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11.王国からの襲撃

 屋敷での生活は、地下室にいる事が多いため、時間や昼夜の感覚が狂ってしまうが、それを除けば予想より不自由はなかった。


 最初にここに来た時から何日か過ぎ、三人は地下室の本のほとんどを読破していたが、有力な手掛かりを掴めずにいた。

 ずっと地下室と一階の生活スペースの往復の為、皆明らかに疲れてきている。



 ある時、地下室で三人それぞれが本を読み進めていると、突然ルークが二人を呼んだ。


 読んでいたのは年代物の分厚い魔物図鑑だ。今までその分厚さから避けていたものだった。

 その一部のページに、デビルフランシアの事が記載されていた。

 『聖域』と呼ばれている山の頂上に生える、世界樹に寄生する個体が確認されているとの事だった。


「あいつ、聖域から無理矢理連れてこられたって言ってたよな」


「うん、じいちゃんの話だからどこまで本当か分からないけど……」


「それで、その聖域の場所については何かありませんの?」


 ルークは本の内容を音読した。

『フィグゼーヌより遥か北の地。何故、そこは聖域と呼ばれているのか。それは、近付くだけであらゆる魔法が、一切使えなくなってしまうからだ。』


 三人はやっと見つけた僅かな手掛かりに安堵し、互いに笑いあった。

 ようやく先に進めそうだ。










 そう思った時だった。


 何かが焦げる匂いが鼻を突いた。


「バァンさん、またお料理をほったらかしてここにいらしたの?」


「違ぇっての。別に今料理はしてねぇよ!」


「バァンじゃないとしたら、じゃあ一体何が?」


 三人は急いで階段をドタドタと駆け上がった。地上に近付くにつれ、顔全体を熱気がおおう。


 見ると、店舗スペースだった玄関周りに火の手が上がっていた。加えて、外で何やら成人男性の怒号が聞こえる。


 ただならぬ事態を察知し、三人はあわてて地下室へ駆け戻り、道具袋に必要最低限の荷物を急いで詰めると、また火事の現場まで舞い戻った。


 ルークとラティエが水魔法で大雑把に消火し、バァンが三人分の荷物を担いで、出入口付近の炎の勢いが落ち着いた隙に外へ思い切り飛び出した。







 外は、同じ甲冑を来た十数人の兵士が、炎と距離を取るように屋敷を包囲していた。何人かはフィグゼーヌ王国の国旗を掲げている。


「出てきたぞ!」や「まだ子どもだ!」等あらゆる方向から兵士達の騒ぐ声がするが、中央にいる明らかに格が違う鎧を着た細身の男が、サッと手を掲げると、すぐにざわついていた場が静まった。


「怪しい三人組が山へ向かったと民からの相談で来てみれば……。

 やはりネズミが紛れ込んでいたな」


 男は一歩前に出て顔は真正面のまま、目線だけこちらを見下ろして言った。


 他の兵士と違い、フルフェイスのヘルムを着けておらず、素顔があらわになっている。

 その顔を見てルーク達は驚いた。


 なんと、バァンの父ホーテンを若返らせ、髭を取り除いた顔そのままだった。


「……ホーテンさん?」


 ルークの訝しげな呟きに、ホーテンそっくりな男はピクンと眉を動かした。

 その表情もホーテンそのものだった。体格の違いで、やっと別人だと思える程である。


「ほう……下賤げせんの者のくせにその男の名を知っているか」


「げ、下賤!?無礼ですわよ!ラティエは──「それと貴様、バァンだろ?」


 ラティエの話がまるで聞こえていないかのように、男は喋り続ける。ラティエは怒りのあまり、金切り声をあげているが、それでも男はまるで意に介していない。


 バァンは震える瞳でじっと男を見つめ、そしてゆっくりと口を開いた。


「……あ……兄貴?」


「バァン、10年ぶりか?親父とおふくろに似てずいぶんとデカくなったじゃないか」


 バァンが兄と呼ぶ男はそう言うが、顔は明らかに再会を喜んでいる雰囲気ではない。男はルークと、未だに騒ぐラティエの方を見ると、わざとらしい程の丁寧さで自己紹介をした。


「バァンがずいぶんとお世話になっているようですね。私は兄のヴォーマです。フィグゼーヌ王国魔法剣士隊隊長をしております。どうぞよろしく」


 そして、芝居がかったような、大袈裟な程丁寧なお辞儀をする。


「それにしても驚きました。いえね、誰も近寄らないはずのこの山に、あえて向かう人間がいると民から相談を受けまして。来てみれば弟のバァンとそのお友達ではありませんか!ここは王国が半世紀以上昔から探していた反逆者のアジトです。こんな所で何を?

 まあ、この場所をご存知という事は、ろくでもない事なのでしょうけど。さっさと炙り出して正解でしたね」


 ヴォーマはやたらと早口で説明した。その中の『反逆者のアジト』というのは、一体どういう事なのだろうか?


「言葉通りの意味ですよ」


 ヴォーマが小馬鹿にするように鼻で笑いながら答える。


 何でもその昔、王国を追放された事を逆恨みし、幾度となく城を襲撃してきた魔女がいたそうだ。その魔女がかつて潜んでいた家が、この屋敷なのだという。


 恐らく、ルークの祖父の師匠の事を言っているのだろうが、祖父の昔話を聞く限り、そんな事をする人物とは思えなかった。


 王国側が出来事を都合の良いようにねじ曲げているに違いない。


「ここにいるという事は、国家反逆を目論んでいると見なされ、問答無用で投獄されてしまいます。

 ……しかし、今目の前にいるのは、()()()弟とそのお友達です。

 今回は特別に、事情聴取という事でご同行願いますか?」


 ヴォーマが頭をかきあげながら手を差しのべる。


 事情聴取だけなら、理由を話せば納得してもらえるだろう。

 そう思ったルークは、大人しくヴォーマの方へと近付く。





 すると、その様子を見てバァンが叫ぶ。


「ルーク!騙されるな!!兄貴は嘘をつくとき頭をかきあげる癖があるんだよ!!」


 その瞬間、ヴォーマの表情が邪悪に歪み、ルークの手首を乱暴に掴んできた。

 強烈に引っ張られるので、ルークは無理矢理ひっぺがして振りほどいた。


「チッ!女とは思えん力だな」


 ヴォーマは手をさすりながら言う。本性を現したか、口調から丁寧さが消えた。


「女を痛め付けるのは気が引けるが、そちらがその気なら仕方ない。こちらもそれに答えようじゃないか」


 すると、ヴォーマは背負っている武器の柄に手を掛けた。


 巨大な菜切り包丁のような大剣が、ルーク達の目の前に姿を現す。


 ヴォーマがそれを地面にズシンと突き立て、手をかざすと、刀身部分に何やら青白く光る模様が浮かび上がった。


 地面へのめり込み具合を見ると相当な重さの筈だが、ヴォーマの扱い方を見ていると、まるでおもちゃを振り回しているのかと錯覚する。


 それを両手で力いっぱい地面から抜くと、剣先から模様と同じ色の衝撃波が地面をえぐりながら飛んできた。


 衝撃波がルークの足元まで来ると、まるで生きているかのように、突然ルークの顔面目掛けて跳躍した。どうにか間一髪で避け、そのまま後ろの岩肌に直撃した。


 岩肌は隕石がぶつかったかのようなクレーターが出来ており、僅かにかすったのかルークの額には切り傷が出来ていた。


「今のはほんの挨拶だ。三人まとめて掛かってこい。

 実力の差が分かれば、抵抗する気持ちも失せるだろう」


 ヴォーマが、鉄板のような剣を軽々と担いで挑発してきた。

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