第12話 憲央と淳平
「ま、ストライキ云々は、侵攻が始まったあとの話だ。飛鳥は、そんな選択もできるんだってこと、頭の片隅にでも置いておけばいい。」
淳平は、僕にデコピンしながら、そんな風に言った。
「とりあえずは、今日のことだな。当然飛鳥ちゃんは、本日の参加予定者は知らないよねぇ。」
額を押さえてうずくまる僕の、一つにくくった髪を引っ張って、顔を覗き込んだ淳平。そんなこと、僕が知ってるはずないだろうが。
「飛鳥、今堂々と知ってるはずないなんて思ってますが、今回ばかりはうまくないですよ。自分を取り巻く環境をきちんと把握した方がいい。」
そこにさとりの化け物が、口を挟んだ。
「おっ、さすがノリちゃん。現況分かってるって認識でいいかい?」
「ええ。その結果、ここにいますから、淳さん。」
「だったら、こいつ、ちょっと頼むわ。一応、蓮華にも現況報告しないとな。」
「お任せください。」
何やら面倒な同盟でもできたのか、二人、サクサク話を進めているが、こっちは置いてけぼりだ。ここの結託はあんまり嬉しくない、そんな風に思ってたら、いつの間にか、淳平からシートを渡された憲央が、しゃがんだままだった僕の腕を引っ張って立たせ、ソファーに連れていく。
シート。タブレットの進化版で、ペライチの紙状モニターだ。タッチパネル式で情報閲覧に特化したPC。あえてネットやブルートゥースといった電波での接続を省くことで、セキュリティを強化。起動には、まずメインの管理者を生体認証にて登録。管理者より閲覧可能者、編集可能者が設定される。情報の入力は直接の書込み他、マイクロコードと呼ばれる、バーコードやQRコードの進化版を使う。USBがコードになった、そう思えばいい。
ソファー中央に座らされた僕の両隣には、憲央と善が陣取った。そうして、憲央にシートを渡される。
見ろ、ということか。どうせ淳平のことだ。勝手に僕の生体認証を組み込んでるんだろう。僕は、シートに触れて、起動させた。
その様子を見て、満足そうにすると、淳平は、
「じゃあとりあえず、飛鳥ちゃんにその内容、叩き込んでおいて。いやー、飛鳥ちゃん、任せられるの、マジ助かるわ〜。」
そう言いながら、手をヒラヒラ振りながら、淳平は出て行った。
起動したシートに出てきたのは、人物の写真と、その説明だった。僕はスライドさせて、次々と流し読む。なんとなく見たことのある顔が半分ぐらいか。両隣の二人もあった。
「なるほど。よく出来てる。優秀という噂は、正解だったみたいですね。しかし飛鳥。君は何と言うか、本当にものを知らないみたいですねえ。顔を見たことがある、ってだけで、ほとんど把握してないじゃないですか。」
ため息をわざわざ僕に見せるけど、興味ないことにそんな労力、使ってられるか。淳平と違って、僕はそんなに頭は良くないんだ。
「飛鳥は頭が良くないんじゃなくて、使おうとしてないだけです。つまりはサボり。大体、頭、悪かったら、難関中学に入ってませんよね。当時でも、君が通ってた中学は、日本指折りの学校だって知ってますからね。そこの中でも、成績良かったでしょ?全部把握してますよ。」
何十年前の話だ。しかし、成績まで把握されてたのかよ。今更だけどプライバシーもへったくれもないな。
「何十年前のデータだろうが、飛鳥の脳みそは、18歳なりたてほやほやのままです。むしろ当時より、全然使ってない分、キャパは有り余ってます。知らないは単純に怠惰なだけです。とりあえず、僕の言う人物は、性格を含めて、全部覚えてもらいます。そんな顔しても、だめですよ。飛鳥がそのぐらいできることは把握済です。僕を舐めないで貰えますか?」
ホント、心が筒抜けってのは、やり辛い。こっちがそんな風に思ってると気づく前に僕の気持ちを先読みされるんだからな。
しかし、本当にコレ覚えるのか?こいつが並べてるのだけでも結構な数だぞ。パーティまで、3時間ちょい。絶対無理だ。
「分かってないですね。無理なことはさせません。フフフ。あんまりわがままなら、サンジェルマン伯爵方式で覚えてもらいましょうかねぇ。おや?随分やる気になったみたいじゃないですか?始めっからそうして下さいよ。さ、サクサクやりましょうか。善にぶたれるの、蓮華さんと変わらないですからね。」
冗談じゃない。
フランス語を、サンジェルマンに叩き込まれた時のトラウマを思い出して、僕はゾッとした。
文字通り、短期間に叩き込まれた僕は、未だに奴の前に立つと、震えるのを抑えるのに苦労してる。
こいつなら、平気で同じことをやりそうだ、僕は必死でデータを頭に叩きこむことに集中した。
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