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6.元凶現る

「……俺は、魔法は使ってない。

 ただ無我夢中で剣を振り回して……。そしたらよく分からない内に、茂みに頭から突っ込んでたんだ……」


 ルークがあの時の記憶を辿る。

 だとすれば、ルークの左腕はひとりでに再生したことになる。


「なんか、これまで俺達が戦ってきた魔物みてぇだな……」


 バァンが少し気味が悪そうに言う。

 それを聞いて、ルークはハッとなった。


「もしかして、マルディシオンか……」


「でもよ、ルークは封印の呪いのお陰で、人間のままなんだろ?」


「それが『見た目だけ』だったとしたら?」


 ルークは、マルディシオンの魔物化の呪いは完全に中和されたわけではなく、魔物の能力を保持しつつ、封印の呪いの影響で姿がエテルナになっているのではないかと考えた。


「流石ルーク様ですわ!

 でしたら、やっぱりルーク様は最強なのですわね!」


 ラティエが真っ赤な姿のまま、目を輝かせて言う。

 しかし、そんな都合の良い事があるのだろうか?いつかどこかで、何かしらの精算があるのではないだろうか。ルークはそんな一抹の不安を抱く。


「まあ、今は考えていても仕方がねぇよ。

 それよりも、早く守護竜様の魂を助けて、とっととここから離れようぜ。

 俺達まであの熊みたいに、魔物化しちまいそうだ」


「それはきっと大丈夫ですわよ」


 ラティエがあっけらかんと答える。何故そう言いきれるのだろうか?ルークとバァンが尋ねた。


「だって、ラティエ達の鎧はカースライト鉱石が埋め込まれてるんですもの。

 魔力による状態異常は、全て防いでくれますわ。……魔力による『強化』も防がれてしまいますけど」


 そういえばルークとバァンの鎧は、それぞれの武器と同じくアクストゥアの王から賜った物だ。

 ラティエが言うには、王室御用達の高級ブランドの作品らしく、特に魔法道具の扱いに長けているそうだ。

 貴重な鉱石であるカースライトを、ふんだんに施した大変高価な鎧らしい。


 ラティエはルークとお揃いにする為にわざわざそこのデザイン違いを買い付けたそうだ。


『カースライトは魔法に強い』


 王の言葉が思い出される。

 しかし、ルークには引っ掛かる事がある。


「……じゃあ、ここに来てから感じている、力が沸き上がる感覚は何なんだろう?」


 ルークの言葉に二人は、互いに顔を見合せ、きょとんとしている。


「もしも、ルーク様がそう思われるなら──」


「それはルークだけだと思うぜ……」


 どうやら、その感覚があるのはルークだけらしかった。


 既に魔物化しているからだろうか?毒状態になってから、毒無効の対策をしても意味がないのと同じように。


 あまり腑に落ちないが、気になる事はまだある。


 魔力の気配が濃くなれば、魔物が凶暴化したり、活性化する事は知られている。

 しかし、いくらこの場所の魔力が満ち溢れていようと、普通の動物が魔物化するなどありえるのだろうか?


「前にも、似たような事があったよな……」


 ルークには、アクストゥアの王都の時のように、何かしらの魔力の発生源があるとしか考えられなかった。


「おおー!あったあったそんな事!!」


 バァンが、何年も前の出来事かの様な反応をしている。

 実際には、1ヶ月も経っていないのだが、色々ありすぎてあの時の出来事が何やら懐かしく思われる。


「じゃあまたあの二人が関わってんのかよ?

 確かメガウスと……、えーと……何だったっけ……」


 あと少しで名前が出て来そうだが、なかなか思い出せない。ルークとバァンが唸りながら悩んでいると、


「なんでそいつの名前が出てあたしの名前が出てこねぇんだよ!!」


 ルーク達は声の主を探す。上の方を見ると、巨木の太い枝の上に以前見た姿があった。


 相変わらず黒い布をマスクのようにして、鼻から下を隠しているが、あの時とは違いフードは被っておらず、長い金髪と、額にある三つの目は惜しげもなくさらけ出している。

 服装は前と同じ、修道服のような黒の長袖ロングスカート。


 遠目から見ると、昔の不良娘のようであるが、何やら気まずそうにしている。


 そして、その横に立つ見慣れぬ人物。ハンドレッドをじっと見つめている。






「おやおや、ハンドレッドさんが大きな声を出すから気付かれてしまいましたね」


 黒のトライバル模様の刺青が全身に施されている、紫髪ミディアムロングヘアの女性。

 首もとから布が別れ、胸元からみぞおちを大胆に露出させた青紫のセクシーなイブニングドレスを身にまとっている。

 青白い肌が刺青とドレスを際立たせる。ハンドレッドと違い、見た目だけは人間と変わりがない。


 錫杖のように長い杖を持っている事から、魔法が得意だと思われる。


 ハンドレットの方を向いて微笑むが、目が全く笑っていない。


「も、申し訳ありません……マルディシオーネ様つい……」


 ハンドレッドは、目を震わせ顔を背け、呟きのように弱々しく返事をする。まともに顔を合わせられないようである。


 ハンドレッドが発した名前に、ルーク達は思わず反応する。


「あいつ、名前の雰囲気そっくりじゃねぇか?」


「まさかあの人がマルディシオンを……」


「ではあの方を倒せばルーク様は!」


 三人は円陣を組み、顔を突き合わせる。

 その様子を、マルディシオーネと呼ばれるその女性は、不気味な程の穏やかな目で見下ろしている。

 するとすかさずハンドレッドが、マルディシオーネに耳打ちした。


「前に報告した……」


 等と言っているのが微かに聞こえた。

 耳打ちを聞き終わると、ルークを見てニッコリ微笑んだ。


「そこのお嬢さん、わたくしの作品を飲んでいただいたんですね。

 飲んだにも関わらず、こちらの支配を受け付けず、しかも知性と理性を保ったままなのは、貴重な検体です。是非とも詳しくお話を聞きたいところですが……」


 表情が一瞬で冷たくなる。


「忌々しいエテルナの姿なのは不愉快ですね。非常に惜しいですが、私の精神衛生上好ましくありませんね。死体をゆっくり調べる事にしましょうか」


 ルーク達は武器を構えた。


「ハンドレッドさん……確か、アクストゥアの城では、途中で上司を見捨てて逃げ出していましたね」


 マルディシオーネはルーク達の方を見下ろしたまま淡々と言う。ハンドレッドは肩をビクッとさせ、そのまま硬直してしまった。


「さっきも影でこっそりと様子を見ているつもりでしたのに、ハンドレッドさんのせいで気付かれてしまいましたし……」


 横目でチラとハンドレッドを見る。ハンドレッドの顔がどんどんと青ざめ、冷や汗が滝のように吹き出る。


「挽回したいとは思いませんか?」


「……」


 ハンドレッドは怯えきって返事が出来ない。


「……思いませんか?」


 くるっとハンドレッドの方を向き、圧が込められた微笑みが向けられる。とても『いいえ』と言える雰囲気では無い。


「お、思います……」


 ハンドレッドは、消え入りそうな声で返事をする。全身をガタガタと震わせ、今にも枝から足を踏み外してしまいそうだ。


「ああよかった。ハンドレッドさんならそう言ってくださると信じていましたよ」


 わざとらしい笑顔から、マルディシオーネはすんと真顔になる。


「私はやる事があるのでここを離れます。

 全て任せますので、エテルナの死体を私に持ってきてください。あなたは複数を相手にするのは苦手でしょう、『あれ』を使っても構いません。


 そうすれば今までの失敗は帳消し。オマケに、部下も付けて昇格させてあげましょう。期待していますよ、ハンドレッドさん」


 そう言うと、側に空間転移のゲートを作り、巨木の中へ入り込むようにして消えた。

 すると、先程まで子犬のように震えていたハンドレッドが急に元気になる。


「ふはははは!!やっぱりあたしの読みは正解だったぜ!

 改めてエテルナ!お前をぶっ殺す!!」


「あいつなんだか大変そうだな……」




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