表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/76

2.呪いと古城の魔物

 流行り病の中心地だけあって、王都の周辺は症状が出てしまっている人達が至るところにいた。城下町が近付くにつれ、それは増えてきていた。

 そういうアートだと言われたら信じてしまいそうである。


 中に入ると、国の中心地だとは思えない程の、閑散とした街並みが広がっていた。

 病により亡くなった人が、弔われず放置されているのか、独特の腐臭が漂っていた。

 何か手がかりを探す為、ルークとバァンは、たまにえずきながらも辺りを探索する事にした。


 ルークは滅多に来る事が無い王都に、歩きながらも思わず辺りをキョロキョロと見回していた。

 そして、何かに勢いよく肩をぶつけてしまった。


「あ、すいませ……」


 見ると、それは流行り病で動けなくなっている城の兵士であった。

 ルークが哀れんでいると、バァンが何かを思い付いた。


「ルーク、今なら城に入れるんじゃねぇか?」


「バァン!?まさか何か盗んだりとか……」


「バカ野郎!ちげーよ!

 こういう事は、王様とか偉い人に聞くのが手っ取り早いだろ」


 ルークは、妙に説得力のあるその言葉にすぐに納得した。

 そして、城下町の奥に威圧的にそびえ建つアクストゥア城へと向かった。


 思った通り、警備は手薄だった。

 あまりにも手薄なので、二人は正面から堂々と入る事ができた。


 中はしんと静まり返っており、病の症状で動けなくなっている人の様子も相まって、まるで時が止まった空間に、自分達だけが動けているような感覚だった。


「なあバァン、王様まで発症してたらどうするんだ?」


 辺りを見回しながらルークが言うと、バァンがしまったという顔をして言った。


「すまねぇ、そこまで考えてなかったぜ……」


 ルークが呆れていると、奥の方からボソボソと話し声が聞こえてきた。


「動ける人がまだいるみたいだ」


 二人は声のする方へそっと近付いた。




 すると、謁見の間だと思われる部屋が見えてきた。

 大きな両開きの扉は開け放されており、中央の玉座には、ロマンスグレーの髪と髭をたくわえたアクストゥアの王が、大きな背もたれに体重を預けるように座っている。そして、そのすぐ横で大臣と思われる背の低い小太りの男が何やら必死で王に語りかけていた。


「──なのです。陛下、聞いておられますか?」


「ああ……。ん?」


 王と大臣がルーク達に気付くと、大臣の男がのしのしと偉そうに、こちらに近付いた。


「なんだ君らは!?その制服は、アクストゥア養成学校の生徒か?

 ここは学生カップルが来るような所じゃない!帰った帰った!」


 シッシッと野良猫でも追い払うかようにしながら大臣が言う。


「カップルじゃないです!俺達は流行り病の事を調べに来たんです!」


 ルークが大臣の威圧に負けまいと、大きな声で返事をした。


「俺……?最近の女生徒はなんて口調が乱暴なのだ。学校の教育はどうなっている?」


「今はそんな事関係無ぇだろ!いいから何か知ってる事があるなら教えやがれ!

 俺達は、こいつのばあさんの流行り病を治しに来たんだよ!」


 バァンが大臣に掴みかからんばかりに詰め寄った。「最近の学生は……」と何やらゴニョゴニョ言っている。


「『流行り病』……だと?何の事だ?」


 王がキョトンとした顔で尋ねる。ルークは故郷のヘルト村での事を話した。


「それは流行り病ではない。人々が動かないのは、呪いのせいだ」


 ルークとバァンをじっと見据えて王は答える。

『呪い』という言葉に、ルークとバァンは驚いた。





 なんでも3ヶ月程前から、近くの山の山頂付近にある古城に、女の姿の魔物が住み着きだしたという。

 その魔物が放つ異様な魔力が、王都を直撃。

 魔力抵抗力の無い者から、順番に動かなくなっているらしい。

 そしてここ最近になって、ルークの故郷ヘルト村にも影響が出始めたというのだ。

 ルーク達の学校は、校長の結界でどうにか防げているとの事。


 アクストゥア側も対策として、討伐隊を結成したり、腕利きの傭兵を向かわせたが、いつまで経っても戻って来ないそうだ。


「陛下、ただの学生相手にそんな機密事項を言ってしまわれては……」


 大臣が王に駆け寄り、周りに聞こえる程のひそひそ声で言った。


「まあいいではないか。

 それに、何故かは分からないが、そこの娘にはただならぬ雰囲気を感じるのだよ」


 王はロマンスグレーのダックテール髭を、手で撫でながら言った。


「3ヶ月前って、ルークが『もはや塩』とかいう薬の話を魔物のババアから聞いたあたりだよな?」


「もしかして『マルディシオン』の事!?何がどうしたらそうなるんだ!?」


「『マルディシオン』だと!?そなた達の様な学生がどうしてそれを!?」


 そのまま話が進むのか、と思いつつルークはこれまでの経緯を話した。

 もちろん、自分が元々は男である事も。


「なんと……。普通ならば信じられない話だ」


「陛下、娘の話が本物なら、この者達に魔物討伐に向かわせてはどうでしょう」


「ふむ……、未来ある子どもにこのような危険な事を頼むのは気が引けるが……。

 他に適任者がいるわけでなし、すまないが頼まれてはくれないだろうか?」


 王はルークとバァンに向かって頭を下げる。二人は、当然のように快諾した。


「ありがとう。ありがとう。

 必要であれば、城の兵舎で装備を整えるといいだろう。好きな物を持っていきなさい」


 ルークとバァンはお互いに装備を見合わせた。

 バァンは学校支給の、極限まで安全に配慮されたなまくらの斧。ルークに至っては、これまでの癖で木の棒を携えている始末。

 そこら辺のスライムを相手にするなら充分だろうが、多くの人間に影響が出る程の魔力を放つ相手と渡り合えるとは思えない。

 二人はありがたく装備品を貰い受ける事にした。





 兵舎には剣、槍、斧等、色々な種類の武器が木でできたスタンドに立て掛けられていた。どれも手入れが行き届いた本物である。

 二人は感動で目が輝く。


 ルークは色々と目移りしていたが、まずまさかりのように大きなバトルアックスを手に取った。


「バァン、これそんな強い武器なのか?

 軽すぎるけど、まさかオモチャとかじゃないよな?」


 ルークがダンベルのように片手で上げ下げしながら不安気に言った。

 同じものを手にした瞬間、バァンは驚愕した。


「な、何言ってやがんだ……?

 普通にめちゃくちゃ重てぇじゃねえか……」


 ルークはしばらくキョトンとしていたが、程なくして自分の力の変化に末恐ろしさを感じた。

 以前の自分では絶対に、持つ事すらできなかっただろう。だが、この力をもってすればどうにかなりそうだ。ルークはそう意味もなく確信した。


 結局、ルークはロングソードを、バァンはバトルアックスを選んだ。

 そして回復薬等を、持てる限り支給してもらい、山頂付近の古城へ向けて出発した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ