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9.オトメノチカラ

「こいつ、多分『デビルフランシア』だ!」


 くねくねと追いかけてくるドリルを、剣で受け流しながらルークは叫ぶ。


「デビル……何だって?」


「そんな名前の魔物、聞いたことがありませんわね」


 ターゲットを分散させようと、風魔法をかまいたちのようにして蔦にぶつけながらラティエは答えた。


 ルークは思い出した事を全て話した。

 祖父の話によると、この魔物は世界樹やクリフォト等の、良くも悪くも強い力を宿した木に寄生する寄生植物。珍しい木にごく稀に現れる為、大変珍しい魔物なのだという。


 花弁の中心には美しい女性の姿があり、基本的には宿主の木から生命エネルギーをもらって生きている為、何かが近付いてくると、エネルギーを一人占めする為にそれが命尽きるまで執拗に攻撃を加える。

 しかし、それが人間の若い娘だと、弱らせた後にトゲの付いた蔦で絡めとり、養分として全てを吸い上げてしまうのだという。


「な、なんだって!?大変だ!

ルーク、ラティエ待ってろよ!」


 バァンが急いで合流しようと引き返す。


「それにしても『美しい女性の姿』?

 どこにも見当たりませんけど」


 ラティエが魔力回復の水を飲みながら、不思議そうに答えた。


「じいちゃんの話だと、聖域に生える木に寄生してたのを、屋敷で栽培したいからって魔女が無理やり裏庭の大木に植え替えたらしいんだ。ほぼ不死身だからいけるだろうって……。

 でもこれを見ると、植え替えに失敗したんだと思う」


「ああ確かに、一部しか見えなかったが、宿主らしき木は完全に枯れてたっぽいぜ。

 こいつが吸い付くしたせいかは分からないがな。

 それにしても、『ほぼ不死身』って何だよ、フワッとしてんな」


 蔦から滑り落ちながらバァンが言った。


「そのお話が本当なら、この魔物は別に魔女のお墓を守っているわけではないのでしょうね」


「むしろ、魔女の一味の子孫である俺を、目の敵にしてるんじゃないかな」


 少しバテてきたルークが、息を切らせながら言った。

 するとデビルフランシアは、ルークが弱ってきたと判断したのか、ドリルを直ぐ様ほどくと、それをイバラのように変化させ、トゲだらけのそれを投網のようにしてルークを捕まえた。

 トゲが頭や足等、鎧で覆われていないところ全てに突き刺さる。

 そのまま締め上げられ、まるでトゲの付いた鉄球のようになってしまった。


「ルーク!」


「ああ!なんて事!!」


 バァンとラティエが急いで駆け寄り、武器を使ってこじ開けようとするが、固く締め上げられてびくともしない。


「オトメ……チカラ……」


 鉄球がビクンと脈打つ。


「ルーク様!!」


「くそ!どうにかできねぇのか!!」


 ルークからエネルギーを吸い上げる事に集中しているからか、デビルフランシアの猛攻は一旦おさまっていた。

 その隙にバァンとラティエは、球状となったイバラの網を、ルークごと叩き割らんばかりに武器を振り下ろした。


 しかし、あまりの固さに逆に弾き返されてしまう。中からはルークの苦しそうな声が聞こえた。

 二人は何度弾かれても、めげずに攻撃を続けていた。


「くそ!早くしねぇとルークが!」


「跡形も無く養分にされてしまいますわ!」


 辺りに金属音が鳴り響く。その時だった。


「ググ………」


 魔物の様子が変わった。

 花弁はどんどんと色褪せ元気を無くし、中心の老婆の顔のシワもどんどんと増えていく。


 明らかに枯れてきていた。


「ラティエ達の攻撃が効いてますの?それともルーク様が何かを?」


「今のうちだ!このまま続けるぞ!!」


「うお!?危ねぇ!」


 なんと突然、イバラが重なりあった隙間をぬってルークがひょっこり顔を出し、そのすぐ横をバァンの斧が掠めた。


「バ、バカヤロウ、中から声を上げるか何かしてくれよ!」


 バァンが手で胸を押さえ、青ざめながら言った。そのまま、するするとイバラを掻き分けて外に出たルークも青ざめていた。

 トゲが刺さったせいで所々出血しているが、ルークは無事だった。


「ごめん、何か急に出られそうになってたから……」


 という事は、ルークは特に何もしていない。

 今は理由を考えていても仕方がないと、三人は再び枯れかけのデビルフランシアに向けて、武器を構えた。


 しかし、デビルフランシアは、ルークを忌々しそうに見つめるだけだ。もう攻撃する力は残っていないように見える。


「オ……マエ……」


 今にも消えそうな掠れた声で言う。

 ルークは全方位を警戒しながらデビルフランシアをじっと見つめた。





「オトメジャナイ……ナ……」


 そう言ってデビルフランシアは、桜が散るように消えていった。





 三人は武器を構えたまま、ぽかんと立ち尽くした。

 そして、デビルフランシアの死に際の言葉の意味を考えていた。


「あいつ、死んだのか?」


 バァンが周りをキョロキョロと警戒しながら言う。


「さっきの言葉……。

 ル、ルーク様は乙女じゃないって事ですの?」


 なぜかラティエが泣きそうな顔でルークを見る。


「え!?ま、まあそうなるかな……」


 ルークはラティエの涙にあたふたとしながら答えると、ラティエはワッと顔を手で覆って泣き出した。


「ルーク様はバァンさんとはお付き合いしていらっしゃらないのに……『そういう事』はされるんですのね!!最低!!」


 そう言って屋敷の中へ走って行った。


 意味が分からず、バァンとルークは呆気にとられ、ただラティエを見送った。

 ルークは、何か勘違いされている事だけは分かった。


「『そういう事』ってなんだよラティエ!?」


 それにしても、ほぼ不死身というデビルフランシアが突然枯れ果てたのは何故なのだろう?少なくとも、ルークを養分として取り込もうとした事がきっかけだった事は確かだ。


(俺が若い『娘』ではなかったからか?)


 疑問は残るが、自分が原因で植物が枯れてしまったので、いい気分はしない。

 複雑な思いを抱えながらルークは、ラティエの勘違いを訂正する為、バァンと共に屋敷の中へと走っていった。


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