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1.バァンの思惑

 二人は明日の朝一番に、関所付近にあるモースという町へ向けて出発する事になった。バァンの父親に会うためだ。

 宿での作戦会議中、ルークはバァンの話を色々と聞かせてもらった。


 バァンはモースの町で生まれ育った。

 両親と兄が一人いたが、10年前の戦争で兄が行方不明になってしまったらしい。

 バァンの両親は、今まで兄ばかりを優遇し、バァンを蔑ろにしていたそうだが、兄がいなくなってからは、途端にバァンに優しくなったとの事。

 バァン曰く、商売の後継ぎの為らしい。


 そして、立派な商人にするべく、バァンに英才教育をし始めた。

 商売の勉強の他にも、フィグゼーヌ王国との取引の為に、家庭教師を付けて魔法を徹底的に学んだ。


 本人が言うには、勉強が苦手な上にやる気も無かった為、何も頭に残っていないそうだ。


 バァンの魔力耐性が高かったのは、恐らくこの時の英才教育のお陰だろう。


 ルーク達がいるアクストゥア養成学校へも、元々は魔法使い科で入学を進めていたが、バァンは両親へ反抗するため、直前になって戦士科へ変更したそうだ。


「そしたら、それが意外と俺に合っててよ!

 親父やおふくろからは、ぶちギレの手紙が定期的に届いてるけどな!」


 バァンはゲラゲラと笑った。

 そしてふと、悲しそうな顔で呟いた。


「あんな奴ら、家族でも何でも無ぇ……。都合の良い時だけ家族のつもりになりやがって……。

 だから俺は、ルークを見て安心したかったんだろうな……。『こいつよりマシだ』って。

 今思うと、何を馬鹿な事してんだって思うぜ。本当にだせぇよな……」


「バァン……」


「ま、今日はもう寝ようぜ。

 明日は王様が、馬車を出してくれるって言うしよ、寝坊ができねぇぜ!」


 そう言ってベッドに潜り込んだので、ルークは静かに自分の部屋に戻っていった。










 次の朝、二人はお城からの使者に、激しいドアノックで起こされた。

 寝ぼけ眼で対応すると、特注の服と鎧を渡された。所々に綺麗な石が散りばめられた、白い鎧。


 これも魔法に強い素材らしく、王様からのプレゼントだそうだが、ルークの下の服はやはりスカートだった。

 なんでサイズを知っているんだ、と戦慄したが、そういえば城に入る時に、ボディチェックと言って色々測られていたのを思い出した。


 フィグゼーヌとの国交への配慮からか、アクストゥア国の紋章は入っていなかった。

 二人は、卒業後には脇目を振らずに絶対お城へいかなくては、と少しプレッシャーを感じた。


 武器も鎧も、装備が全て新しくなり、心機一転で馬車に乗り込んだ。


 馬車に揺られながらルークは、バァンに申し訳なさを感じていた。

 今まで避けていた家族と、会わなければならない状況になってしまったからだ。


 ルークは不意にバァンに謝った。

 バァンは訳が分からず、不思議そうな顔をしていたので、理由を話した。


「気にするこたぁねぇよ。

 いずれ決着しなきゃならねぇ事だしよ。


 それに、近衛兵に内定貰ったって言ったら、案外喜んでくれるかもしれねぇぜ!」


 バァンが明るく答えた。


 そうこうしている内に、モースの町が見えてきた。

 王都程ではないが、賑やかで少しごちゃ付いている。

 入り口で馬車を降りると、御者にお礼を言い、そのままバァンの家に向かって歩きだした。


 道は人混みでいっぱいで、まるで何か祭りでもあるかのような賑わいだ。

 バァンは緊張しているのか、無言で先へ先へと進んでいく。

 バァンの体格のお陰で、見失う事は無いがルーク自身が埋もれてしまうため、着いていくのに一苦労だった。


 しばらく歩いていると、広い庭がある大きな三階建ての屋敷が目に入った。


 庭では、執事っぽい白髪の男が、庭師と思われる男と何やら話し込んでいるのが見えた。

 執事を初めて見た、とルークが物珍しく見ていると、不意にその男がこちらを向き、駆け寄ってきた。

 あまりにも見つめすぎたかな、とルークは咄嗟に目を反らすと、


「お坊っちゃま、お帰りなさいませ」


 驚いて執事の男を見ると、バァンへ深々とお辞儀をしていた。

 サッとバァンに目をやると、バァンも執事の男を見つめているではないか。

 この大きな屋敷がバァンの自宅らしい。


『商人』という言葉から、村の道具屋の親父さんに近い姿を想像していたルークは、あまりにも想像と違ったバァンの家に、口をあんぐりさせるしかなかった。


「お坊っちゃま、事前に言ってくだされば、おもてなしのご準備ができましたものを……。

 そちらのお嬢様は、今度の新しい交際相手でしょうか?」


 そう言われて、ルークは知らない内にバァンの腕にがっちりと、自分の腕を絡ませていた事に気付いた。

 鎧のせいで感覚が無かった為、人混みで見失わないように何かに捕まったつもりだったのだろう。

 慌てて二人は離れた。


「残念ながら違う。リチャード、親父に会わせてくれ」


 執事の男リチャードは、すぐに屋敷の中にルークとバァンを招き入れた。


「ルーク、ここは俺に任せてくれ。お前は喋らなくていい」


 大きな玄関へ向かって庭を歩いていると、こちらに目を向けること無くバァンに囁かれた。

 訳が分からず、ルークは戸惑いつつもとりあえず頷いた。


 庭師の男が伝えたのだろう。中へ入るや否や、二階へ続く横広の大きな階段から、きらびやかなドレスを着た、背の高い細身の女性が、ヒールの音を響かせながらゆっくりと降りてきた。

 歳は背筋の伸びや立ち振舞い等から、40歳程だろうか?眉間の深いシワと垂れ下がった口元のせいで、一見すると老婆のようにも見える。


 女性はジッとこちらを睨み付けている。

 その目は、バァンがルークを威圧している時の目付きそっくりだった。

 ルークの心臓がドクンとなり、思わずよろけた為、それをバァンが優しく支えた。


「……おふくろ」


 女性の目元がピクンと動いた。

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