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5.呪いの根源

「もう出し惜しみはしねぇ、全力だ。

 しんどいから本当はやりたくなかったんだけどなぁ!!」


 ハンドレッドはそう言って全身の目をカッと見開くと、一斉にルークを見つめた。


ルークは咄嗟に目を閉じる。


「アハハハハハ!無駄だ!これは見られただけでアウトだ!

『吸魂の邪眼』で、お前の魔力と体力、全て吸ってやる!

死体が残らず消えちまうから、あいつがうるせぇが、もうそんな事ぁどうでもいい!!こいつでチェックメイトだ!」


「思い通りにはさせない!」


ルークは撹乱させるため、ハンドレッドの周りを滅茶苦茶に走り回った。

しかし、何処にいてもハンドレッドのどこかと目が合ってしまう。


技を止めようと斬りかかっても、戦闘慣れしたバァンさえ攻撃を当てられなかったのだ。ルークの攻撃は軽く避けられてしまう。


ルークの息が切れてきた。


「くそ、体力が……」


しかし、何故だかハンドレッドは不思議そうな顔をしている。


「あん?なかなか邪眼が効いてこねぇな……」


ハンドレッドが焦っていると、


「ううん……」


バァンの意識が戻った。頭を押さえながら上体を起こす。


 ハンドレッドの全身の目がニヤリと笑う。

直ぐ様ターゲットをバァンに切り替えた。


「うぐ!?」


バァンがその場で苦しみだした。身体から湯気のようなものが立ち上る。


「なんだよ、やっぱりちゃんと発動してるじゃねぇかよ。何だったんだ?」


「止めろぉ!!」


 ルークは、叫びながらめちゃくちゃに剣を振り回してハンドレッドへ向かって行った。

先程の『死体が残らず消える』という台詞から、このままだとバァンが死ぬ上に消えてしまうと容易に判断できた。


「早く……早く何とかしないとバァンが!」


 しかし、焦ったルークの太刀筋は、尚更ハンドレッドの身体には当たらない。

泣きそうになりながら、滅茶苦茶に剣を振り回す。


剣を指で受け止めると、ハンドレッドはルークをじっと見つめる。

ルークは振り払おうと剣を押したり引いたりするが、ものすごい力でピクリともしない。


「く、くそ!離せ!離せよお!!」


「やっぱり、お前には邪眼が効かねぇ……。お、お前まさか、飲んでいるのか!?」


「な、何の事だ?」


「とぼけるな!!マルディシオンだよ!!」


 ルークが肯定すると、ハンドレッドは眼に見えて狼狽えだした。

どうやら、マルディシオンを飲んだ者は何故だか邪眼にかからなくなるらしい。

先程ルークの息が切れたのは、ただ単に走り回ったからだった。


「クソが!!しかもなんでこいつは、魔物になんねえで人間のままなんだ!?マルディシオン飲んだら、あたしらの仲間になるんじゃねぇのかよ、あのウソつき!!

あーもう!!わっかんねぇ!!」


「うおぉぉぉぉぉ!!」


 ハンドレッドが髪を振り乱しながら頭を抱えていると、そこへバァンが首へ向かって斧を振り下ろした。

 が、間一髪狙いは外れ、肩に命中。そこから背中へ向かって切り付けた。

 真っ赤な血が噴水のように吹き出した。


「バァン!?どうして!?」


 ルークが驚いた顔で尋ねた。


「ああ、よくわかんねぇが、もう動けるようになったぜ!」


 バァンが肩をぐるぐると回しながら言った。

 それを見て、ハンドレッドがさらにヒステリックになった。


「ああぁぁぁぁぁ!!もう滅茶苦茶だ!!

 一個気になる事があるとそっちに気が行っちまう!!もうヤバいってのに!!」


 そう言って地団駄を踏んだ。


 ここからが反撃のチャンスだ、とルーク達が思った途端、どこからか野太い声が聞こえてきた。


「はん………どれっどぉ………」


 その瞬間、ハンドレッドの顔が青ざめた。

 

 その時だった。

ズンと建物が大きく揺れ、天井からパラパラと埃が落ちてくる。

次の瞬間、ハンドレッドの奥の壁に真っ暗な空間が表れた。


 そしてまた、城全体がズン、ズンと一定のリズムで揺れ始めた。地響きの震源地が段々とこちらへ近付いてきているようだ。


 ハンドレッドは、その暗闇を真っ直ぐ見つめてただ震えてばかりだ。


 ゆっくり、段々とその震源地の全体が見えてきた。


 それは、三階建てのビル程の大きさの、首が見えない程に醜く太った裸の男のような姿をしたものだった。

 肌は紫色。そして、ハンドレッドに対を成すかのように、それには至るところに人間の口が付いていた。

 顔に当たる部分には目が無く、大きく裂けた口と分厚い唇から、鋭く尖った黄ばんだ歯を覗かせていた。

 完全にそれが暗闇から出てくると、スッとその空間は消えてしまった。


 はあーとそれがため息を吐くと、全身の口から黒い霧のようなものが吐き出された。まるで、寒い日に白い息を吐くように。

 この場の空気が一気に淀んだ感じがした。


「メ、メガウス様……」


 ハンドレッドはその場に跪いた。


「す、すぐに片付けますので……その、今はお戻りくださ……」


「ううー……」


 メガウスは唸り声をあげた。ハンドレッドの身体がビクンと反応する。


「んど……れっど……あれ、食べた……い。 早く……」


 メガウスがたどたどしく言うと、ハンドレッドはルークとバァンを全身の目で嫌そうに見た。

『あれ』とは十中八九、ルークとバァンの事だろう。


「……あいつだ」


 ルークが剣を構えて呟いた。


「あいつだ、バァン。あのでかい方が原因だったんだ!ばあちゃんや、王都の人達が動かなくなったの!!」


「御名答だ」


ハンドレッドが言う。

王都や祖母メディナの呪いの原因はハンドレッドではなく、メガウスが全身の口から吐き出す魔力のせいだったのである。

 今まで、矢面に立っていたハンドレッドに殺されたり、命からがら逃げ帰ったり等で、ずっとハンドレッドが原因だと思われていただけであった。


 その根源を引きずりだした。ここからが本当の勝負だ。


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