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1.聖域と呼ばれる山

 あれから三人は、世界樹を目指して真っ直ぐに空を進んでいた。


 しかし飛んでいる間は、ずっと魔力を消費し続ける。魔力回復の薬を飲みながらの進行の為、アイテムはどんどんと減っていった。


 周りは森や山岳地帯が広がり、前人未到の地と言った様子で、拠点となりそうな施設や建物は期待できそうにない。


 温存を考えて、出来る限りアイテムを節約してきたが、太陽と共にバァンの高度が下がりはじめてきてしまった。


「バァン!?」


「バァンさん!!」


 心配するルークとラティエだが、二人も段々と地面が近付いているのが分かった。

 そしてついに、全員地面に足がついてしまった。


 皆それぞれ背伸びをしたりジャンプしたりするが、再び空へ戻る事ができない。


 ハッとルークが何かに気付くと、手を前にかざした。


「ファイア!!」


 しかし何も起こらない。以前のルークの時と違い、煙すら上がらなかった。

 バァンとラティエはポカンとしていたが、ルークと同じくハッと気付いた。そして、手掛かりを見付けた魔物図鑑の一節を思い出していた。


『近付くだけであらゆる魔法が、一切使えなくなってしまう』




「ここが既に聖域の領内という事ですの?」


「おいマジかよ、山すそがまだ見えてないんだが……」


 目の前には枯れ木の森が広大に拡がる。普通の森とは違い、視界を邪魔する物が少ないため、見通しはきく。

 しかし、数時間慣れない飛行魔法を使い続けた三人は、もうへとへとだった。

 日も落ちてきている為、今晩はここで野営をすることにした。幸い、焚き火の材料には困らなそうだ。


 簡易的なテントを設営し、魔女の屋敷から一つ拝借した魔光石のランプを灯すと、辺りは朝日の様なさわやかな光に包まれた。

 地下室に籠っていた時は気付かなかったが、どうやら魔物が嫌がる性質の光らしく、魔物が現れても遠くからじっと眺めるだけだ。


 ヴォーマとの戦いで壊れた鎧の応急処置を終えたルークは、食糧の補充の為猪型の魔物を一匹、バァンと剣で仕留めた。


「大物だぜ、やったなルーク!」


「ありがとう、ごめんな」


 その後は三人手分けして下ごしらえをした。


 血抜きし、臓物を取り除き、捌いていく。

ラティエは、野営の授業で習った事そのままが目の前で起きていて感動している。家がお菓子屋なので、分野違いかと思っていたが、どうやら調理に関する事は一通り叩き込まれているようだ。血まみれになっても気にせず、一生懸命に肉を捌く姿は、随分と逞しく映った。


 骨で出汁をとったスープと、巨大なステーキでお腹を満たし、食べきれない部分は炙って水分を飛ばして保存食にした。

 ランプのお陰で魔物を気にせず眠れる。三人は安心して川の字に並べた寝袋に入った。







 ──しばらくして、ルークはなかなか寝付けずにいた。


「ルーク様もなかなか眠れませんの?」


 ささやき声の方向を見ると、ラティエがまん丸の瞳をパッチリ開けてこちらを見ていた。


「うん……、疲れてるはずなんだけどな。

 多分もうすぐで呪いの手掛かりに辿り着けるって事で、興奮してるのかもな……」


「何にせよ、これでルークの呪いの内一つが解決だな」


 どうやらバァンも起きているようだ。


「大きないびきが聞こえないと思ったら、今日は珍しいですわね」


「ははは!俺も知らない内に緊張しちまってるのかもな!」


 三人は笑い合った。だが、その心の内で皆共通の思いを抱いていた。


(ランプが明るくて寝づらい……)













 暗い雲に、絵の具を滲ませたように白い光が混ざりあってくる。朝がやってきた。


 ルーク達はほぼ同時に起き上がると、誰から声をかけるともなく、手際よくテントや寝袋を仕舞っていく。皆、目の下にうっすらと隈を浮かべていた。


「……皆、準備はできたか?忘れ物は大丈夫か?」


 気だるそうにルークは二人に声をかけるが、返事がない。


 できるならもう少しここに留まり、身体を休めたい所だが、魔物が出現する上に、食糧もアイテムも補充する事が難しい為、あまり長居はできそうにない。


 かなり離れているから大丈夫だとは思うが、ヴォーマ、又はその手の者がいつ追ってくるとも限らない。

 今は出来るだけ早く守護竜に会い、話を聞く必要がある。


 それにしても、せっかく10年ぶりに再会した兄と、敵対する事になったバァンは平気なのだろうか?

 ルークはそれとなくバァンに聞いてみた。


「まあ正直生きてたのは驚いたぜ。でもやっぱり、今の兄貴の考え方には納得できねえよ……」


 少し悲しそうにうつむくバァンに、何と声をかけようか迷うルークとラティエ。


「つか俺の事よりもルークの方だろ。せっかくここまで来たんだから、早く行こうぜ」


 バァンはニッと白い歯を見せて笑った。

その顔はルークにイジメをしていたあのバァンと、本当に同一人物なのか?そう思えるほどバァンの表情は頼もしいものだった。







 三人は枯れ木の森の中へ足を踏み入れた。

 かつては鬱蒼とした森が広がっていたのだろう。おぞましい幽霊のような枯れ木達に混ざり、地面に落ちたカラカラに干からびた蔦や、草切れがその名残を少しだけ覗かせる。


 もちろん魔物も出現した。

 聖域の力は魔物にも有効なようで、出会う魔物全てが力にものを言わせて襲いかかってきた。

 毒の爪で攻撃したり、自身の翼で空を飛んだり等、魔力を伴わなければ普通に使える為、ルーク達の方が魔法を封じられた分不利だった。

 三人の中で唯一、魔法を使わない戦闘スタイルのバァンを他二人がサポートする形で、アイテムの消費を最小限におさえて進んでいった。


 ひたすらに世界樹を目印にして進むと、道が登り坂になってくると同時に、枯れ木の森に終わりが見えてきた。

 そして、今度は険しい山岳地帯が始まった。

 まだ森と比べると見通しがきいているので、魔物の襲撃も落ち着いていた。


「……まだ続きそうですわね」


 寝不足でふらふらのラティエが絶望したように呟いた。


「おいおい、二人とも大丈夫かよ。そんなに辛いのか?」


「バァンは何度か回復薬を飲んだから、元気そうだな……。俺達も飲んどくか……」


「ルーク様、寝不足で回復薬を使うなんてもったいないですわよ……。何があるか分かりませんし」


 三人がのそのそと進んでいると、分かれ道が見えた。一方は登り坂、また一方は下り坂であった。思わず中央で立ち止まる。


「どっちだ?普通に考えたら登り坂が世界樹で、下り坂が洞窟ってとこか?」


「……ルーク様はどうします?」


「もう辛いから下り坂で……」


 ルークが声を絞り出すように答えた。

 バァンとラティエはルークを心配しつつ、下り坂を進んでいった。

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