奴隷2
7話 奴隷2
長い夜が始まった。
茂みから出た俺は、見張りとの戦闘を避ける為家の裏から壁を登ることにした。こいつらの住処はそこそこの城くらいの大きさがある。だから俺は縄の先端に重りを取り付け、2階のバルコニーの手すりにくくりつけた。何回か引っ張りちゃんと登れる事を確認し、縄をつたって壁を登り始めた。
明かりが全て消えたのを確認してから侵入を始めたため、バルコニーにも人はいないだろう。窓を割って入るより目立たないし、こちらの方がいいはずだ。そう思っていたのだが......
バルコニーには、一人の女が立っていた。真っ白なドレスに身を包んだ、いかにもお姫様と言った感じの女だ。失敗した。恐らくたまたま目が覚めて風にでも当たりに来たのだろう。まあ物音は立てていなかったのでまだバレてはいないと思うが、このまま登っていけばいずれ必ずバレてしまうだろう。一旦下へと降りてあの女が部屋に戻るのを待とう。
そして俺は身を隠していた茂みへと戻り、しばらくバルコニーの様子を観察し続けた。
だが、あの女は一向に部屋に戻らない。戻ろうとする気配もない。何を考えているのかは知らないが、全く迷惑な話だ。夜中の2時を過ぎてもずっと空を見つめたまま動こうとしない。今日は諦めて、明日にまた殺りにくるか……?
いや、それは出来ない。また明日もオーガ達はあのゴミ共に酷い事をされる。多少強硬手段になっても救い出さなければ。あの女に気づかれたところで騒ぎ出す前に殺してまえば問題はない。オーガ達を苦しめた者たちの家族だというのならば、やつを罰する理由には十分だ。
そう考え、俺は再び茂みを出て縄で壁を登った。バルコニーまで辿り着くと、すぐに女と目があった。だが所詮は武装もしていない、しかも女だ。負けるはずがない。だが、その慢心が一瞬反応を遅らせてしまった。
下からは見えなかったが、女は腰に剣を携え、いつでも抜ける体制をとっていたのだ。こいつはお姫様なんかじゃない。体型もよく見れば引き締まっている。日頃から体を動かし続けていなければ、あの体型は維持できないだろう。恐らくこいつは、あの成金貴族どもに雇われた傭兵か勇者だ。
そして女は俺がバルコニーに登って着地しようとした瞬間、こちらより早く剣を振り首を目がけて刃を通そうとしてきた。咄嗟に身を翻して避けたが、少し刃が首にかすり、血が垂れる。もう少し避けるのが遅ければ、首を跳ねられ殺されていただろう。
俺は少し距離をとり、腰につけていたダガーを2本構え、臨戦する姿勢を見せた。すると、女はこちらに語りかけてきた。
「なんだ。少しはやるじゃないか。城の裏から忍び込んでくるようなちんけな魔族にしては大した反射神経だ。おかげで楽しめそうだよ」
女はかなり余裕な様子だ。きっと戦い慣れているのだろう。あの余裕そうな目を見ていると、こちらに勝ち目はないのではないかとさえ思えてくる。
だが、このバルコニーは月の光しか明かりはなく、かなり視界が悪い。普段から夜に活動することの多い俺たち魔族には慣れた視界だが、あちらは相当戦い辛いはずだ。
「ああ、もしかして視界悪いから俺の方が有利。とか思ってる?この暗さはただのハンデだよ。こうでもしないと実力差ですぐ終わっちまうだろ?だからまあ、せいぜい本気でかかってこいよ」
随分な自信だな。
心ではそう思ったが、口にはしない。そうやって女が余裕そうにこちらに話しかけている間にも、俺はこいつを殺す準備に取り掛かっている。
この女の慢心が産むであろう隙を、存分に利用させてもらうとしよう。




