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7.魔女のお屋敷

 隠し通路の先は、獣道程度の通路が作られており、スムーズに奥へと進む事ができた。

 三人はぐんぐんと上り坂の一本道を進む。最深部は開けており、奥に月明かりに照らされた、古びた大きな家があった。


 レンガ造りの二階建ての屋敷だ。モースの町のバァンの家よりは規模が小さい。

 レンガはひび割れ、繋ぎ目の隙間から草花が顔を出している。

 当たり前だが中は暗く、所々窓ガラスにヒビが入っている。


 何年も手入れされていない様子だが、アクストゥアの古城とは違い、月明かりと、レンガの隙間や、周辺に無造作に生えた草花のお陰で、廃墟ながら穏やかな雰囲気だ。


「綺麗な所ですわね……」


「それに結局、魔物にはほとんど出くわさなかったし、助かったぜ」


 ルークが頷いてペンダントを見ると、不思議な事に、役目を終えたかのようにその青い輝きを無くしていた。


「じいちゃんが守ってくれたのか……?」


 正面のドアから中に入ると、目の前にはカウンターと商品棚のようなものが目に入った。

 どうやら魔法薬店を営んでいたようだ。棚には、長年放置されて固形物になった薬液の瓶が雑多に置かれ、床には棚から落ちて割れた瓶の破片が散乱していたが、人に荒らされた雰囲気は無かった。


 こんな隠し通路の先の薬局に誰がくるのかと疑問だが、当時は知る人ぞ知る隠れ家的スポットとして要人達が贔屓にしていたのだろう。家の内装からそれがうかがい知れた。


 カウンターの奥には、居住スペースへと続く通路があった。

 通路には二階へ続く階段、奥の手前には弟子用と思われる部屋が一つ、奥の突き当たりにはキッチンとダイニング。そのキッチンの更に奥には裏庭へ続くドアがあった。


 まず三人は弟子用の部屋に入ってみた。一人用の朽ちかけのベッドと、タンスと道具箱、本棚など最低限の物が置かれていた。

 日当たりは良いようで、特に日がよく当たる所は日焼けしていたり、色褪せてしまっていた。

 部屋は足跡ができるほどの埃が積もっており、動く度に舞い上がった。三人は思わず鼻と口を手で塞いだ。


「その偉大な魔女ってよ、ルークのじいさんの他にも弟子はいたのか?」


「いや、じいちゃんの話だと、じいちゃんが最初で最後の弟子だったらしい。

 このペンダントのお守りをくれた人も、魔女の弟子という訳ではなかったそうなんだ」


「それでは、ここはルーク様のお祖父様のお部屋ですわね」


 三人は手分けして部屋を物色してみたが、それらしい手がかりは無かった。

 だが、祖父が去った後そのままの状態で残していたようで、屋敷を出る時に持ちきれなかった服などがそのまま残されていた。


「じいちゃん……、面白い話をたくさんしてくれた人だったなぁ」


 ルークは遺品となった部屋の物を見てしみじみと、亡くなった祖父との思い出を振り返った。

 ルークの祖父は、魔女との修行中にあった出来事を、武勇伝のようにルークに聞かせていた。

 特に好きだったのは竜族の里に行った話と、魔界で魔族と戦った話。


 バァンとラティエは信じられないと言った顔をしていたので、


「じいちゃんの作り話だって!」


 と笑って言った。

 実質、ルークの祖父も以前のルークと同じように魔法は使えず、武器の扱いも絶望的に下手くそだった。

 そんな祖父に武勇伝など、到底信じられる事ではない。定期的に同じ話を何度も繰り返す為、ルークは成長するにつれて聞き流すようになっていた。


 三人は、屋敷の一階をまず全て見て回ろうということで、次は奥のダイニングキッチンへ向かった。

 広々とした空間の真ん中に大きなテーブルと椅子が四対。


 壁に沿うように設置されている広くて古めかしいキッチンには、食器類やら色々なキッチン道具が散らばっていてごちゃごちゃだ。どことなくここはまだ生活感があった。


「ずいぶん散らかってるなあ……」


「使用人とかはいらっしゃらなかったのでしょうか?」


「じいちゃんが屋敷を出るまでは、じいちゃんが家事をやらされてたらしい」


 この場所は日用品の他には何も無さそうだ。

 三人は、キッチンの隣の勝手口から裏庭へ行ってみることにした。


 庭は様々な植物が自由自在に伸び放題で、ジャングルのようになっていた。

 庭の中央は拓けていて、石碑のようなものがポツンとあった。

 月明かりがスポットライトのように石碑を照らしていて、とても幻想的だ。


 石碑には文字が書いてある。


 ──偉大な魔法使いにして私の師匠、ここに眠る──


 大きく書かれたその文字の下には、師匠への感謝の言葉が綴られていた。


「……じいちゃんが弔ったのか」


 三人は手を合わせて魔女の冥福を祈った。





 その時、ラティエがふと自分の足に、植物の蔓が絡み付いている事に気が付いた。


「バァンさん?ラティエにこんな下らないイタズラするのはお止めくださいな」


 蔦を振りほどきながら嫌味っぽく言った。


「?なんの事だ?」


 バァンがきょとんとして答えた。

 バァンのリアクションで、演技では無いと判断したラティエは首をかしげた。


 それと同時に、シュルシュルと何かを引き摺る音がした。


「デ、デカイ蛇とかいるのかな……」


 ルークが不安そうに呟いた。


 その瞬間、地面から無数の蔓が触手のように伸びてきて、三人の手足をあっという間に縛り上げた。


 ルークとラティエは、咄嗟に炎の魔法で蔦を焼き切って脱出したが、バァンは魔法が苦手な為に対応が遅れた。

 そのまま高く持ち上げられ、宙吊りになってしまった。


「バァン!今いく!」


 ルークが魔法で跳躍力を強化してバァンへ近付く。蔦を切ろうと剣を抜いた。

 それを阻止しようと無数の蔦がルークへ迫っていた。


「ルーク様に手出しはさせませんわ!」


 その蔦をラティエが、ハルバードを振り回して次々と切り落とした。

 しかし、一つ取り逃がしてしまい、ルークを剣を持つ右に絡み付き、腕を折らんばかりに締め上げてきた。

 あまりの力にルークはうっかり剣を落としてしまったが、代わりにバァンに絡み付く蔦を狙って炎の魔法を放った。

 が、火力の加減ができずにかなり強く燃やしてしまった。


 バァンが少し燃えながらラティエの目の前に落ちてきた。


「アチチチチ……、ルーク助かったぜ!」


「バァンさんて、とっても丈夫ですわね……」


流石王から賜った鎧。ルークの魔法で傷一つ付いていない。


 炎が効いているお陰か、ルークも腕を縛る蔦の力が弱まり、どうにか脱出できた。

 そしてまた、シュルシュルと這いずる音が聞こえた。

 すると、蔓の先に巨大な赤黒い蕾が付いた植物が上の方からゆっくりと降りてきた。

 それと同時に炎の勢いも弱まってきた。


 炎が完全に消えてしまうと、今度はゆっくりと蕾が開いた。

 ハイビスカスの様な花びら。その中心には人の様な顔が付いていた。


 植物の魔物だ。


「アラスモノ……ユルサヌ……」

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