7. 英雄の帰還
「こんのおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
そんなに食いたいなら食らわせてやる、と言わんばかりに、残りの魔力を全て注ぎ、炎の魔法を最大出力で放った。
火柱が立ち上る。まるでメガウスが火を吹いているようだ。
火柱はハンドレッドが空けた天井から飛び出し、辺り一面を熱気に包んだ。
しばらくして火柱がおさまると、ルークが持っていたロングソードは、グリップを残して焼け熔けてしまっていた。
肝心のメガウスは、足首から先だけを残して完全に焼失しており、その焼け残っていたメガウスの足も、やがて黒い粉塵となって消えてしまった。
するとなんだか霧が晴れたように、空気が澄んで辺りが明るくなったような気がした。
その時、ガシャンッ!!とどこかで大きな音がした。
「外した!?
くそ!ハンドレッドめ、どこ行きやがった!?」
音の方を見ると、バァンがハンドレッドを探してキョロキョロとしていた。
ルークは込み上げるものを抑えて、バァンに駆け寄った。
「バァン!動けるようになったんだな!」
「ああ、ルー……おわぁぁぁぁ!?」
バァンはルークから目を反らし、そのまま距離を取った。
何事かと自身を見ると、なんと知らないうちに全裸になってしまっていた。
先程の炎の魔法で、服まで全て焼けてしまったらしかった。
「うわぁぁぁぁ!?」
ルークもビックリして座り込んだ。
バァンはルークを出来るだけ見ないようにしながら道具袋を手渡した。
そして、校長に言われて購入していた着替えを取り出した。
「バァンに荷物を持っていてもらっててよかった……」
着替えを終え、回復魔法で左腕を治しながらルークは呟いた。
「じゃあルーク、帰るか!」
「ああ、早くばあちゃんに会いたいしな!」
薬草やら回復魔法で一通りの手当てが終わると、二人は先にヘルト村へ向かって歩きだした。
相変わらず山の道は悪路だが、二人の足取りは軽い。山の魔物が大人しくなったのもあって、昼前頃にはヘルト村に帰ってくる事ができた。
心なしか、呪いが蔓延していた時より活気に溢れているように感じた。
ルークは自宅へ向かって駆け出した。
そして、勢いよく玄関のドアを開けた。
「ばあちゃん!!」
「騒がしいねルーク、もっと静かに開けないと壊れちまうだろ」
そこには、落ち着いた色のローブを着ている腰の曲がった、いかにも『魔女』と呼ぶにふさわしい老婆がいた。彼女がルークの祖母メディナである。
メディナは、昼食の用意をしている最中だった。ルークは駆け寄り、思い切りメディナに抱き付いた。
バァンは思わず目頭が熱くなった。
「なんだい、突然帰ってきたと思ったら?」
「ばあちゃん、俺の事何とも思わない!?」
「おかしな事を言う子だね、ルークはルークだろう?」
実はメディナは、加齢のせいで目がよく見えていない。
今までの経験と、魔法の力で周囲の気配を感じ取って日々の生活をこなしている。
だから、どんな姿になっていたとしても、ルークの事は分かるのだろう。
三人でメディナが作った昼食を食べながら、ルークはこれまでの事をメディナに説明した。
「──だからばあちゃん、レイヤカースの物語の続きを知ってたら教えてほしいんだ。どんな事でもいいんだ」
メディナはうつ向いて少し考えた後、ゆっくり口を開いた。
「すまないが、あたしはルークが知ってる話しかわからないね。
でも……あの人なら何か持っているかもね」
「それは誰?」
「カロムの……、死んだじいさんのお師匠様だよ」
聞くと、祖父の師匠、偉大な魔法使いとされるその魔女は、魔法の研究の為、あらゆる書物を自身の屋敷の地下室に溜め込んでいるとの事だった。
こことは国が違う為、物語の内容もこことは違うものが残っている可能性が高いだろう。
「じゃあその人に会って話を聞けば……」
「馬鹿だね、じいさんが若い時に師匠だった人だよ?幾つになると思ってんだい。
あんたの父親、アレクが産まれた時に死んじまったよ。
何せ、アレクが産まれた報告をした次の日に亡くなったんだから、よく覚えてるさ……」
メディナはそう言うと、悲しそうに遠くを見た。昔を思い出しているのだろう。
ルークはどうしようかと考えていた。
「だがルーク、希望を捨てちゃいけないよ。
あの人の屋敷はまだ残っているだろう。
何せ山の中の隠された所にあるんだからね。実際に行って探してくるんだ。
城の魔物を倒せた今のルークなら、きっと大丈夫だ」
「ばあちゃんありがとう、その屋敷ってどこにあるの?」
「西のフィグゼーヌ王国さ」
その時、いきなりバァンがお茶をブッと吹き出し、むせてしまった。
ルークが、バァンの背中をとんとん叩きながら心配している。
「ゲホ…!!す、すまねぇ、何でもないぜ」
「……なんだい、突然。まあいい。
ルーク、屋敷は王国の中心であるフィグゼーヌ城に向かい合うようにある山の中だ。
魔物も出るし、道も入り組んでいるから普通の人間は絶対に入っていかない。
知らないと絶対に辿り着けないような所にあるから、一緒に行って案内してやりたいが、あたしはもう歳を取りすぎている。
だから、これを渡しておこう」
そう言って、首から下げていた大きな青い宝石が印象的なペンダントを外して、ルークに渡した。
それは、祖父が友人から譲り受けたという御守りだった。
祖父が亡くなってからは、メディナが大切にしていたものだった。
「ばあちゃん……、いいの?
じいちゃんの形見だよ?」
「いいよ、形見は他にもあるんだ。気にせず持っていきな。
それに、それが屋敷まで導いてくれるだろうからね。
そうだ、フィグゼーヌ王国へは関所を通らないといけないから、忘れずにアクストゥア城で許可証をもらってから行くんだよ」
ルークはお礼を言い、メディナに旅の無事を祈って貰うと、旅支度を整えバァンと共に外に出た。
すると、玄関のドアを開ける音に気がついたテオとイルマが外に飛び出してきた。




