壊された安寧4
35話 壊された安寧4
欲しい。力が。お父さんとお母さんを殺したあいつを……殺せるだけの、力が……
本来、魔族の魔力というのは誰にでも宿る物じゃない。それは、力を激しく求めた者にのみ、呼応するように発生する。今までどおりの日常を繰り返すなかでは、絶対に生まれる事はない力だ。
だが私のその殺意は、とある魔力を発生させた。
発生した能力の詳細は、まるで元から体の中にあったかのようにはっきりと分かった。
「……よし」
男は、まだ隣の部屋にいる。不意をつけば、今の私なら簡単に男を殺せるはずだ。
私はベッドの下から出て、男の鎧から落ちた血に手を触れた。
すると、その血は床から剥がれ、空中に浮き上がった。
それを使い、窓から見ていたナツの首を跳ね飛ばした者の剣を、血で形作っていく。だが、それには下に落ちていた血の量では足りず、まだ、柄の部分しか出来ていない。
「もっと……血を、足さないと……」
私は部屋にあったカッターで、自分の腕を切り裂いた。
「……」
腕からは血が流れ、血管がドクドクと波打っているのが、より鮮明に分かった。
でも、不思議と痛みは感じない。この時の私には、そんな痛みを感じられるほどの余裕はなかった。
「これで……」
自分の血で足りない部分を足し、一つの剣を作成することに成功した。きっと、これならあの男の鎧も上から貫けるはずだ。
私は音を立てないよう部屋を出て、扉が空いている隣の部屋を覗いた。
男は、こちらに背を向けている。背後からこの剣を飛ばせば、気づかれずに殺せる。
私は部屋の前から、男の心臓を目掛けて剣を飛ばした。
あと、30センチ、20センチ。男までの距離が近づいて行く。こちらには、まだ気づいていない。
「やった……」
もう、剣が男の体に触れる。絶対に殺せた。そう思った瞬間、男は右に跳んだ。
すんでのところで私の剣を避け、獣のような眼光で、こちらを向く。
「おお。そこにいたのか。中々可愛いじゃねえか。貴族のとこに売り飛ばせば、いい金になりそうだ」
男は咄嗟に腰に付けていた剣を抜き、こちらに向けて構えた。
当然私は、応戦する。壁に突き刺さった剣を手元に戻し、その場に浮かせて臨戦態勢をとった。
「触れたものを操る。おおかたそんな感じの能力か。中々エグい能力だが、所詮は不意打ち特化のネタ能力だ。ネタが割れてしまえば、大したもんじゃねえ」
男に視線を向けられてから、体の震えが止まらない。それは恐怖心か、それとも憎しみ故か、分からない。ただお父さんとお母さんが勝てなかった相手に、自分が勝てるとは、到底思えなかった。
(でも……)
だがそれでも、負けるわけにはいかない。お父さんを、お母さんを、そしてナツを。私から全てを奪ったこの男にだけは、絶対に……。




