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8.祖父の思い出

「ネムリ……サマタゲルモノ……」


 花の中心にある、緑色をした老婆の顔が、怨み言のように呟く。

 それと同時に無数の蔦を自由自在に伸ばしてきた。ルーク達が焼き切ったり、切り落としたりした蔦も、驚異的な成長力で元通りに再生していた。


「聞いてくれ、俺達は別に──」


 ルークが剣を拾いながら事情を説明しようとして、うっかり蔦を避け損ね、右足が捕まってしまった。そして、そのまま逆さまに吊り上げられた。

 下履きの短パンが丸見えだが、今はそんな事気にしていられない。


 バァンとラティエも沢山の蔦に邪魔され、ルークを助けにいく余裕がなかなかできない。

 お互いに背中合わせの陣形で、こちらに蔦が寄ってこないように、武器を振り回しているのが精一杯だ。


 ルークの顔に、だんだんと花の顔が近付いてくる。不揃いに重なりあった鋭い歯を剥き出し、今にもルークの頭に囓りつこうとする。

 ルークが反撃に、眉間に剣を突き立てようとしたその時、


「カ……ロ……ム……?」


 ルークは思わず剣をピタリと止めた。

 魔物が口にしたその言葉は、祖父の名前だった。


「じいちゃんを知っているのか!?」


 しかし、その問い掛けに答える事はなかった。


 さらに魔物は、ルークを祖父本人では無いと理解したようで、ルークの武器を封じようと再び無数の蔦を伸ばした。

 ルークはまとめて炎で焼いてしまおうと、まるでバケツに入った大量の水をぶちまけるようにして炎を放った。

 魔物全体が燃え上がり、ルークを捕らえていた蔦も燃え尽きて脱出できた。


 そして、それは魔物以外の植物達にも燃え移った。


「ルーク様、いけませんわ!屋敷が燃えてしまいます!」


 急いでラティエが上空に水の魔法を放ち、擬似的な大雨を降らせた。

 どうにか屋敷に燃え移るまでに消し止めた。


 屋敷の外観はレンガ造りだが、中の床材や家具、階段は木製。さらに、レンガの隙間には草花が生えている為、炎が燃え移ればあっという間に全焼してしまうだろう。

 そうなれば、本来の目的である魔女が溜め込んだ本の数々まで無事では済まない。むしろ、良い可燃材料になってしまう。


 それは絶対に避けなければならない。


 つまりルーク達は、魔物の最大の弱点であろう炎を封じて戦わなければならない。この驚異的な再生力の魔物の、更に上をいくダメージを、炎無しで超えなければならないのだ。


 最悪な事に、ラティエの放った水の魔法で魔物は元気を取り戻したようで、焼け焦げた部分がみるみると再生していった。


「おい!敵を回復させてどうすんだ!」


「ラティエもついに回復魔法が使えましたわね!」


 バァンの叱責を、ラティエは笑って誤魔化した。


 その時ルークは、必死になって昔に聞いた祖父の話を思い出そうとしていた。


 相手が祖父を知っているなら、祖父も向こうを知っているはずである。

 そうなると、修行時代の話をするのが大好きだった祖父が、ルークに話しているはずである。

 この魔物を倒すヒントがそこにあるはずだ、とルークは考えた。


 しかし、魔物の攻撃を避けながら考え事をするのは困難を極めた。


「くそ、ある程度大きくなってからは、じいちゃんの話はちょっと聞き流してたからな……」


 ルークは心の中で祖父に謝った。


 すると、バァンが花に繋がる蔓を根本から切ってしまってはどうかと提案してきた。

 そこの蔦のみ、一本だけでも太い蔓が縄のように絡み合っていて、一太刀で簡単に切れるとは到底思えない部分だが、何やら重要そうであるというのは分かった。


 植物の魔物は蔦を複数絡ませ、一つのドリルのようにすると、目にも止まらぬスピードでルークの胸を貫こうと伸ばしてきた。

 走って軸をずらすが、ホーミングミサイルのように追いかけてくる。


 魔物がルークに気を取られているその隙に、バァンが本体に繋がる木の幹のように太い蔦に飛び乗った。


「ラティエ、ルークを頼んだぜ!」


「バァンさんもお気を付けくださいな!」


 バァンは少しでも伐りやすそうな部分を探して、根本へ向かって走っていった。

 蔦は上へと伸びていた為、バァンは必死でよじ登る。

 そして、良さそうな部分が見付からないまま、とうとう最終地点までたどり着いてしまった。

 その様子を見て驚いた。


「な、何だあ、こりゃあ!?」













 てっきり根っこへと繋がると思っていたそれは、裏庭を取り囲む岩壁の、隙間から覗く巨大な枯れ木と融合するように生えていた。


「掘り返す事も考えてたが……。こりゃ無理そうだな……。一体何なんだこいつは?」


 バァンは戸惑った。このような生態の魔物は聞いたことがなかった。

 しかも、植物系の魔物は大抵が弱い為、こんなに苦戦するのは予想外だった。


「ルーク、ラティエ!ダメだ!

こいつ、でっかい木と融合しちまってる!!」


 下の方でアリが動いているようにしか見えない二人に向かって、バァンは叫んだ。

 ルークはバァンの『木と融合』という言葉で、幼い頃にした祖父とのやり取りが、鮮やかに蘇ってきた。


「こいつ、多分──」












「ルーク、寄生植物というのを知っているか?」


「何それー?」


積み木で遊ぶルークに、不意に祖父が話し掛けてきた。


「他の植物と融合して、その栄養をもらって生きる植物じゃ」


「えー、なんか恐いー。このお話終わりね?」


ルークが嫌そうに言う。


「確かにそうじゃなー、でもじいちゃんが戦った『デビルフランシア』はとても綺麗じゃったよ」


「ホントに?じいちゃん教えて!」


キラキラした眼差しを向けるルーク、祖父は目を細める。


「いいぞー、じいちゃんが教えてやろう。『デビルフランシア』とは、木と融合しててな──」


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