の底から、突然巨大な壁が現れた。





「グルルル……」


 良く見ると、大蛇型の竜がルーク達を見下ろしている。一匹だけでも、バァンを丸飲みにできそうな程の大きさだが、それがざっと十数、一斉にこちらを見ている。しかし、その目はどこか虚ろである。




 全長は、一体どのくらいなのだろうか。


 底が見えない程の深さの崖から、身体を伸ばし、ルーク達を見下ろす程高く首を掲げている。その規格外の大きさに、思考を放棄したくなる。


「はーはっはっはっ!どうしたお前ら、口が開きっぱなしになってるぜ?」


 高笑いが止まらないハンドレッドに指摘され、急いで三人は口を閉じる。


「口がいっぱいの上司の次は、首がいっぱいの上司って事かよ……」


「おおっと、そいつは違うな。偽エテルナ」


 随分とアメリカンな仕草で、チッチッチッと指を振る。

 ハンドレッドの図に乗った態度が止まらないが、これだけ巨大で頼もしそうな魔物が味方ならば、さぞ気分が良いのだろう。


「お前ら、この場所が何て呼ばれてるか知っているか?」


 言われてみれば、リレーミアからは『聖域の渓谷』としか聞いていなかった。ルーク達は首を傾げる。


「『ストンデルス渓谷』。

 こいつはここの主。魅了の邪眼であたしの虜にしてやったのさ!」


 それはかつて、アクストゥアの古城での戦いで、バァンがかかってしまった技だ。

 ストンデルスと呼ばれる竜達は、今は完全にハンドレッドの思うがままのようだ。


「こんな巨大な生き物を操るなんて……。ハンドレッドさんて、()()凄い方なんですのね……。」


「おお小娘!お前はあたしの名前をちゃんと呼んでて良い奴だな。

 どうだ、あたしの仲間にならないか?」


 皮肉のつもりだったが、今のハンドレッドには届かない。

 ラティエはルークの腕に絡まるようにしがみつき、ハンドレッドに向かってしかめっ面でべっと舌を突き出す。


 そういう事情ならば、ストンデルスを無闇に倒すわけにはいかない。

 どうにかして魅了状態を解除し、正気を取り戻させたい。

 バァンの時はどうやって、乗り切ったんだったか。


「ルーク、こういうのは大抵、術者を倒してしまえば大丈夫だろ!」


 バァンが魔法でジャンプ力を強化し、ハンドレッドへ向かって一直線に飛びかかる。


 しかし、十数いるストンデルスの内の一体が、それを邪魔しようと、下方から口を開け首を伸ばす。

 それに気付いたバァンは、咄嗟に高度を上げる。しかし、右足首を噛まれ、壁に向かって放り投げられた。


「がっ……!!」


 そのまま壁に叩きつけられ、ズルズルと地面にずり落ちる。


「バァンさん!」


「バァン大丈夫か!!」


 ルークが大急ぎで駆け寄ると、バァンの右足首には、牙の形に穴が開いており、地獄のマグマが吹き出す様に血が流れ出ている。

 硬いすね当てのお陰で、辛うじて噛み千切られてはいないが、骨が完全に砕かれているようだ。


 急いで回復魔法を唱える。

 その間、ラティエが邪魔をさせまいと、ストンデルスの攻撃を引き付ける。


「ルーク様はバァンさんを!」


「ラティエも気を付けて!」


『力が湧き上がってくる』感覚のせいだろうか。魔法がいつもより簡単に発動し、威力も高く感じる。あっという間にバァンの治療を終えると、


「きゃああ!!」


 ラティエの悲鳴が聞こえた。

 見ると、ラティエのハルバードが弾き飛ばされ、ガツンと壁にめり込む。


「ルーク様、攻撃せずにいては、いつまで経っても状況が変わりませんわ!」


 余韻で痺れる手を押さえながら、ラティエは言う。


 確かにその通りだ。ストンデルス達に一切の攻撃をせず、かつストンデルス達からの攻撃を掻い潜り、ハンドレッドと戦う。

 そんな器用な事、どんな戦闘の達人であっても難しいミッションだろう。


「……やるしかない」


 相手はこちらを殺す気で向かってくるのだ。同じ気概で挑まなければ不利になるのは、至極当然の事だ。


「ルーク、やるんだな!」


「三人で強力して、一体ずつ確実に倒していきましょう!!」


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